62話 事件、発生
またまたあくる日。虹色の花を見つけた次の日。
さくらはいつも通り学園に。 するとそこで、ある違和感に気づいた。
「…なんか先生の数、少なくありません?」
彼女が気づいた通り、教員の数が普段よりかなり少ないのだ。傍にいた竜崎が、答えてくれた。
「昨日の機動鎧盗難事件がちょっと大きくなっちゃったんだ。結局盗まれた鎧が全部行方知れずでね、空いている先生も参加しての大捜索中なんだよ」
授業は平常通りやれるから安心してね。と竜崎は言うが…そもそも元の世界の学校と違って、取る授業は自由、最悪テストさえクリアすれば良いこの学園。 あんまり気にはならない。
それにさくら自身は仮在籍のようなものというのもあり―、彼女はそれよりも機動鎧を盗んだ盗賊の方に興味があった。
「もし、私とメスト先輩が捕まえた盗賊達のような人が現れても、倒すお手伝いしますよ!」
ふんす、と鼻息強めで意気込むさくら。この前のメストのようにかっこよく闘ってみたかったのだ。そんな蛮勇を示すさくらに竜崎は微笑む。
「この前捕まえてくれた盗賊は3派に別れている盗賊団だったみたいでね。全員捕まえたからもう問題ないよ。別の盗賊が出たらお願いしようかな」
「そうですかー。…ん?」
あれ? その内の一つは竜崎さんが捕えたって、この間の盗賊達は口走っていたけど…。もう一隊はいつ捕まったのだろう? 誰かがやっつけたのかな…?
はてな、と首を捻るさくら。 そこにぶつかるように、ネリーが背中にくっついてきた。
「さくらちゃん! 朝ケーキ食べに行こ!」
早速浪費をするらしい。後から追いかけてきたモカとアイナも共に、竜崎に見送られながら街へと繰り出した。
「さて、今の内にっと」
さくらが見えなくなったのを確認し、竜崎は機動鎧盗難について王宮から届いた報告書を手に、図書館へ向かう。
着いた場所は様々な魔術が記された魔導書が保管されているエリア。危険なため、限られた人々にしか解放されていない特区である。
目ぼしい魔導書を数冊引っ張り出し、それを1ページ1ページめくりながら探していく。その間にニアロンが報告書の一節を確認するように読み上げた。
―『鎧を移動させた痕跡は全て途中で途絶え、元から無かったかのように消え失せていた。まるで転移させたかのように』か。考えられるのは浮遊魔術か転移魔術だが…―
それをしっかり聞きつつも、竜崎は魔導書から目を離さずに答えた。
「浮遊魔術だとしたら、同時多発的に起きた実状を考えると複数犯だろう。…だけど、これだけ被害があるのに浮いた瞬間や音を見た聞いたという証言はない。中には数秒目を離しただけで消えていたという報告もある、恐らく違う気がするな」
―となると転移魔術だな。しかし、そっちのほうが普通は考えられないが―
「あぁ。近距離移動でも、消費する魔力の量は莫大だ。最大で、一度に人千人分の魔力を消費する。それに転移先の固定を精確に行わなければ、成功しても半身のみ引きちぎられて転移してしまったり、空間の狭間に塵となって消えたりする可能性すらもある。 …まあその場合、発動すらできないんだけど」
パタンと本の一冊を閉じ、別の本を開く竜崎。そのまま言葉を続けた。
「だから国が管理し、安全のため転移先との示し合わせがいる。賢者様ですら、出来て単身移動だろう。それなのに…複数の地点に自由に現れ、機動鎧ごと転移できる奴なんて聞いたことがない」
―目的もわからん。なんでわざわざ使い古した機動鎧を? 確かに元が高いから、古くてもそれなりの金になるが…。金品を奪った方が簡単だろうに―
頭を悩ますニアロン。そんな彼女に竜崎は一つ、質問をした。
「その理由はさておき、仮に自由に扱える転移魔術があるとしたら?」
それに、彼女は至極当然のように答えた。
―こんなところの魔導書に載っている魔術では到底無理だろう。あり得るのは『禁忌魔術』だ―
「だろうな。とりあえずあの部屋に行くか。全ての禁忌魔術を回収できたわけではない、誰かが使っている可能性もある。ヒントでもあればいいんだが…」
立ち上がり本を片付けた竜崎は、そのまま誰にも見られぬように隠し部屋へ向かっていった。
…時同じくして、アリシャバージル監獄内。何もない場所から誰かが出てくる。薄汚れたローブを着たその人物は、見回りの看守を次々と昏倒させ、とある牢前で足を止める。
「なんだお前…?」
その牢の中にいた囚人…先日竜崎に捕らえられた盗賊一味の長、オーガ族の『大頭』が、顔を顰める。 すると、謎の人物はふっと手を伸ばした。
「お前達に一波乱起こしてもらおう」
「ハァ? 何を言って…うっ…!?」
牢内の大頭は急に倒れる。そして起き上がった彼の目は…かつて魔界のとある村で発生した生贄事件、その犯人ベルンと同じような、洗脳された目をしていた。
バキンッ バキンッ バキンッ
それと同時に、突然監獄全体から謎の音が聞こえる。まるで金属が…錠前が割れるような異音。看守部屋に待機していた兵は訝しんだ。
「なんだぁ?」
「気を抜くな、先日の奇襲の件もある。見回りにいくぞ」
…だが、彼らが看守部屋から出ることは叶わなかった。扉を開けた瞬間、勢いよく押し込んできたのは閉じ込めていたはずの囚人達。そして、一切の抵抗する間もなく袋叩きに合ってしまった。
「ハッ! ざまあねえな!」
その中にズシャリと入って来たのは、大頭。彼は苦しむ看守を踏みつけつつ椅子に腰かけると、周囲の部下に指示を飛ばした。
「あいつの手筈通りに、森へ急げ!」
一斉に駆け出していく部下の盗賊、そして他の囚人達。
数人だけを手元に残した大頭は、1人だけ無事に残した看守を吊り上げこう言い放った。
「おい、リュウザキのクソ野郎を呼んでこい」




