125話 救いの手
「へっ!?」
素っ頓狂な声を出すさくらに説明するように、兵は言葉を続ける。
「実は私達、以前貴方と似た方を王宮内でお見掛けしたことがありまして…」
「そ、それっていつ頃の話ですか…?」
「先日の、火球を吐く竜が現れた日です」
間違いない、自分のことである。ローブのフードを冠らず歩き回っていたのが原因か。どうしよう。事情を知る竜崎とバルスタイン、ゴスタリアの老精霊術士は今話し合い中でこちらに気づいていないようだし、メリッサは別部屋にいってしまった。助け舟は流れてこない。
そして、はいそうですと答えられるわけもない。もしバレてしまったら王様どころか竜崎やバルスタインの顔にも泥を塗ることになる。かといって「師匠を変えました」とかの嘘を並べ立てると後でバレた時が怖い。そもそもそんな理由通らないだろう。それに、下手に誤魔化すと竜崎が来たのではないかと疑念がつくかもしれない。そうなったらバレるのは時間の問題である。
「えっと、あの…」
結局何も言うことはできず、しどろもどろになるさくら。兵の顔も少し不信感で陰り始める。マズい。本当にマズい。目の前がぐるんぐるんとし始めてしまう中、予想だにしない方向から救いの手が差し伸べられた。
「どうかしたのですか?」
ハッと声が聞こえた扉の方を見ると、そこにいたのは赤きドレスを纏った女性。彼女は―!
「姫様!」
驚いた兵は思わずそう叫び、急いで敬礼をする。竜崎達も気づき、敬服の姿勢をとる。
彼女はドレスを上げ挨拶をする。
「皆様、此度はありがとうございます。実は1つお願いがあって参りました。私もこの国を治める立場の者、是非この場で皆様の議論を傍聴させて頂きたいのです」
当然断る理由も必要もない。竜崎が代表し答えを返す。
「勿論です、どうぞ心ゆくまで」
「ありがとうございます、リュウザキ様」
慌てて彼女用の椅子を準備しようとする兵達を諌め、ゴスタリア姫はさくらのほうへと顔を向ける。
「こちらに座ってもよろしくて?」
コクコクコクと首を降るしかできないさくら。姫様は気品ある動作でふわりと座ると、さくらにしか聞こえない声で呟いた。
「少しびくびくしたままで。全く知らない貴族が横に座ったという感じでいてください」
突然の指示に驚きながらもさくらはそれに従う。すると姫様は、まるで初めて会ったかのような態度で自己紹介を行った。
「はじめまして。私はテレーズ・フォン・ゴスタリア。この国の王女です」
改めてさくらは彼女のご尊顔を拝見する。高貴さからわかりにくかったが、彼女は予想以上に若そうで、メストより少しだけ年上。恐らく20そこいらであることが窺えた。ほうっと数瞬見惚れたさくらも慌てて返す。
「雪谷さくら、です。さくら、とお呼びください」
「? 名前がそちらなのですか?わかりました。さくらさん、先程は兵が無礼を。どうかお許しくださいませ」
恭しく謝罪をする彼女。一国の姫に頭を下げさせるなんて恐れ多い。慌てて頭を上げてもらうさくらだった。
「ところで、何を問い詰めていたのですか?」
先程の兵を呼び寄せ、そう問う姫様。今度は兵側がしどろもどろになった。
「いえ、問い詰めたつもりは…ただ1つ気になることがございまして…」
「貴方にそのつもりはなくとも、突然に鎧を着こんだ兵に詰め寄られれば萎縮するというもの。もっとバルスタインから所作を学びなさい」
「はっ!申し訳ありません…!!」
「それで、気になることとは?」
「実は…先日火球を吐く竜が現れた日、王宮にいらしていた旅の魔術士の方がおりまして。その方の弟子に彼女が似ていると感じたのです」
やはりさくらと竜崎のことである。それを聞いた姫様は今思い出したかのような口ぶりで頷いた。
「あぁ。あのお年を召した方ですね。私もご無理を言ってお話を伺わせていただきました。…確かに似ていますね。さくらさん、少々失礼を。お顔をよく見せて頂いても?」
「は、はい…」
すっと覗き込まれ、さくらは顔を固くしてしまう。だが、はた、と目が合った時、その言いたいことが朧気ながら伝わってきた。「私に任せて」。彼女は目でそう知らせてきたのだ。
「そうね…かなり似てるわ、髪型とかそっくり。でも違うと断言できます。あの子よりずっと可愛らしいもの」
ビシリと言い切る姫。だが兵は意外にも抵抗をしてきた。
「しかし、背負っています袋も一緒ですし…」
しまった。さくらは思わず袋に触れる。こんなことになるなら以前竜崎から貰った高級袋にしてくればよかった。焦げてるが。
それもまた、姫様が助けてくれた。
「そうね…では、中身を見れば一目瞭然でしょう。私が見せていただいたあの子の袋の中身は魔導書と杖でした。さくらさん、お手数ですが…」
促され、さくらは袋を開ける。中から出てきたのは専用武器のラケットのみ。
「ほら、違うじゃない」
得意げな姫に兵は謝り、元の警備に戻るのだった。
「あ、ありがとうござ…!」
お礼をするさくらを止めるように一本指を口元に当てる姫様。そのまま彼女は近くにいる兵に聞こえるような声で話を続けた。
「その武器。もしや、先日の代表戦で活躍をなされた学園の方とはさくらさんのことで? まあやはり!父が興奮して語ってくださったので印象に残っておりますの!」
どうやら工作は続いているらしい。さくらは先程言われた通りのことを遵守する。それを見て、彼女は頷く。当たったようだ。
「リュウザキ様のお弟子とあれば、様々な経験をなされておるでしょう。宜しければいくつかお聞かせ願えません?」
姫様はそう切り出すと、さくらに顔を寄せ―。
「もちろん、ゴスタリアの話はこの場では抜きで」
そうウインクをした。




