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42話 貴族の生徒

観測者達の元から戻り、次の登校日のお昼。さくらはネリー達の前に、大量のお菓子を並べていた。


観測者達から孫可愛がりされ貰ったお菓子が流石に多すぎて、一人じゃ食べきれなかった。ということで、皆におすそ分けすることにしたのである。




「んー!これ美味しい!口の中で弾ける!」


ひょいひょいと遠慮なく食べるネリー。モカとアイナも遠慮がちではあるが、嬉しそうにもぐついていている。そのついでに、さくらは魔界で体験した出来事を話していった。




「すごい…!さくらちゃんすごい!!」

「上位精霊との契約なんて、先輩方どころか先生にも滅多にいないよ!」


手放しで褒めるネリーとアイナ。さくらはつい謙遜した。


「武器のおかげだよ~」


…そうは言ったものの、彼女はすっかり舞い上がっていた。なにせ前の暴発事故…ニアロンの魔力を使った校庭での一件とは違い、半分は自分の力で倒したようなものなのだ。



と、そんな中。モカが首を捻った。


「でもこれ、魔界のお土産じゃないよね?」





「魔界の銘菓だけじゃなくて色んなとこのがある。エルフのだったり獣人の里のだったり。こっちはこの辺りのお菓子だし」


彼女の指摘に、さくらは内心で「へー」と軽く驚く。 なにせ彼女はこの世界に来て日が浅い。ほんのちょっとの村や国しか知らないため、どれがどの菓子なのか見当がつくはずがないのだ。


というかそもそも、「頂きものだから遠慮しないで」と勝手にバッグに詰め込まれただけなのだから。


「どこで買ってきたの?さくらちゃん」


「えっとね、このお菓子は―」


アイナの問いに、さくらは観測者達の元にも行ったことを暴露する。―だが、それを聞いたネリー達の顔色は一瞬で変わった。



「えっ、あの方達に直々に呼ばれたの…?」


「さくら()()ってとんでもなく凄い人なんじゃ…。あ、でもそっか…。リュウザキ先生と同じ…!」


「そうだった…。 …いいのかな…?普通に話してて…」


王に会った、ウルディーネと契約を結べたという話より驚く三人。畏敬の念を持たれたというほうが正しいのだろう、今まで「ちゃん」付けだった名前が「さん」付けに変わってしまっていた。


彼らの存在はさくらの想像以上に偉大なものだったらしい。ぱっと見、気の良さそうなお爺ちゃんお婆ちゃんの集まりだったというのに…。





異世界に来て初の友人達にそんな態度を取られ、さくらはあたふたしてしまう。褒められるのは嬉しいが、一線を引いた態度なんてとられたくはなかった。


なんとかして元の関係に戻りたいが、どうすればいいかわからず右往左往。―と、そんな時だった。


「話は聞かせてもらったよ。そこの君」





突然話しかけられたさくらは振り向く。そこにいたのは豪奢な服を着た金髪の、いかにも金持ちそうな男子生徒だった。


「観測者の方々とお会いできるなんて相当な高貴の出じゃあないか。こんなどこの馬の骨かわからない子達とつるむ必要はない。こちらにこないか?」


手で示された方を見ると、同じように豪奢な服を着た数名の子がいかにも高そうな菓子や紅茶を楽しんでいた。


「君は貴族か?まさか、王族かい? センスのない普通の制服なんて着ているからわからないな!」


クックックと笑う彼は、ネリー達の刺すような視線に気づかない。いやむしろ心地よく感じているのだろうか。



「さあ、私と共に。一つその話を聞かせてくれ」


半ば無理やり連れていこうとするように、男子生徒はさくらの肩を叩く。その無神経さに、さくらの堪忍袋の緒は、切れた。



「あの!!」


バンと机を叩き立ち上がる。突然の怒声にさしもの男子生徒も怯んだ。そこに、さくらは勢いよく畳みかける。


「止めてください!貴方みたいな人、最低です!大体、貴方誰ですか!」




怒涛の剣幕に思わず一歩下がる男子生徒。だが彼女の不遜な態度は自分を存ぜぬのが理由と知り、大仰に名乗りはじめる。


「私を知らないと!なんだ君も馬の骨か。私はハルム・ディレクトリウス、我が一族はアリシャバージル王に仕える大貴族だぞ!」


自慢気に胸を張る青年。ネリー達も明らかにヤバ気な顔をしている。…だが、さくらの口から出た言葉は―



「はぁ?」



だった。





…残念ながら異世界出身のさくらに、貴族の権力なぞ通用しない。貴族だろうが王族だろうが、彼女は目の前にいる彼を「友達を馬鹿にしたうざったい先輩生徒」としか認識していなかった。


だから、さくらは目の前の大貴族とやらに更に啖呵を重ねた。


「知りませんよ!どうせ親の七光りでしょ!帰って下さい!二度と私達の前に姿を出さないでください!」



名前が通らず、こうも突っぱねられると成す術もない。まだ何か言いたげな貴族の青年ハルムは、傍に控えていた召使に諭され、忌々し気に去っていった。





「うるさい男子達にもあそこまでムカつく人はいなかったよ、もう!」


怒り心頭のまま席につくさくら。ようやくネリー達の不安げな顔に気づいた。


「ありがとう…」


モカが代表してお礼を言う。しかし、さくらは首を横に振った。


「ううん。ああいう奴は一回強く言わなきゃわからないんだもん」


ぷりぷりと怒るさくら。ネリーが呟く。


「…やっぱすごいんだね、さくらちゃん」


その呆けたような誉め言葉に思わず吹き出すさくら、それを皮切りに全員が笑い出した。




…貴族とやらにあんな罵声を浴びせて大丈夫だったのか。ちょっと気になるさくらだったが、友達を守れたこと、そしてその友達にへりくだられるのを阻止することができ内心ほっとするばかりだった。



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