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63話 盗賊脱獄①


―おい、なにか騒がしくないか?―


「ん?ほんとだ」



図書館内、隠し部屋。禁忌魔術を調べるためそこに赴いていた竜崎は確認がてらに外に出る。見られないよう細心の注意を払い、人がいる場所まで移動した。




「どうしたんですか?」


そして見つけた、何故か慌てている司書に声をかけると、相手はようやく見つけたと言わんばかりに目を輝かせた。



「リュウザキ様、どこにおられたんですか!?いくら探しても見つかりませんでしたのに!」



「すみません、ちょっと奥の方に…。なにがあったんですか?」



その尋常ではない様子に、竜崎は気を改める。司書は、その内容を明らかにした。





「それが…!監獄に捕らえられていた犯罪者達が脱獄したんです!そして一部が看守達を人質にとり、リュウザキ様を呼んでくるようにと!」



「なんですって!?」








場所は変わり、アリシャバージル監獄。そこを包囲するように展開していた騎士の1人が、内部へと勧告を行う。



「抵抗しても無駄だ!今すぐ人質を解放しろ!既に逃げ出した連中は他の騎士が追っている!」



「うるせえ! さっさとリュウザキのヤロウを呼んで来いやァ!」




しかし返答は、その一点張り。唯一逃げ出せた看守の報告によると、人質の中には大怪我を負わされた者もいるらしく、現場の苛立ちは増すばかりだった。




―と、そんな時であった。




「遅くなりました。事情は聞いております」



「「「おぉ…!! リュウザキ様…!!」」」



その場に急ぎ到着した竜崎。兵達は安堵の息を漏らした。彼が来てくれたならば解決同然、そう言わんばかりに。






「来たな、リュウザキ…! 武器になるもの全て置いて入ってこい!」



それと同時に、目ざとく竜崎を見つけた籠城主、大頭(おおかしら)はそう叫ぶ。不安気な兵達を落ち着かせ、監獄内から見えやすい位置についた竜崎は荷物を捨てていく。



ローブを脱ぎ捨て、腰に着けていた精霊石の袋を捨て、杖が入った小物入れを捨て…。あっという間に彼は中に着ていた薄手の私服のみとなった。



「これでいいかい?」


「まだだ。上は全部脱げ、下は…そのままでいい。野郎の()()なんて見たくはないからな」



下卑た笑い声を無視し、竜崎は抵抗なく上を脱ぐ。…しかしその身の腹部辺りには…おぞましさすら感じられる真っ黒な呪印が刻まれていた。



「なんだ、その、変な紋様は…?」



見たこともないそれに、少し竦んだような大頭。一方の竜崎は軽ーく肩を竦めた。



「昔の名残だよ、消せないんだ。 …入るよ」



そして両手を上げ、一人で監獄へと入っていく竜崎。そんな彼を、騎士達は見送るしかなかった。







「こっちに来やがれ」


中に控えていた盗賊仲間に剣を突きつけられ、竜崎は降参したまま身を任せる。歩かされながら周りを見てみると、牢獄全ての鍵が壊され、誰もいなくなっている。



「他に捕まっていた人達はどうしたんだい?」



竜崎のその質問に答えることなく、盗賊は剣を彼の喉元に近づけた。 黙れ、と事らしい。 それ以上問う事もなく、竜崎は監獄内を進むのであった。







「来たか、リュウザキィ!」



とある看守部屋。そこには竜崎も見覚えがあるオーガ族の大男、通称『大頭』が座って待っていた。嫌がる女看守を幾人か無理に侍らせながら。



囚われた看守兵は根こそぎ近くの牢に投げ込まれ、一部は鬱憤晴らしと言わんばかりに殴られたらしく、痛々しい青あざまみれで声も出せずに横たわっていた。




流石にこれを無視することはできず、無茶を承知で治療の許可を頼んでみる竜崎。すると、意外な答えが返ってきた。



「好きにしろ」



ニヤニヤと笑う大頭。何を企んでいるのかを訝しみながらも、竜崎は応急処置のため牢に入っていった。







怪我をした看守一人一人を励ましながら、彼は治癒魔術をかけていく。怪我人の数は多いものの、幸いにして死ぬほどの怪我を負っている者はいなかった。



そして治療が一段落した頃合い。竜崎の背後についていた盗賊が、手にした剣で叩くかのように促した。


「終わったのなら出ろ」





…てっきり牢に閉じ込められると思っていたのだが、これまた違う。 盗賊達が何をしたいのかがわからないまま、再度看守部屋の大頭の前に戻される竜崎。




―何が目的なんだ?―



その不可解な行動に耐え切れなくなったのだろう。黙っていたニアロンが顔を出し、苛つきながら問う。だがそれを聞いても、盗賊達はにやつくだけだった。



「おい」


「へい」




大頭が指示を出し、盗賊の一人がどこかへ消えていく。彼は直ぐに戻ってきて、耳打ちをする。すると大頭は、いかにも悪そうな笑みを浮かべた。




「なあ、リュウザキ。お前がここに来てから、どのくらい経った?」



「…? 30分ぐらいじゃないか…?」



眉を潜めながらも答える竜崎。 すると…大頭は、ざまあみろとばかりにあざ笑った。



「俺の目的はお前を暫くの間ここに留めておくこと。そして充分時間は稼げたんだよ!」













遡ること30分前、竜崎が監獄内に入った頃。アリシャバージルの騎士や兵達は、逃げた盗賊連中を追っていた。



つい先日捕まった盗賊達に加え、元々捕まっていた犯罪者合わせ脱獄者は総数200人ほど。中々の人数だが、武装した自分達に敵うはずがない。彼らはそう自負していた。




そして…既に先を逃げる盗賊達を遠目に捉えるまでには迫ってもいた。確保も目前である。





「野郎ども、森へ駈け込め!」



次々に森へと姿を消す盗賊達。流石に入り組んだ森の中に入られると捕まえるのが難しくなる。馬を速度を上げる騎士達だったが、妨害が入った。




「フゴッ!フゴッ!」



「なにっ…!!」



盗賊達と入れ替わるように森から飛び出してきたのは、なんと魔猪。しかもこの辺りでは見ない、牛並みの巨大さである。



しかも一匹ではない、次から次へと現れ、その総数は50匹を超えるほど。そして、統率された軍隊のようにズシリズシリと進んでくるではないか。回避が間に合わなかった騎士達は、馬ごと飲み込まれてしまった。



「馬鹿な、『学園』からの報告では巨大な奴はいないと…!」



「くっ…!怯むな!かつての戦争経験者ならばこれぐらいは日常茶飯事であったろう!急ぎ脱獄者共を追え!」





兵を鼓舞し、なんとか任務を遂行しようとする騎士。しかし上手くはいかない。魔猪達は鈍重な動きながらも的確に騎士の隊列を乱し、各個撃破を行ってくる。


なんとか抜けた騎士達は急いで森に入ろうとするが、それもまた、叶わなかった。





バキ…バキメキバキ!





木々を押し倒し、現れたのは機動鎧。そしてなんと、搭乗しているのは逃げたはずの盗賊達ではないか。



前門は人力ゴーレム、後門は巨大魔猪。逃げ場はなく…残された彼らも、あっという間に吹き飛ばされてしまった。




「このまま『学園』に向かうぞ!」


「「「ウオォオオオッッ!!!」」」




大頭部下の号令、そして盗賊達の雄叫びが響く。地面に倒れこむ騎士達を背に、彼らは魔猪を従え、ガシャンガシャンと駆動音を立てながら王都アリシャバージルに舞い戻っていった。








200台の機動鎧と50匹の獰猛な巨大魔猪達の強襲には、成す術もない。防衛の兵も、門も、いとも簡単に破られ、街中に侵入を許してしまった。




「なんだぁ…!? ひぃっ!!? 魔猪の群れだ!!」


「逃げろ!」



人々は逃げ惑う。だが盗賊達はそれに目をくれることなく、火事場泥棒をするでもなく、一直線に学園へと向かっていった。










「ふぅー!美味しかった!」


「朝からケーキって…美味しかったけど」


「だってあれ、一日20個の限定品だからすぐに売り切れちゃうんだもん!」


「確かに…あの時間に行ってギリギリだったね…」




目的の品を食べれてお腹いっぱいなネリー、モカ、アイナ、さくらの4人。仲良し4人組な彼女達は、街から学園へと帰る途中であった。



すると、その背後から……。





ドドドドドドド…





音と共に砂煙が立ち、何かが迫ってくる。周囲の人は慌てて近場の路地や店に逃げ込み、さくら達はポツンと取り残された。



「何か来てるね…」


「嫌な予感がするんだけど…」



そう言いあい、それぞれ武器を構えるさくら達。だが、見えてきたのは――。




「「「「魔猪!?!?」」」」







しかも、以前みたいに一匹だけではない。何十匹もの巨大猪が店先を破壊しながら接近してくる。


当然、敵うわけないと4人とも回れ右。学園に避難するため走り出した。






―しかし怒涛の勢いで迫る魔猪達を突き放すことができず、徐々に距離は狭まる。さくらは時間を稼ぐため、魔術を詠唱した。




「建物を燃やさないように…火よ起きて!」




ボウッと地面が燃え、魔猪の行く手を阻む―。 …ことはできなかった。まるで何かに憑りつかれたかのような獣達は、足が焦げるのを厭わずに駆け抜けてくるのだ。



「嘘でしょ…!?」


「急いで!早く!」




こうなったら全力で逃げるしかない。必死に走って走って、さくら達はなんとか学園の門をくぐった。



「痛っ!」



―しかし、ネリーだけが、足をもつらせ転んでしまう。それを急いで助けあげている間に、魔猪の群れは目の前まで。



更に、その後ろから機動鎧の大軍までやって来ているではないか。もはやこれまで、さくらは友達を守るため、破れかぶれにラケットを引き抜き、震える足で構えるのであった。












「というわけだ。今学園は教員が出払っているというのも聞いた。いくら『力あり』とはいっても、あの大群を相手では手も足もでないだろう。今頃学園は蹂躙され阿鼻叫喚になっているだろうな!」




大爆笑する大頭(おおかしら)達。竜崎は驚いた顔のまま固まっていた。



「どうした?声も出ないか?伝説に名を残すお前がいなければ学園も脆い。愛する生徒達が無残に凌辱され殺されるのをここで待っているがいいさ!」



やはり声を出せない竜崎。そんな彼の心を代弁するように、ニアロンが口を開いた。




―おい、清人。こいつら馬鹿か?―




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