61話 兆候
「メルティ先生ありがとう!買い取ってもらえないところだった!」
以前の狼退治より多い報酬を手に、胸をなでおろすネリー達。ちょっとひと騒動あったのだ。
先程採った虹色の花を買い取り屋に渡すと、怪訝な顔で泥棒してないかだの違法栽培してないかだの聞かれ、危うく買い取り拒否されるところだったのだ。
その際メルティ―ソンが判を押してくれなければ、骨折り損のくたびれ儲けだけで済まず、しょっ引かれるかもしれないところだったのである。
「こんな簡単にお金稼げるなんて…!」
「まだ奥の方に生えているかも!」
…一度欲が出たら止められない。味を占めた男子達とネリーは、メルティ―ソンの止める声を聞かずクエスト再受注のために学園に走っていった。
―が…。
「えー!」
「そんなぁ…!」
彼らの足は、学園入口で止まってしまった。そこには諸々の伝達事項が書かれている掲示板があり、新たに貼り出された紙に衝撃的なことが書かれていたからだ。
茫然と立ち尽くすネリー達の元へさくら達も追いつき、その内容を確認してみる。なんと…!
「『暫くの間、生徒が森へ入ることを禁止』…!?」
突然の告知に驚かざるを得ない。だって先程まで何も問題が無かったのに…。
「まさか…さっきの花を取ったからですか?」
察したアイナがメルティ―ソンに問う。しかし、彼女は否定した。ただし若干含みがあったが。
念のためクエスト掲示板も見に行ったが、やはり森へ入る系の依頼は全て剥がされ片付けられていた。
とはいえ諦めきれない男子達とネリー。するとそこに、メルティ―ソンが脅しをかけてきた。
「皆さん充分稼いだみたいですから…今回はこれで終わりにしませんか? あまり欲を出すとさっきみたいな目に合うかもしれませんし…」
その一言で先程の蜂騒動を思い出したのか、ブルルッと体を震わす男子達。あの場は丁度グレミリオ達が介入してくれたから何とかなったものの、本来だったらどうなっていたことか。
一瞬にして正気に戻ったらしく、彼らは彼女の忠言に従い、お金を手に帰っていった。
ふぅ…と息をつき、職員室へ戻ろうとするメルティ―ソン。すると、モカが並んで歩きつつ、こう切り出した。
「…メルティ―ソン先生。あのお花、確か危険指定でしたよね。しかも魔界奥地にしか自生せず、人界側で栽培を成功した例はないって…」
その言葉に、さくら達は目を丸くし顔を合わせる。 メルティ―ソンはちょっと迷いながらも、こくりと頷いた。
「モカさん、よく勉強されているようで何よりです。はい…その通りです。あの花には動物を巨大化させる効能もあります…」
そこで一旦言葉を切ったメルティ―ソン。そして、少し不安そうに続けた。
「もし…あの花の影響で大量の巨大魔猪が発生していたら、並大抵の生徒では太刀打ちできません…。それを案じて、森への侵入を禁止した次第だと思います」
そんな危険な花だったとは…。買い取り拒否されるのもわかる気がするさくらであった。
そんな話を聞いている間に、職員室に到着していた。 さくら達がふと覗いてみると、教員達の幾人かがガチャガチャと武器を引っ張り出し、出撃準備を整えているではないか。
何事…? そう訝しんでいる間に、メルティ―ソンは職員室内にいたグレミリオに報告に向かう。さくら達もそれに付き添った。
「グレミリオ先生、戻りました」
「メルティちゃんありがとね~。どうだったかしらん?」
「最近あの花を売りに来た人物は界隈ではいないと。一応何かあったら連絡をしてもらうように取り計らってきました」
どうやらメルティ―ソン、さくら達が大金を前にうほうほ行っている間に、買い取り業者と何か話していたらしい。それを聞いたグレミリオはふぅと息を吐いた。
「そう…。 なら、あとは待つだけね」
「はい。…ところで、この騒ぎはなんでしょうか…?」
周囲の物々しい様子に、心配そうな顔になるメルティ―ソン。それはさくら達も気になっていた。いつもの落ち着いた雰囲気はどこへやらなのだから。グレミリオは腕を組みつつ答えた。
「実はアリシャバージル領内そこかしこで機動鎧が盗まれているみたいでね、騎士さん方も人手不足みたいで。 森の調査は手すきの職員総がかりで行くしかないのよ」
中々に大事になっている―! 少し身を怯えさせてしまうさくら達。と、そこに竜崎が入ってきた。
「戻りました」
「リュウザキちゃん、どう?」
グレミリオにそう問われた彼は、残念そうに首を振った。
「駄目です。調査隊もほとんど騎士の付き添いか別案件に行っているらしくて、人手は碌に借りれなさそうです」
「仕方ないわねぇ…。なら、召喚術士総動員でいきましょう」
よいせと立ち上がるグレミリオ。 そこで、さくらは手を挙げた。
「私も行きます!」
精霊術なら少しは。それにさっき花を見つけたのは自分だし。そう考えての行動であった。…しかし、竜崎は許さなかった。
「何があるかわからないから駄目」
未だに私を信用してくれてないのかと、頬を膨らませるさくら。代わりにニアロンが別件を頼んだ。
―そうだな…。なら、代わりにソフィアの奴に機動鎧盗難の件を伝えてきてくれ―
「体よく追い払われた気がする…」
「しょうがないよ、さくらちゃん」
アイナ達に宥められながら、さくらは仕方なしに工房へと。
「あ、さくらさん!いらっしゃい!」
そんな彼女達を迎えてくれたのは、ソフィアの娘マリア。さくらがソフィアの所在を聞くと…。
「お母さんはさっき王宮からの依頼で調査隊に、急ぎらしくて理由聞けなかったんですよね」
そう首を捻るマリア。さくらは、彼女に機動鎧盗難の件を伝えた。
「そんなことが……! でも、多分大丈夫ですよ!」
謎に自信満々なマリア。胸を張り、語り始めた。
「今私達が売っている機動鎧はあくまで農業等の力仕事用です。なので装甲はかなり薄く、できることも農具を握れる程度です。変な機能をつけるとお値段も高くなりますしね!」
にししと笑う彼女。そして続けた。
「まあ使いようによっては人力のゴーレムや鎧みたいに使えますけど…大きくて重い物ですから簡単に持ち去ることはできませんし、すぐにみつかりますよ!」
それより、依頼されている杖のことなんですが…いまいち目途が立ってなくて…。 と、話を変えるマリア。 あんまり気にしていないようである。
暫く後、場所は変わり学園。職員室での教員会議。 その場には竜崎達教師陣、そして学園の各職員達が神妙な面持ちで座っていた。
「報告を」
「はい。精霊や召喚獣、ゴーレムを総動員して森を見回りましたが、あの場所以外に花の栽培地はなく、巨大魔猪も見つかりませんでした」
「薬草業者からも今のところ犯人らしき人物は来ていないと…」
学園長の合図で、竜崎とメルティ―ソンが報告する。教員達はホッと胸を撫でおろした。
「偶然生えただけですかね…?」
誰かが発した、そんな楽観的な言葉。 しかし、とある老教師が忠告を加えた。
「いいや、あれは人の手が入っておるでな。土も魔界の物が使われ、環境も調整された魔術痕があった。犯人が何者かはわからぬが、よほど魔術に精通している者が関わっているのは確かでしょうよ」
今度は一転、ざわつく。学園長はそれを諫めるように号令をかけた。
「当面は警戒を強化したままで。様子見を続けます。各員、気を抜かぬように」
その背がピシリとただされるかのような声に、皆は揃って返事をする。 続いて、伝書鳥担当の職員が発言した。
「機動鎧盗難事件で王宮からのご報告がございます。犯人捜しに『発明家』様、『賢者』様もご参加なされましたが…結局犯人の足取りが掴めず、鎧自体の痕跡もパタリと消えてしまったようです」
それを聞き、学園長は溜息をつおた。
「立て続けに…。せめて二つの事件が関わっていないことを祈るしかなさそうね…」
更に場所は変わる。今度は森の中、先程まで虹色の花が生えていた地点。
そこへ、不意に人影が現れる。纏っているのは以前『観測者達』の一人がみた謎の人物と同じ、薄汚れたローブであった。
「チッ…忌々しい。機動鎧を盗みに行っている間に盗られるとは…。まあいい、どうせ実験の残り物だ。必要な分は魔界から採ってくればいい」
人影はそう言い残し、ゆらりとどこかに消えていったのであった。




