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122話 竜崎を探せ

「竜崎さんの悪い癖、ですか?」


さくらの反芻にグレミリオは頷く。

「えぇ。あ、さくらちゃんには関係があるわね」


「え?私に?」


どういうことなのか。首を傾げるさくらにグレミリオは少し声を潜め問う。

「さくらちゃんの出身について、皆は知ってる?」


それが異世界出身ということについてだと悟ったさくらはコクリと頷く。メストを始めとしたこのグループは全員そのことを知っているのだ。それを見て、グレミリオは良かった、と言葉を続けた。


「彼、異世界に帰る方法を探るために、新しい本が入る度に隙あらば読みに行っちゃうのよ。時には次の予定も忘れるほどにね。ナディちゃんがたまにボヤいてるわ、『あれさえなければ最高の先生ですのに、仕方ないですけど』って」


さっき司書の方とその話をしていたし、間違いないわ。と判を押すグレミリオ。少々呆れるさくら達と同様に、彼も短い溜息を吐いた。


「半ば癖になっているぽいのよね。そもそも彼が教師として学園に所属しているのは図書館を気軽に利用するためだもの。まあクエストに参加してくれた皆のおかげでこっちの調査が楽になったから良いのだけど、一応皆への依頼主はあの子なんだからどっしり構えていて貰わないと」


いつのまにか彼は悪い子を叱るような口調になっている。


「本当は呼びに行くべきなんでしょうけど…まあほっといてもいいわね。今人手は充分だし、あの子もそれを理解して行ったのでしょうから。でも、そうね。もし余裕があったら探して貰っていいかしら?誰かが止めないと閉館まで居座るのよ」





グレミリオの依頼を了承し、本を置いて部屋を出たさくら達。一様に顔を見合わせる。


「探す?」


「探そう!」


意見が一致。ネリー達は以前やった竜崎探しのように楽しんでいるが、さくらの内心はちょっとだけ違った。なにせ異世界からの帰還方法は自分にも関係があることだ。その手がかりがあるのかもと思うと、少しドキドキする。




ということでさくら達はとりあえず受付カウンターへ。


「リュウザキ様が行きそうな場所ですか」


「はい、さっきグレミリオ先生から聞いたんですけど…」


事情を説明すると、すぐに理解したらしく。


「少々お待ちくださいね」


そう一言残し、裏手へと引っ込んだ。どうやらその司書を呼んできてくれるらしい。


「はいはい、先程リュウザキ様に新書のことをお伝えしたのは私です」


代わって現れた別の司書と共に地図を広げ、行方を捜す。


「どこにある本ですか?」


「えーと、ここですね」


指差してくれた場所はかなりの奥地。ここから歩いていくとそこそこな時間がかかりそうである。


「早速行こう!」


小走りで進むネリーを追いかける形でさくら達も司書に礼を言い向かうことに。


「あっ、でもこの場所は一般の方の進入禁止で…」


司書が止める声届かず、さくら達は消えてしまう。追いかけるべきか悩む司書の元に、とある人物が現れた。


「あ、あの。私が追いかけますので…」


「お、それはありがとうございます」





なんとか迷わず進むさくら達だが、目的地の大分手前で止まることとなってしまった。なぜならー。



「なんでこんなところに障壁が…?」


竜崎がいる部屋へ繋がる道はどう見てもここしかない。だが、そこには向こう側が見えないほどに厚手に張られた障壁。至るところに魔法陣が浮かぶそれは、上位精霊の一撃を持ってしても傷一つつかないであろう重厚さをありありとわからせた。


「どうしよう…」


手詰まりである。今から受付に戻るしかないか…。


「あ、そうだ。これで呼びかければ…」

さくらがお守りから指輪を取り出そうとしたその時、彼女達の背後から声がかけられた。


「そこから先は危険な魔導書などが集められているので、許可得た人以外は入れないようになっているんです」


「メルティーソン先生!」


グレミリオと同じく、資料作成のお手伝いをしていたはずの彼女はやっと追いついたと息をついた。


「私も先程リュウザキ先生と司書の方の会話を耳に挟んでいまして…ここから先はこれが無いと入れませんから…」


その手には受付が発行した5本の首掛け証明書。どうやらわざわざ持ってきてくれたらしい。


「ありがとー!メルティ先生!」


突然抱き着いてきたネリーに驚きよろける彼女だった。





「皆さん首にかけましたか…?もしこの中で外すと強制的に追い出されるので注意してくださいね」


「はーい!」


全員が身に着けたのを確認し、メルティ―ソンは障壁に自らの証明書を押し当て、何かを詠唱。すると、ズブズブズブとその身体が飲み込まれていった。


「わっ…」


「すごーい!」


ネリーが勇んで彼女の真似をするが、ぴくりともしない。


「ごめんなさい。それ臨時発行のものなので、勝手に出入りが出来ないんです」


障壁によって姿は見えないが、声だけは聞こえてくる。


「ちょっと待ってくださいね…  はい、入れますよ」


それを聞いて、ネリーは改めて証明書を押し当てる。すると同じようにズブズブと入っていった。


「おぉー!」


彼女が入っていったのを確認し、さくら達も次々とくぐる。


「なんか妙な感じ…」


当てた手が弾かれるように堅かった障壁が、水のように柔らかい。そんな変な壁を抜け、全員がメルティ―ソンの元に合流した。


「ここから先の注意事項ですけど、どんな状況でも勝手に本を開かないでください。危険な本ばかりなんです」


図書館とは思えない注意事項にさくら達はごくりと唾を飲み込む。それほどまでに危ないエリアだということなのか。


「では進みましょう」


先程までいた場所よりも一層薄暗く、冷たい雰囲気の漂う通路を進む。ここもまた枝分かれした道が多いが、その先にある部屋の入口にはことごとく障壁が張られていた。



「なんか、気持ち悪くありません…?」


さくらはふと、そんなことを周囲に問う。吐き気とかの病状ではない。何か、周囲から細かな棘を刺されているような、虫が体を這うような、変なオーラが纏いついてくるような。鋭敏なものではないが、このエリアに入ってからずっとそのような感じなのである。


「うん、僕も感じる…」


メストに続き、ネリー達も賛成する。どうやら全員が感じているらしい。それを聞いて、メルティ―ソンは説明してくれた。


「ここの魔導書達はそのほとんどが呪いや使用者の命を削るような高難度の魔術ばかりなんです。本に書かれただけの呪文でも効力は強く、にじみ出てしまうんです」


さくら達は思わずゾッとする。自分達はここに来ていい存在ではないことを今更認識したのだ。




それでも竜崎がいるであろう部屋はまだ先。メルティ―ソン先頭に恐る恐るついていくさくら達なのだが―。


バサッ


「ん?」


最後尾を歩いていたネリーの前に、一冊の本が落ちてくる。


「なにこれ?」


思わず拾い上げる彼女。そして、なんとはなしに本を開いてみようとしてしまう。


「!? 駄目、ネリーちゃん!」


アイナがそれを見つけ、叫ぶ。ハッと気づいたネリーは本を慌てて手放す。だが、既に遅かった。


「グオオオオン!!!」


およそ本とは思えぬ咆哮をあげ、魔導書は勝手に飛び上がる。さくらが振り向いた時には、その本の中央見開きから牙が生えていた。まるで猛獣の口のように変貌したそれは、ネリーに向かって襲い掛かる。


「きゃあ!」


悲鳴を挙げるネリーの元に急いで駆け付けようとするメスト。だがそれよりも早く到着したのは、先頭を進んでいたはずのメルティ―ソンだった。


「えいっ!」


彼女は取り出した杖でひと打ち。もろに食らった魔導書はそのまま床に転がりパタンと閉じた。


「大丈夫ですかネリーさん!?」


「は、はい…ご、ごめんなさい…」


泣きそうになっているネリーを慰め、メルティ―ソンは本を拾いペラペラと捲る。今度は牙も咆哮も出てこなかった。


「これは霊獣の魂が一部封じ込められた魔導書ですね。あまりにも力が強すぎて、部屋に張ってある結界の抗力を一時的に打ち破ってしまうほどのものみたいです」


そう解説をした彼女は、近くにある部屋入口へと本を近づける。すると、グググッと引っ張られ内部へと吸い込まれていった。


「こんな感じに危険な本ばかりなんですよ。気を付けてくださいね?」


「はい…」





危険人物として、前をメルティ―ソン、後ろをメストに挟まれる形にされたネリー。そのすごすごと歩いている後ろ姿を見て、さくらは少し怖くなる。こんな物騒な場所に竜崎はふらりと来たというのか。


そんなことを考えている間に、どうやら到着したらしい。


「つきましたよ」


部屋に入ると、そこには竜崎がいた。ニアロンと共に新しく入ったであろう魔導書を読み耽っている。


「リュウザキ先生」


「? あ、メルティ―ソン先生…」


彼はメルティ―ソンの顔をみとめると、隠し事が見つかった子供のような顔を浮かべた。




―ん?さくら達も一緒なのか。どうした?何かあったのか?―


「いえ、特にそういうわけではないんですけど。グレミリオ先生に探してくるように頼まれたんです」


「ごめんごめん。あ、そうだメルティ―ソン先生、これこの間入った本みたいなんだけど」


竜崎が差し出した魔導書を受け取るメルティ―ソン。開いた瞬間、彼女の声調が変わった。

「これって…!私が探していた…!」


「やっぱり」


鼻息少し荒めに読み進める彼女。流れるように竜崎の対面に腰かけ本格的に読むポーズに。竜崎達もまた読んでいた本に目を戻す。


「あのー…メルティ―ソン先生?」


危うくミイラ取りがミイラになりそうな彼女を慌てて引き戻すさくら達なのだった。





「すみません…私まで…」


しょぼくれるメルティ―ソンと、こちらこそごめんねと謝る竜崎を先頭にして魔導書の領域から抜ける。ようやく肌に感じる気持ち悪さが消え、ホッとするさくら達だった。


「本借りないんですか?」


―ここの本は総じて危ないからな。借りるには別途申請がいるんだ。とんでもなく面倒な、な―


ニアロンの答えになるほど、と頷くさくら。あんな突然噛みついてくるような本が気軽に持ち出せるわけがない。



「さ、戻ろうか」


竜崎の言葉を聞いて歩き出そうとするさくら達。それにニアロンがストップをかけた。


―どうせなら風で運んでやれ―


「そうだね。風精霊」


竜崎の詠唱の元、召喚された沢山の風精霊。彼らは全員の背や足裏にくっついた。


「なんですこれ?」


「精霊達に歩くのを補助してもらっているんだ。ちょっと歩いてみて」


言われるがままにさくら達が足を踏み出すと―。


「わ!体が軽い!」


「えっ!?これ歩いているの!?」


「なんだか不思議な気分…楽しい…!」


自身の重さを感じないほど軽やかに足が動く。地上にいるのに空に浮いているような感覚。文字通り風の子になった気分である。


「すごい…!」


―精霊術を極めればこれぐらいできるようになるぞ―


「これ、私でもできますか?」


用いているのは精々が中位精霊。ここにいる皆の分は無理だとしても自分1人ぐらいは…!そう考えたさくらは無謀にも挑んでみることに。


「やってみる? コツは自分の微細な動きに合わせ、精霊達に逐一助けてもらう感じだね」


竜崎からアドバイスをもらい、自分で精霊を呼び出し同じように背に纏う。


「よし…!」


そして一歩を踏み出すが…


「あれ?おっとと…きゃう…!」


しょっぱなからその場でズッコケかける。竜崎に支えられ転ばずに済んだが、まだ諦めきれない。何度か挑戦するが…。


「わっわっ!」

「つ、強すぎ!」

「今度は弱すぎた!?」


幾度やっても上手くいかない。それを愉しそうに眺めていたニアロンがとうとう吹き出した。


―まだまだだな。大きな技は最悪自身を暴走させれば撃てるが、こういった細かな技だとそうはいかない。匠の技ってやつだ―


「むー…」



仕方なく諦め、大人しく帰ることに。歩きながら、さくらは竜崎に問う。


「ところで、帰る方法は見つかったんですか?」


「残念ながら…」


首を振る竜崎に、少し落胆してしまう。


「そうですか…」


そう意気消沈するさくらに、竜崎は励ましの言葉をかける。


「大丈夫、世界は広い。多分あるさ」


そこにニアロンからもフォローが入る。


―そう気を落とすな。ところで清人、また曲がり角通り過ぎてるぞ―


「あっ」

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