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60話 召喚術・使役術講師グレミリオ



「自分で対処できないなら奥深くに行かないの。何かあったら親御さん悲しんじゃうわよォ」



腕を組みながらそう諭す彼女、もとい彼はグレミリオ・ハーリー。学園の講師の1人である。



本人曰く召喚術講師らしいが、今使った魔術はどうみても召喚術ではない。それを証拠に、あれだけ猛っていた蜂達は、今やグレミリオに指示を待つようにふわふわと飛び続けていた。




「グレミリオ先生、突然走り出してどうしたんですか…?」


―と、草を掻き分け、現れたのはメルティ―ソン。グレミリオと同じく召喚術講師の女性である。そしてその手に持った籠には、沢山の薬草が入っていた。





「先生方も薬草摘みのクエストですか?」


「あらぁん、違うわよ。使役術の授業に使うお団子用の薬草集め。買うと意外と高いのよね」


「…使役術?」



グレミリオの返答に、前にメルティ―ソンから聞いたことを思い出すさくら。使役術、確か召喚術の応用版だった気が…。




「えっと…使役術というのは、召喚で呼び出した獣だけではなく、その場にいる魔物も手懐ける術なんです…。慣れない人はテイム用のアイテムが必須でして…。そしてグレミリオ先生はその使役術のエキスパートでもあるんです」



「やだぁ、メルティちゃんあんまり持ち上げないでぇ! 恥ずかしいわぁ」




メルティ―ソンの解説に身をくねらせながら照れるグレミリオ。


先程蜂を鎮めたのは、その使役術とやららしい。あんな大群を一瞬で自分の配下に置くとは、使役術恐るべし。







「それで、蜂を怒らせたのはどっちかしらん?」


グレミリオの問いかけに答えるように、ネリーは男子を睨みつける。彼らは仕方なしに手を挙げた。



「何をしたんですか…?」


「売れる果物を見つけて…取ろうと木に昇ったらハチの巣を蹴り落としちゃいました…」



メルティ―ソンの優しい問いかけに、おずおずと詳細を伝える男子生徒達。するとグレミリオはやれやれと肩を竦めた。



「それは怒っちゃうわね、家を壊されたんだもの。じゃ、その場所に案内してちょうだいな」






壊れた蜂の巣をどうする気なのだろう。男子達は訝しみながらも彼を案内する。さくら達もそれに続いてみた。…その背後から蜂の大群が付いてくるのがとんでもなく気になるが。





「あらぁーこれは盛大に壊したわねぇ!」



到着した先、木の下に落ちていたのは、綺麗に真っ二つになった蜂の巣。これでは蜂が怒って襲ってくるのもわかる気がする。



するとグレミリオは、妙な言葉を口にした。



「じゃ、簡単に直しちゃいましょ!」








メルティ―ソン以外の者達…さくら達の頭に?マークが浮かぶ中、さらっと詠唱するグレミリオ。魔法陣をつくり、何かを呼び出した。




ウワワン、ウワワンッ



「「「ひっ…!?」」」




なんと、大量に現れたのは同じような蜂の大群。ネリーや男子は思わず悲鳴をあげ、メルティ―ソンの後ろへと隠れた。




さくらも正直隠れたかったが…グレミリオが手助けを欲し、本来その役目を買って出そうなメルティ―ソンが皆に掴まれて動けなくなっている。



アイナもビビっている様子で、モカも耳と尻尾が潰れている状態なため、仕方なしに恐る恐る協力を申し出た。





「そう、そっち持って…このまま動かないで」



グレミリオとさくら、2人がかりで割れた巣をぴったり合わせる。すると、そこにグレミリオが呼び出した蜂が群がりだしたではないか。



手に時たま触れる蜂の感触に全身鳥肌が立つさくらだったが、ここで落としてしまったら元の木阿弥。口内を噛んで気を保った。





体感、5分ほど経っただろうか。もっと短かった可能性はあるが…。 気づけば群がっていた蜂は離れ、魔法陣の中に消えていった。



「うん、オッケーね。ありがとうさくらちゃん」



グレミリオの言葉にさくらが視線を下ろすと、蜂の巣は最初から割れていなかったようにぴったりとくっついていた。先程の蜂達が直していったらしい。




それを受け取り、魔法陣を階段状に配置して木の上へと昇っていくグレミリオ。元々蜂の巣があったであろう場所に魔術を施し、修理した蜂の巣をぶら下げた。



「これで良し、と! 魔力で無理やり止めただけだから、今の内に上から補強しちゃってねぇ」



彼はブンブンと飛んでいる蜂にそう伝える。蜂達はまるで理解しているように一斉に巣へと戻って補修作業を始めた。







その一連の行動に唖然とするさくら達。 そんな彼女達を余所に、グレミリオはスタリと着地する。



と、それと同時に何かを見つけたらしい。彼は地面へと身を屈ませた。




「あら、これは? …ちょっと色が変ね…」



地面に落ちた衝撃で中身が漏れたのだろう、そこには蜂蜜が少量こぼれていた。グレミリオはそれをひと掬い、捏ねたり匂いを嗅いだりしていたが…急にペロっと舐めた。




「…これは!?」



少し顔色が変わる彼、だがすぐに普段通りになった。そして、さくらへもう一つお願いをしてきた。



「さくらちゃん、もうちょっと協力してもらっていーい?精霊を何体か呼び出せるかしら?」





言われた通り、中位精霊を何体が呼び出すさくら。グレミリオとメルティ―ソンも、妖精を呼び出す。



「極彩色の花を探して欲しいの。この辺りには無いはずのドギツイ色した花だから、すぐわかると思うわ」



そんなグレミリオからの指示を受けた妖精精霊達は散開していく。 ―少しして、さくらが呼んだ精霊が戻ってきた。何か見つけたらしい。









「うわっ…毒々しい…」



精霊に連れられやってきた先。そこに生えていた花に、さくら達は顔を顰める。



少し人の手が入ったかのように感じられるその場には、気持ち悪くなるぐらいの色使いをした虹色の花が数十本ほど、そよそよと風を受けていたのだ。





「やっぱりあったわね…。これは魔界の薬草よォ。人界の在来生物に影響があると困るから、全部抜いちゃいましょう。 ち・な・み・に…一本でネリーちゃんが持っている花束以上の価値になるわぁ」



グレミリオからそれを聞いたネリー達は目を輝かせ、一目散に引き抜いていく。あっという間にその場は、土や雑草だけの空き地となってしまった。





「さ、帰りましょう!」



グレミリオの号令で全員揃って意気揚々と買い取り業者に向かっていく。これでしばらく遊んで暮らせると、子供たちはまだ交換していないのに使い道を話し合っていた。



それを見守るように数歩遅れて歩いていくグレミリオとメルティ―ソン。2人は、少々神妙な顔を浮かべていた。




「メルティちゃん」



「はい、グレミリオ先生」



「あの花、多分生えていたといっても買い取り業者が信じてくれないだろうから、ついていってあげてくれないかしらぁ? 下手すれば盗んできたと思われちゃうかも。その籠は私が貰うわ」



「わかりました。 そちらはお願いします」









任を受け、さくら達と共に街へと向かうメルティ―ソン。一方のグレミリオは、学園へと。




自分達の準備室に荷物を置き、足早にどこかへと。 その手に先程見つけたあの花の一本を持ち、道中竜崎を捕まえ、向かったところは学園長室だった。







「まさか、この花が森に…!?」


「そうなの。おかしいわよねぇ…」



グレミリオから報告を聞き、眉を潜める竜崎。学園長もまた、グレミリオから渡された極彩色の花を睨みながら唸っていた。



「この極彩色花は、魔界奥地に生える花。こちらでは自生が難しい…というより不可能に近いはずですが、誰かが植えて管理していたと?」





空気張り詰める学園長室内。そんな中、竜崎と一緒に眉を潜めていたニアロンは確認がてら花の効能をそらんじだした。



―その花の成分は取り扱い危険指定になるほどの強力な麻酔効果。そして副作用として…―



「催眠効果もある。特に動物には抜群の。魔術を全く使えない人でも手懐けられるわ」



そうグレミリオが引き継ぐ。さらに、学園長が付け加えた。



「そして摂取量が多ければ急激に、そして過度な発育を引き起こします。 …先日、メストちゃん達がこの辺りでは珍しい巨大魔猪を倒したと聞きました。まさか…」





各員、嫌な予感を共有するかのように頷き合う。 そして、グレミリオが口を開いた。



「学園長、一応警戒を呼び掛けるべきですわ。 誰かが売るためだけに勝手に栽培しているだけならば、まだマシなのでしょうけど…」



「えぇ。グレミリオ先生の仰る通りね。急ぎ教員達に周知させましょう。 クエスト受付の方にも連絡を入れておきます」




動き出す学園長。竜崎もそれに続いた。



「では私は、国王陛下と賢者様に伝達を。人を借りて周囲の捜索及び調査を行います」



「私もお手伝いするわ、リュウザキちゃん。 そうそう!さくらちゃんにお礼をしたいんだけど、彼女の好み、わかるかしらぁ?」



―この間、街角にあるあの店のケーキを食べたがっていたぞ―




そんな会話をしつつ、早速出向く竜崎達とグレミリオ。その2人を見送り、学園長は職員室へと。



「少しきな臭くなってきたわね…。なにも起きなければいいのだけど…」



そう言葉を漏らしながら―。




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