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14話 異常なサラマンド

「できましたよ!さくらさん!」


次の日、武器が無いため戦闘訓練をまたも見学していたさくら。そこにマリアとボルガーがやってきた。


「昨日の反省を活かし、色々と調整を加えました!」

渡されたラケットをみると、確かに持ち手上の穴は蓋らしきもので塞がれていた。


「制御装置は呪文承認式にしてみました。手間は増えちゃいましたけど暴発することは無くなると思います!」


「その呪文って?」


「1番簡単な承認呪文です。力を籠めながら『我、汝の力を解放せん―』って!」

ごくシンプルかつ明快な文句。さくらは少し残念だった。どうせなら…


「どうせなら魔法少女の杖みたいなのが良かったなぁ」


「なんです?その魔法なんとかの杖って?」


予想外にも食いついてくるマリア。説明に手間を要したがなんとか伝わったようで

「なるほど…可愛くて強い衣装に変身して、魔術を使える便利な道具…しかも小型の」

ぶつぶつ何かを考えている様子のマリアだったが、ふいに顔をあげる。その目にはやる気が満ちていた。


「こうしちゃいられません!面白い物が作れそうです!さっそく試作してみなければ!」

駆け出すマリア。ボルガ―の静止の声も届かなかった。


「しまった…!もう2日徹夜してるんだから今日こそ寝かせなきゃいけなかったのに…。元気になっちゃったよ」

姐さんにどう弁明しよう…と頭を抱えるボルガー。竜崎は懐かしむように笑った。


「ああいうとこ本当にソフィアと変わらないなぁ。ボルガーさん、はいこれ。よく眠れるお香。すぐ眠っちゃうから周りの安全を確保してから焚いてね。あいつもこうやって寝かしたなぁ…」


懐から小さな袋を取り出しボルガ―に渡す。それを受け取るとぺこぺこと頭を下げながらマリアを追いかけ帰っていった。

 



ぶんぶんと振って感触を確かめるさくら。重さも一切変わっていない。匠の凄技に感心しつつ、少しだけ戦闘訓練に参加させてもらおうかなと意気込んでいると、練習場に滑り込むように1匹の竜が降りてきた。


「リュウザキ先生!ここにおられましたか!お力をお貸しください!」

竜の上から降りてきた青年は駆け寄りそう訴える。突然のことに全員が驚いていたが、竜崎が気づく。


「あれ?君、調査隊として出向いていたんじゃ?」

どうやら竜崎の知り合いらしい。息せき切った彼は事情を説明する。


「はい、ゴスタリアからの要請を受けて派遣されましたが…異常なサラマンドが発見されまして」


「異常?」


「火山外を出歩いていたんですが、死にかけかと思いきや周囲に尋常じゃないほどの火球をバラマキまして…誰も近づけないのです。」

どう対処していいものかわからないため急ぎで飛んできたということらしい。


「しかしゴスタリアにも専属の精霊術士がいるだろうに。その方はどうしたの?」


「それが…あの国が保有している火山の全てで異常を感知したらしくて…噴火は起きそうにないんですが、手が不足しているんです」


「そうだったのか…。よし、とりあえず向かおう」


「助かります…!今竜を借りてきていますので…!」

もう一人の隊員が先に手続きを済ませていたらしく、タイミングよく竜に乗り、降り立ってきた。


「先生、こちらの竜に。なんなら他の方をお連れしても構いません」




「そうだ、先生。さくらちゃんを連れて行ったら?」

丁度同じ訓練を受けていたネリー達がさくらを推薦する。だが、竜崎は首を振る。


「いや、駄目だよ。なにが起こるかわからないし」


「見学と言う形ならいいのでは?」

ナディが譲歩の提案をみせる。が、変わらず。


「いやいや…。駄目なものは駄目」


―別にいいだろ。守ってやればいいだけのこと。それともなんだ?守り切れる自信がないのか?―

今度はニアロンが煽ってくる。さくらからも頭を下げられ、味方を失った竜崎は仕方なしに同行を許可する。


「わかったよ…。ただし見学としてね。調査隊の傍から離れないでね」




さくらは少し緊張しながらも彼と共に竜に跨る。


「しっかり捕まっていて」

手綱が振られ、竜が飛び上がる。思わず竜崎の体にしがみつく。


「そのまま絶対に手を離さないで!」

ジェット機の如く空を飛ぶ竜。あまりの圧に目をつぶり手に力を入れるしかできなかった。



1時間ほど飛んでいただろうか。竜が速度を落とし、地上に下がり始める。こわごわ目を開け下を見ると、地面は学園周囲のような草木はあまりなく、ほとんどが土や岩で構成されていた。


「ゴスタリアは火山国家でね。それを活かした産業が盛んなんだ。火の精霊石もその一つなんだよ」


「火山って…。噴火とかしないんですか?」


「よほどの事が無い限り大丈夫だよ。元気いっぱいのサラマンドが外を歩いていたら警戒したほうがいいけど、死にかけの子の場合は後継の子に追い出された結果というのがほとんどなんだ。その場合は火山が引き継がれた証拠だからゴスタリアにとってはいいことのはずなんだけど」


問題の場所に到着し、竜から降りる。待ってましたとばかりに隊員が駆け寄ってくる。

「お疲れ様です!こちらです」


「ありがとう。すまないけど、この子後ろで見学させておいてくれないか?」


「承知しました」




案内された先には確かにサラマンドがいた。しかし、前に竜崎が召喚した時と違い赤く燃えてはいない。灰のような色になっており、力なく伏している様子だった。


そこから少し距離をとり、数十人の隊員が待機していた。


「かなり大掛かりだな。そんなに暴れたのかい?」


「えぇ。今は鎮火していますが酷いときは周囲が火の海になりまして。死にかけならばそんな魔力が残っているはずはないんですけど…」


「今は落ち着いているみたいだけど」


「どうやら気配に敏感らしく…。攻撃を仕掛けようとする度に暴れるんです」

ほとほと困り果てたように頭を掻く隊員。竜崎は少し考え、指示をだす。


「私が近づいてみる。調査隊は万一のため防衛陣を組んでくれ」


ザワザワと騒ぎ出す調査隊。中には危険だと引き止めようとする人もいたが、気にすることなく近づいていく。さくらを含めた全員がいつ暴れだすかハラハラしながら見守る。しかし、なにも起きないまま彼はサラマンドの元にたどり着いた。


「よしよし…。もう寿命が尽きかけなのは間違いないか。噴火の可能性は薄いかな。見たとこ異常はなさそうだが…」


あやすように撫でながらサラマンドの体を丹念に調べる竜崎。その間サラマンドは暴れるどころか身を委ねている。



「なんでえ!今なら殺せるだろ!さっさと片付けちまおうぜ!」

と、調査隊に随行していた傭兵の一人が不満の声を漏らす。隊員が止めるのを聞かずに斧を持ち、サラマンドに近づいていく。


「こんなやつ、一発核を叩き切れば終わりだろ!」

斧を構える傭兵。竜崎が立ちふさがる。


「もう少し待ってください。貴方は有事に備えて待機を」


「うるせえな。静かなうちに倒しちまえばそれで解決だろが」

竜崎を押しのけようと力を入れる傭兵。しかし彼は動かなかった。


「なんだ?お前から捻ってやろうか?」


「失敗して怒らせたら被害が広がります。素材は規則通りに渡すから落ち着いてください」


「ずっと待機しっぱなしでイラついてんだよ。邪魔なんだよ!」

殴りかかる傭兵。竜崎はそれをひらりとかわし、手を捻る。痛がり武器を手放したところで続けざまに足をかけ転ばせた。


「っ痛ってえ!なにしやがる!」


「下手に刺激しないでください。これ以上暴れるならば気絶させてでも連れ戻しますよ」


「ッチ…わかったよ」

想定外の威圧感を感じ取り、渋々戻る傭兵。竜崎はそれを確認し再度サラマンドに向き直る。


「…これでも食らえ!」

戻ったはずの傭兵が引き返し斧をぶん投げる。サラマンドにぶつかるかと思いきや、その手前でガキンと音を立てて弾かれた。なんと竜崎が障壁を張って守っていた。


彼に睨みつけられ口笛を吹きながら皆の元に帰ろうとする傭兵。だが、サラマンドは許さなかった。


灰色の体がみるみる赤くなっていく。全身が燃え盛り始め雄たけびをあげた。


「くっ…!」

飛び退く竜崎。調査隊も危険を察知し盾を構え直す。


「グオオオォン!」

溜める動作を見せたかと思うと、火球を吐き出し始めた。1発、2発、3発…止まらない。障壁は耐え切れず割れ、弾幕は調査隊にも襲い掛かった。


その連射っぷりに傭兵は腰が抜け地面にへたり込む。竜崎はその前に立ち、飛んでくる火球を杖でさばいていく。


と、あまりの勢いに防衛陣が一部崩れる。運の悪いことに、そこにめがけて続けざまに火球が飛んできた。


「危ない!」

さくらは思わず声をあげる。が、火球が隊員にとどくことはなかった。手前で弾け、消えていく。

よく目を凝らすと防衛陣の前に新たに障壁が張られていた。高性能なのか、今度は割れることなく展開し続けていた。


「た、助かった…。流石はリュウザキ先生…」

安堵する隊員達。だがさくらは未だ渦中にいる竜崎と傭兵が気になって仕方がなかった。



一方の竜崎。

「ほら、立ち上がって下さい!一緒に下がりますよ!」


「む、無理だ…!腰が抜けて立てねえよ…。なんだよあのサラマンド、死にかけどころか見たことないくらい火を吐いてくるじゃねえか…さっきより勢い数倍増してるしよぉ…」


「それを調べている最中だったのに余計なことするから…仕方ない、ここから絶対に動かないでください」

そういうと杖を地面に突き刺す。すると杖から傭兵を守るように障壁の盾が展開された。


竜崎が飛び出す。火球を軽やかに躱し、弾きながら防衛陣まで戻ってくる。


「これっていつ収まるの?」

障壁内に飛び込んできた彼はすぐさま問う。


「先程までは直ぐに収まっていたんですけど…。少なくともあの傭兵の方の位置まで下がってれば…」


「最後の力を振り絞って…かな?危険性が高い、討伐する。隊はこのまま陣を維持したままでいてくれ。手すきの人は周囲の鎮火作業に移ってくれ」


竜崎が指示を出している間にサラマンドは怒りの矛先を捉えたらしく、火球を吐き出すのを止めた。さらに力を溜めるサラマンド。次の瞬間、ビームのような熱線が傭兵に向けて発射された。


「ひいいいい!助けてくれえええ!」

杖の障壁にヒビが入り始める。その様子をみて急いで戻ろうと飛び出す竜崎だったが、先に走りだしていた人がいた。


「くうぅ!」

さくらだった。傭兵の前に立ち、障壁を貫いた熱線を鏡に当てはじき返す。弾かれた熱線はサラマンド自身に直撃し、怯ませることに成功した。


「今だ!」

竜崎は隙を逃さずサラマンドに乗り、手を突き刺し核を割る。同時にサラマンドの体が白く変色し、力尽きた。



「ふう…」

完全に停止したのを確認し、さくらの元に向かう竜崎。


「大丈夫?火傷とかしてない?」

こくこくと頷くさくら。それを見て彼は安堵の息をもらす。


と、仲間に肩を貸してもらい、先程の傭兵がようやく立ち上がる。


「嬢ちゃん助かったよ…命の恩人だ…。すまなかったよ…本当ありがとう」

よほど懲りたのか殊勝に礼をする傭兵。続くように竜崎が褒める。


「ほんと大活躍だったよ。おかげで楽に討伐ができた」

約束を破ったことを咎められると思っていたさくらだったが、またもや怒られない。


「怒らないんですか…?」


「まあ確かに危険ではあったけど、そうでもしなければ人を守ることなんてできないからね。怒るなんてとんでもないさ」

よく頑張った。とニアロンにも頭を撫でられ思わず頬を綻ばせる。




改めてサラマンドの遺骸を調べる竜崎。何かを発見したらしく、顔つきが変わる。


「どうしたんですか?」


「ごめん、さくらさん。何人か隊員を呼んできてくれる?」


そう言われ、人を呼んでくる。彼は集まった隊員達と話合っている様子だったが、どうやら大事らしく俄にざわつき始めた。中には指示を受け、竜に乗り飛んでいく人もいた。



「さ、あとは調査隊に任せて帰ろうか」


「何があったんですか?」

聞いていいものか迷ったが、好奇心に負けつい尋ねてしまうさくら。竜崎は詳細を隠すように説明する。


「ちょっと魔術をかけられた痕がね。多分調査隊だけで片付く問題じゃないから、ここの王宮の方に連絡をしてもらったんだ。臨時の私達はお暇しよう」


隊員や傭兵達に見送られ飛び立つ。さくらは人を助けることが出来たという喜びから、学園に到着するまでにやけ顔が収まらなかった。


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