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35話 さくら、初の契約精霊

「さて、せっかく来たんだ。誰かウルディーネと契約を結びたい人はいる?」

そう卒業生、メスト、さくらに呼びかける竜崎。さくらはおずおずと問い返した。


「あの…契約ってなんですか?」


「あぁ。精霊召喚術には2種類あるんだけど…」


「属性の力から作り出す方法と呼び出す方法ですよね」


「お、知ってたか。メルティ―ソン先生から教わったのかな。そう、その2種類。そのうち呼び出す方法は更に分かれて、『一時的に呼び出し簡易契約を行う』方法と『先に戦って契約をしてもらい専属精霊になってもらう』方法があるんだ。さくらさんもやってみる?」


この水龍のような精霊を相手に?少々恐ろしさが残る。そんなさくらの心中を知らずか、さらに説明を続ける竜崎。

「メリットは契約に必要な魔力と時間が削減されること、暴走のリスクが無くなること、戦闘を重ねれば精霊側も使役主の癖を学んでくれること、かな」


「デメリットは?」

思わず聞いてしまうさくら。竜崎は少し固まってから口を開く。


「よほど戦場に身を投じる人じゃないと恩恵を得られないこと、だね」


それならあまり必要ないのでは?さくらの微妙の表情を見て、竜崎は嘆息する。

「そうなんだよねぇ。ただでさえ難しい上位精霊召喚だし、戦って自分の力を見せつけなければ契約結んでくれないしで、契約する人がほとんどいなくてね…」


「最近は活きのいい子全く来ないわよねー。来るのは精々参拝する人達だけよ」

エナアリスも少し寂しそうであった。




結局挑戦するのはメストとさくら。卒業生2人は顔を見合わせ辞退した。どうやら過去にコテンパンにされたことがあるらしい。


「本気でいいわよ?危なそうな攻撃はどちら側のでも私が止めてあげるから」

エナリアスからも許しが降り、いざ尋常に勝負とあいなった。


「では、僕から行きます!」

まずはメスト。自慢の翼を広げ、空を舞いながら隙を窺う。ウルディーネも開始の合図と捉え、水弾を勢いよく飛ばしはじめる。サラマンドと同じ威力なのだろう。当たれば岩を簡単に貫き、掠るだけでも魔力酔いを引き起こし戦闘不能となる危険極まりない水弾をメストは空中で回避しつつ、牽制に魔術をぶつけ怯みを狙う。


「ギャウウ!」


魔術の一つがウルディーネの目の近くに当たり悶える。メストはそれを見逃さなかった。


「青き薔薇よ、捕えろ!」


彼女自慢の捕縛魔術が水面に展開した魔法陣から飛び出す。反撃する暇もなく茨に取り囲まれたウルディーネの脳天めがけ、メストはレイピアを向け一直線に突き進む。


「もらった!」

だが、それと同時にウルディーネは自重に任せ、茨が体に食い込むのを気にせず水の中に潜り込む。その衝撃で大きな水飛沫が起き、視界を奪われたメストは思わず動きを止めてしまった。翼にも水がかかり体制を崩してしまったところに、勢いよくウルディーネの尻尾が叩き付けられた。


「痛っ!」

吹っ飛ばされるメスト。なんとか空中で体制を整えようと体を捻り、ウルディーネを視界に捉えるが―。


「しまっ…!」

ウルディーネ側は確実に仕留める気だった。追撃として水弾が撃たれ、既に目の前に迫ってきている。まずい、障壁展開も回避も間に合わない…!


と、目の前に障壁が張られる、誰かに抱えられる感覚がある。水弾は障壁よりも前で止まった。


「あ…」


メストが思わず顔の向きを変えると、竜崎に抱えられていた。助けに来たらしい。ニアロンも障壁を張っていたが、水弾を止めたのはエナリアスだった。


「過保護ねー。私がそんなに信じられない?」


指先一つで止めた水弾を水の中に戻しつつ、頬をむくらますエナリアス。


「体が勝手に動いちゃってね…」

竜崎はメストを抱えつつ、さくら達の元に降りていく。


「惜しかった。尻尾攻撃に当たったのが痛かったね」

そう励ます彼の腕の中から降りたメストは少し恥ずかしそうだった。



次はさくらの番。メストや竜崎のように空中を移動する術を持たないため、少ない陸地でラケットを構える。


まずはウルディーネが牽制として水弾を幾つか飛ばしてくる。それを打ち返す。ただ返されただけではなく、勢いを更に増して戻ってくる水弾を見送りながらエナリアスは楽しそうに微笑む。


「やるわね。良い技持ってるわ」


さくらが水の上に出てこないということはウルディーネの土俵に入らないということでもある。ウルディーネは攻めあぐねて水弾を連発してくるが、さくらはなんとかしのぎ切る。


撃った弾が自らを傷つけんばかりに戻ってくる、しかも相手は無傷。苛立ったウルディーネは攻撃方法を変え、さくらへ長い尾を勢いよく振り下ろした。常人なら一発でぺちゃんこだろう。だがしっかり構えていたさくらのラケットにはじき返され、跳ね飛ばされた尻尾に全身が引っ張られるように勢いよく吹っ飛んでいった。


「!?!?!?」


少し離れたところにバシャアン!と落ちるウルディーネ。何が起きたかわからないのかしばらく辺りを見回していた。エナリアスも驚いている。


「びっくりしたわ…!その武器、私達を倒したあの鏡ね。あげたの?」


不思議そうに竜崎に問うエナリアス。彼は朗らかに笑った。

「ちょっと事情があってね」



ようやく状況を把握したウルディーネ。怒りが頂点に達したのか、大きく吼え周囲の水を震わせる。勢いよく海岸に近づいてくるといきなり力をチャージし始めた。周りの水が渦を巻き始め、最大手の一撃が準備されていく。


これは少々危険ではないのか?そう察し逃げ場を探す村人達に障壁をかけつつ、当たれば人体なんて粉々になるであろうウルディーネの攻撃へと迅速に対応できるよう構える竜崎、そしてエナリアス。


だが、当のさくらにはある秘策があった。


先日、メルティ―ソン達から教わった召喚魔術。魔力で物を作り出し、召喚する方法。この前は桜の花を作り出したが、それを応用すれば…!


目を瞑り、イメージを固め、詠唱する。彼女の手に作り出されたのは、テニスボール。さらにラケットについている精霊石の力を付与して―!


「せーの!」


魔力ボールを思いっきり打つ!打つ!打つ! 一発打ったらもう一つ作り出し打ち込む、それを何度も何度も繰り返した。千本ノックもとい千本サーブ、放たれた玉は各属性の力を纏い、赤青緑黄カラフルにウルディーネに向かっていった。


そこまで豪速球は打てないさくらだが、全力で弾いた鏡の力によって玉の勢いは増幅され、流星の如き速度となり飛んでいく。最初は躱していたウルディーネだったが、次々飛んでくるボールに対処しきれなくなりとうとう当たってしまう。当たった個所が鱗ごとゴリっと凹むほどの威力、その痛さに思わずチャージを止め水の中に逃げ込んだ。


ウルディーネがこれで安心と一息ついたのも束の間、さくらは闇雲に水の中にまで打ち込んできた。


本来ならばそんな攻撃は水の抵抗で勢いを弱めるであろう。しかし神具によって特殊強化された魔力弾は速度を一切衰えさせることなく水を貫き、偶然にも一つがウルディーネの顔面に直撃した。


「ギャウッ!」


怯み悶える間にもさくらの攻撃の手は止まず、次々とヒット。全身の鱗をこっぴどく凹まされ削らされ、もう反撃どころではない。ウルディーネは尻尾を振って降参を表した。


「すごいわね!貴方、契約認められたわよ」

パチパチと拍手するエナリアス。竜崎やメストも予想外な結果に面食らいながら拍手をしていた。


散々痛めつけられたウルディーネは顔を陸地にあげ、さくらを呼び寄せる。近づいた彼女に魔法陣を展開、それはさくらの体に入っていった。


「これで契約完了よ。いつでも呼んでいいけど、できれば怪我が治ってからにしてあげてね」


エナリアスに撫でられながらウルディーネは水中へと姿を消す。まさか勝ててしまうとは、驚きを隠せないさくら。竜崎は諸手を挙げて喜んだ。


「まさか契約結べるとはね。今度上位精霊の呼び出し方教えてあげるよ」

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