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51話 ただでは転ばない



「とはいえ投資資金は安くはないでしょう。他国の方々を招く娯楽施設となるならば、猶の事。どこかで調整をしなければいけませぬ。そこでリュウザキ様方、一つ仕事を頼ませてください」



策を了承してくれたドワーフ王、しかしちょっと思うことがあったのか、そんな提案を。それを、竜崎は快諾した。



「えぇ。私達にできることならば」










「それで…結局タダ働きですか?」


なんでそうなるのか…。さくらは不満顔を浮かべていた。



王が条件としたのは、竜崎達に無料で奉仕してもらうこと。竜崎はサラマンドの検査、ログは産出した鉱物の鑑定を仰せつかった。



さくらは有識者として、ロニの計画立案のお手伝いをすることに。ただし竜崎の取り計らいにより、さくらの分の報酬はしっかり出る取り決めとなったが。




「まあ傍から見たらロニは子供さらって廃坑に罠を仕掛けまくった危険人物だからね…。それを不問にして更に資金提供とか、間違いなく国民に後ろ指を指されちゃう。せめて私達がボランティアしてアピールをしなければ、今度は王様が矢面に立たされちゃうから」



竜崎はそうさくらを宥める。それに、ログも続いた。



「かの『リュウザキ様』が身をなげうってまでロニの計画を遂行させたとあれば、皆も安心してくれるでしょうしのぅ」



裏事情を読み取り、納得している教師2人に口をはさむわけにもいかない。さくらはぶー垂れるのを止めた。まあ、自分に任された仕事は報酬もでるし…。




と、竜崎はログに頭を下げた。


「しかし…すみません、ログ先生。巻き込んでしまって」



本当ならば、自分一人でその役を終わらせる気だったらしい。しかしログは、竜崎の謝罪を止めさせ、にこやかに微笑んだ。



「いえいえ。卒業生の新しき門出、祝いの花代わりといきましょう」












「つ…疲れたぁ~…」



夜になり、ようやくさくらは解放された。自分の知っていることや考えついたことを、ロニ達相手に粗方話したのだ。



例えば…「怪我の恐れがあるなら防具(ヘルメットとか)を貸し出し式にする」ことや「一度に入る人数を制限して恐怖感を煽る」こと、「コンセプトに合わせ係員の服装を揃える」ことなどなど…。勿論、装置の仕掛け仕組みとかも沢山。



今まで行ったテーマパークとかで見てきたことを、出来る限り頭から絞り出したのである。それをずっと目を輝かせながら聞いていたロニは、それを元に立案書をあっという間に作成。



詳細までしっかりと纏め上げられたそれにドワーフ王様も目を丸くし、晴れてGOサインが出たのだった。






「さくらちゃんありがとうっス!自分一人じゃここまで面白い計画はできなかったっスよ! まるで貴方も、リュウザキ先生と同じく異世界から来たみたいっスね!」



感極まったロニに手を握られブンブンと振られる。その台詞に、さくらは苦笑い。



「ここから先は任せてくださいっス!きっとさくらちゃんも驚くものに仕上げて見せますっス!」



そう胸をドンと叩くと、彼女は早速資材選びに走っていった。さっきまで喧々諤々と話し合っていたのに、力尽きる気配はなさそうである。





ダッシュで去っていくロニをそのまま見送り、さくらは仮拠点のある兵営へと戻ろうとする。と―。


「おや、さくらさん。今終わったところですかな?」


交代するように現れたのはログ。どうやら彼も、任された仕事は終わったようだ。



「ログさん。はい、さっき終わりました。王様からの許しも出ました!」


「それはそれは! お疲れ様です。どうですか、リュウザキ先生が来るまで少し休憩いたしましょう」





仮拠点に戻り、用意してもらった食事をとる。もう暑さにも慣れたし、疲れもあって火照った身に冷えたドリンクが美味しかった。



「そういえば…竜崎さんは今どこに?」


食事をしつつ、未だ帰ってきてなさそうな彼の所在を問う。するとログは、ひょいっと指さした。


「あそこにおりますぞ」



彼が指さした先は…近くの火山山頂。どうやらまだ仕事中という事らしい。



「この間のゴスタリアのサラマンド事件以降、火山を持つ国々は総じて不安がっております。故に、リュウザキ先生を調査隊として呼んだのでしょうな」



「なるほど…」



ログの解説に、さくらは頷く。あれを解決したのは自分達だとは勿論言えない。





そんな折、どやどやと誰かが帰ってくる音が。


「ログ先生、さくらさん、帰られていましたか」



それは、オカム含む調査隊メンバー。関係ない彼らにタダ仕事を頼むわけにいかず、さりとて勝手に帰るわけにはいかず自由行動となっていたのだ。



とはいえこれ幸いと街の方に出向いていたらしい。ドワーフの国を満喫し、新しい武器や防具を仕入れられてホクホク顔の彼らであだった。





―と、その時であった。






カンカンカンカン!



突如、警鐘が鳴りだす。次には、兵士の叫ぶ声。



「キメラ来襲! キメラ来襲! 各員、迎え撃て!」







一気に騒がしくなる兵営内。さくらはそれに軽く怯えつつ、眉を潜めた。


「き、キメラ?」


「古き魔界の魔術士共が作り出した魔獣ですぞ」



ログがそう説明してくれている間にも、帰ってきたばかりの調査隊メンバーは誰に命令されることなく装備を整え、次々と出撃していく。ようやくの出番だと言うように。



その様子にさくらがどうすべきか狼狽えていると、ログが宥めてくれた。


「さくらさんはここにいても構いませぬ。危険な相手ですからな」



そのまま調査隊の後を追おうとするログ。しかし、さくらは自らのラケットを掴み、それを追いかけた。



「私も行きます!」



せっかくロニとアトラクション設営計画を作り上げたのだ。そんな魔物に邪魔されたくはなかった。それに、竜崎が帰って来た時に胸を張りたかったのである。









「今回は数が多いぞ!」


「1匹も通すな!」



さくら達が着いた時には既に乱戦、ドワーフ兵士達は獅子の身体から複数の獣の首が伸びたような化物を相手どっていた。



「全員気を抜くな!」


隊長の号令により一斉にかかる調査隊。統制されたチームワークで一体、また一体と屠っていく。




「では、私も行きましょうかの」


ログは胸元からシガレットケースを取り出し、仕込んであった加工鉱物をキメラに向かって複数本投げつける。それに気づいた一匹が迎撃態勢をとるが、瞬時に視界から消えた。


「―!?」


困惑するキメラ。直線に飛んでくるはずの鉱物が、突如急カーブし、散開したのだ。



見失った隙に別の方向から再度飛んでくるが、流石は顔が複数あるキメラ。別の目で認識し、躱そうとする。


…だが、足元が見えていなかった。内一本が地を這うように接近、キメラの急所を貫く。その隙に他の鉱物も突き刺さり、キメラは息絶えた。



「まずは一匹と。さっさと森に帰ってくれれば良いのですがな」



一切その場を動くことなく、ケースをパチリと閉じながら呟くログ。さくらも、力にならなきゃと気合を入れ直した。



「ログさん。キメラって火を怖がりますか?」


「他の獣よりかは効果は薄いですが…充分に怖がりますぞ」



昨日の今日でどこまでやれるか…さくらは武器を構え、備え付けられた火の精霊石に祈り詠唱する。



すると、赤い魔法陣が輝き、火の中位精霊が召喚された。すかさず、命令を。




「お願い、キメラを追い払うのに力を貸して!」

「―!」



こくりと頷いた精霊。キメラの元に軽やかに近づき、炎を浴びせかけた。たまらず追い払おうと殴りかかるキメラだが、精霊はその間隙を縫うようにするりするりと回避していく。




いける―!そう確信をもったさくらは何度か精霊を召喚。都合5体ほど呼び出し、その全員を指揮下に置くことに成功した。



「キメラを帰らせて!」


さくらの指示に精霊達は一様に頷くと、揃って突撃。様々な方向からキメラを炙った。熱いがどう頑張っても空振るだけ、たまらなくなったキメラは森に逃げ帰った。



「やった!」



喜んださくらは、精霊達とハイタッチ。勿論火傷することなく。精霊術、大分上手くなってきたものである。







その後もさくら達は応戦し続ける。…しかしキメラの数が多い。何匹かは既に倒され、森へ逃げ帰ったが未だ相当数が残っている。


兵士達にも怪我人がちらほら出始め、さくらも少々疲れてきた。―そんな時だった。





ドスン!





突如、落石のような強い衝撃を伴い、どこからともなく何かが落ちてきた。



「グググググググ―。」



四方についた目をぎょろつかせ、現れたのは土の上位精霊、ノウム。落石のようなというか…本当に落岩であった。



そして、その横に、スタリと竜崎が着地してきた。


「ノウム、追い払ってくれ」



「グググググ―!」


主の命に鳴いたノウム。その巨大な4つ目がカッと見開かれたかと思うと、近場の石や岩が続々と浮き上がる。そして、キメラの大群に一斉に襲い掛かった。



「ギャウン!」

「フギャッ!」


苦しむ声をあげるキメラ達。打ち払おうとも、避けようとも、無限に身を突き刺してくる。


これでは勝ち目が無いと悟ったのか、尻尾を巻いて逃げ出していくキメラ達。それを見止め、竜崎は兵達に号令をかけた。


「怪我人救護を第一に、残った兵と調査隊は警戒を続行してください」






あっという間に片付いた戦場。ノウムを還し一息つく竜崎に、さくらは駆け寄る。


「竜崎さん!私中位精霊扱えました!」


「お!それはすごい!もう名実ともに一人前の精霊術士だね」


―大手を振って調査隊に参加できるぐらいにはなったな―



揃って褒めてくれる竜崎とニアロン。一人前…、ほんのちょっと前まで何もできなかった自分がそう言われるまでになれたとは…! さくらは嬉しくて仕方なかった。







とりあえず後処理も済み、拠点へと戻った竜崎達。ふと、ニアロンが含み笑いを。



―しかし、ありがたいな。なあ清人―


「あぁ。いいところに襲撃が来てくれた」



彼女達は2人だけで笑いあう。そして竜崎は調査隊メンバーに帰還準備を整えるよう指示し、何か企んだ顔で王宮へと向かっていった。








「上手くいったよ!」



少しして戻ってきた竜崎は、満面の笑みで、指で丸を作っていた。もう片方の手には、お金が入った袋を持って。



「キメラ対策に、王様にロニの罠を使うよう頼んできた。これで彼女の待遇はかなりよくなるはず。ついでに、調査隊の報酬も増やしてもらってきたよ」



おおっ!! と歓声を上げる調査隊メンバー。臨時収入である。ログも軽く拍手。




…転んでもただでは起きないというか、ちゃっかりしているというか。魔獣の襲撃すら逆手にとるとは…。


竜崎の強かさに、さくらは呆れ笑うばかりだった。



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