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388話 さくらの、贈り物


「うふふ♡ 初めに私達を救ってくれたのはリュウザキちゃんの方なのに、お礼なんて言われちゃったらねぇ♡」



「更に尽くしてあげなければいけませんわね♡」




竜崎のお礼の言葉に、代表してグレミリオとイヴが艶やかな表情を浮かべる。 



それへ僅かに苦笑いをした竜崎は口を挟もうとしたが…それより先に、グレミリオがポンと手を合わせた。




「な・ら、さくらちゃんの、リュウザキちゃんへの『贈り物』。微力ながら、全霊でお手伝いしなきゃ♡」









その一言が号令となったのだろう。突然、その場にいた教師陣…竜崎のために集った彼らが、揃って杖を取り出し始めた。




「別に私一人でも全部出来ちゃいますけどね~!!」



「ふざけるな!」

「絶対駄目です!」

「やるんじゃないぞ…!」

「許しませんからね…!」



サラッと問題発言をするオズヴァルドを、エルフリーデとナディ、そしてシベルとマーサが叱り飛ばす。




「いけません……オズヴァルド先生…! これは、さくらさんがやらなければ意味がないのですから…!」



「そうそう。それに、練習の時にわかったじゃない。さくらちゃんの方が沢山綺麗に作り出せるって。なんでも完成させれば良いってもんじゃないのよ」



「実物を知っているということもあるでしょうけど…。やっぱり、想いの大きさが重要ってこ・と♡」




さらにメルティ―ソン、イヴ、グレミリオにそう諭され、少し頬を膨らませながらもオズヴァルドは引き下がる。



が、何かモヤモヤするのか、彼はボソリと呟いた。




「想いなら私も凄くあるのに……」



「それはこの場の全員、あるに決まってるじゃなぁい。その中でも、さくらちゃんがいっちばん、大きいのよ♡」



愚図る子供をあやすように、オズヴァルドを宥めるグレミリオ。


そしてやはり彼女(もとい、彼)が音頭を取り、教師陣は中庭の中央に生えている木の周りへ展開した。








「…何を…?」



その妙な行動に、竜崎は首を捻る。そんな彼を―。



「まあまあキヨト、座って座って」


「こっち」


―何も考えずに、ただ待っとけ―



ソフィア、アリシャ、そしてニアロンが引っ張り、再度ベンチに腰掛けさせる。ミルスパールやタマはそれを微笑み傍観しているだけ。





「……?? …あ、あぁ…?」



自分だけが状況をわかっていないこと、そして皆がその詳細を隠していることを理解し、とりあえず従う竜崎。



すると、彼の前におずおずと立つ者が。それは、さくらであった。手に見慣れぬ短杖を持って。






「その杖って…?」



「マリアちゃんに作ってもらっていた杖です。まだ、変身機構は完成してないんですけど…普通使いは出来るようにしてもらえました」



竜崎の問いに答えるさくら。そこにソフィアが口を挟んだ。



「あれだけ難航しててね~…。キヨト、今度また知恵貸してちょうだい」




ぽりぽりと頭を掻く彼女。そして、そのマイナス点を一蹴するように続けた。



「でも、その他の機構は色々と詰め込んだわよ。『シールドシステム(障壁発生機構)』とか、『限界突破機構』とかね!」




そう言われ、竜崎はさくらの新たな武器を再度見る。少し太めのバトンのようであり、上には魔法少女のステッキのような、大きい装飾がくっついている。



恐らくその中に、様々な機構が組み込まれているだろう。…しかし、その形は――。




「…桜…の…花……」






呟く竜崎。その装飾…もとい機構は、雪の結晶が散りばめられたかのようにも見える。そしてその中央で燦然と輝くのは、桜の花。



…勿論、模して作られた代物。しかし、彼はそれから目を離せなくなってしまった。










――桜。 かつていた世界の、懐かしい花。 散り際までもが人を魅了する、美しい花。




実は、かつて竜崎はそれを偲び、探したことがあった。しかし結果として、この世界には存在しないことがわかってしまった。




一応、メストが育てていたように、薔薇の花はあった。…しかし正確には、()()()()()()なのだ。



本当は別の名称であろう。異世界の花なのだから、それは当然の事ではある。では何故、薔薇と呼んでいるのか。




竜崎はただ、この世界の言葉を翻訳するため、酷似な花に『薔薇』という名称を当てはめただけなのだ。…なにせ、この世界の『青色の薔薇』は、普通に咲き誇っているのだから。






ならば、桜もそうすればよかったではないか? 似ている花を探し出し、適当に名称を付け愛でれば良いだろう。 …それも、彼は考えていた。



……だが―。 無かったのだ。 似ている花すらも。





とはいえ色が同じや、形がどこかそれっぽい花を、『桜』と翻訳してしまうこともできた。…しかし、それは躊躇われた。



それだけ、桜という花への想いがあったのだ。似てもいないものに、その名をつけたくはなかったのである。





残る手段は、魔術で造花を作り出すこと。この世界では、それが可能であった。



……だが…残念なことに、それも叶っていなかった。







この世界に来てまもなくは、竜崎は魔術を知らなかった。後にはニアロンから独学の精霊術を教わり、ミルスパールに見いだされ、すぐさま戦争へと身を投じた。




その間、桜のことなぞ頭には無かった。日々、必死であった。―ふと、桜のことを思い出したのは、戦後ある程度落ち着いてからであった。




…しかしそのころには、桜の姿形の記憶なぞ、朧気なるものになってしまっていた。




魔術の行使には精巧なイメージが必須。―つまり、桜を作り出すことが不可能になっていたのである。







それでも、竜崎は色々と試みた。持ってこれていた教科書を読み返し、ほんの小さく載っていた桜の写真を元に作り出そうとしてみた。




―だが、どう足掻いても、幾度やり直しても、出来上がるのは美しさを欠いたつまらない造花。とても桜とは言いたくないレベルの代物。



故に…彼は諦めた。桜でなくとも、この世界には幾らでも美しいもの珍しいものがあると自分に言い聞かせることで。




もう二度と見ることが叶わない。それを薄々感じつつ、事実、忘れかけていた。



―そんな時であった。




その花の名を…『さくら』を冠する少女が、この世界に訪れたのだ。






それにより、竜崎の頭にも、俄に懐かしさが蘇った。 …しかし、それをおいそれと口に出すわけにもいかなかった。



彼女には…さくらには、この世界を好きになってもらう必要があった。だから、出来るだけ元の世界への追憶を無くして貰う必要があったのである。






――だが結果的に、転移装置を起動することとなった。ならば、自分は無理でも、せめてさくらだけは同じ名の花がある世界に帰そうとした。



…最も、それすらも叶わなくなってしまったのだが……。










そんな花が、今、さくらの杖に飾られている。かつて自分が作ったどの桜よりも、綺麗な。



その竜崎の懐旧の目に、さくらも気づいたのであろう。少し迷っている様子だった彼女は、意を決し彼へ語り掛けた。





「竜崎さん。…自分勝手かもしれませんけど…。(たす)けてくださったお礼に、贈り物をさせてください」



「…贈り物…?」



「はい。…竜崎さんは、桜を…桜の花を、どう思いますか…?」




さくらの窺うような問いに、竜崎は思わず息を呑む。そして、半ば反射的に謝ってしまっていた。



「ごめんね、元の世界に帰してあげられなくて……」



「違います! そうじゃないんです…! ……えっと…。 桜、嫌いじゃないですよね…?」




竜崎の謝罪を掻き消すように否定したさくらは、質問の言葉を変える。竜崎は数秒どう答えるべきか迷っていたが、結局、自らの心の()()()()()を口にした。




「―…うん。 寧ろ、大好きだよ」



「―よかったです…! …気に入らないかもしれませんが…。どうか、見てくださると嬉しいです…!」







竜崎の回答に胸を撫で下ろしたさくらは、杖を握り直し竜崎へ一礼。そして、教師陣と同じく、カサカサと葉を揺らす木の傍へと歩み寄る。




「すぅ…はぁ…―。『我、汝の力を解放せん―』!」



深呼吸をし、杖先へ手をかざして呪文を唱えたさくら。すると、杖先の桜の造花を中心に球体魔法陣が現れ、バチバチと音を立て始める。限界突破機構を発動させたのだ。



その様子を確認し、グレミリオは皆へ号令をかけた。





「さ! 私達『【清き人】に救われし者たち』チーム、リーダーさくらちゃんの補助に全力を注ぐわよ!」



「「「おーっ!!!」」」



気合の籠った返事をした教師陣も、さくらと共に詠唱を始める。どうやらそれは、基礎召喚術のようだが…。







全員が手練れということもあり、すぐに準備が終わったらしい。グレミリオがさくらへと合図を送ると、集中していた彼女はカッと正面の木を見つめた。



「―行きます! せーのっ!」




『『『木に桜を咲かせましょう!』』』










さくらと、皆の声が合わさる。それと同時に、詠唱された魔術が木を包む――。





「――…っ…!!!! ぁ……ぁぁ……!」




刹那、現れた光景に、竜崎は目を見開き、声を掠れさせる。まさに青天の霹靂を受けたような…。



……いや、霹靂ではない。この晴天の真下には――。





―――眩いほどに美しい、()()()()が、咲き誇っていたのだから。




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