表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/391

10話 後片付け

「「本当にごめんなさい!」」


竜崎に平謝りするさくらとマリア。確認から戻ってきた彼は気にしないで、とひらひら手を振る。


幸い木が吹き飛んだ方角は平原が広がっており、被害は無かった。抉れた地面も直す術があるらしく、大丈夫大丈夫と笑っていた。


「しかし怪我がなくてよかったよほんと」

ナディと他生徒達は離れていたため爆音に驚いた程度、当事者のさくら達も砂まみれになっただけで済んだ。念のため寝ているニアロンを叩き起こして診察をしてもらっているが、特に問題はなさそうだった。


「みんな休んでていいよー。気持ち悪くなった子はすぐに医務室に行っていいからねー。」

皆に休息を促し、爆音を聞きつけなんだなんだと集まってきた人々を散らしに向かう竜崎。元の世界では大事件な状況だったが、意外にも野次馬は彼の説明を受けてすぐに帰っていく。さくらは気になり、戻ってきた彼に恐る恐る聞いてみる。


「あ、あの…どうして皆さん怒ったりしないんですか?」


「日常茶飯事とまではいかないけど、稀にあるんだこういうこと。ここは戦う術を教える所だからね。『訓練中に生徒の才能が開花した』と説明すれば皆わかってくれるんだ。だからそう気に病まないでね」



一方マリアは一人反省会を行っていた。


「こんな威力が出るなんて…限界突破機構の組み込み方を失敗しちゃたのかな…」

ぶつぶつと考察を続ける彼女にボルガ―が何度か声をかけるが、集中していて気づかない。結局竜崎がプ二と頬を突きようやくハッと顔を上げた。


「あ…ごめんなさい気づかなくて…。こんな不良品、お買い上げになられるわけないですよね…」

しょんぼりとなるマリア。しかし竜崎の答えは違った。


「ん?いや?買うよ?せっかく作ってもらったんだし。ただ、できれば制御機構を組み込むことはできるかな?詠唱しなければ起動しない術式とか。追加金も当然払うよ」


「え! えぇ!それは勿論!」

予想外の返答に驚くマリア。お願いね、と託しつつ、自分も触ってみたかったのか、さくらから武器を借り受け回してみたり振ってみたりと少し遊び始めた。


「しかしすごいな…あんな火力出したのに、これ傷1つついてない…匠の技だな」

惚れ惚れと武器を見る竜崎。マリアは素材の力ですよ、と照れ隠しをする。


「いやいや、すごいもんだ。お母さんの腕、超えたかもね」


「えー?そうですかー?まだまだですよー」

物凄いニヤけながら謙遜するマリア。先程までの沈痛な面持ちは完全に消え去っていた。



―なあ清人、ちょっといいか?―

生徒の怪我確認が終わり、現場検証をしていた二アロンが竜崎の服を引っ張る。どうやら破壊痕を間近でみたいらしく、皆の前から一旦離れた。



教師である彼がいなくなったことで、他生徒から悪口や批判が飛んでくるのでは、と身構えるさくら。しかしきたのは称賛と尊敬と質問の嵐だった。


「すごーい!あんな魔術つかえるなんて!」

「どうやったの!?教えて教えて!」


「『発明家』の娘さんのマリアちゃんだよね!あんな武器作れるとか血筋の才能じゃん!」

「俺もあの子に武器作ってもらったら強くなれるかなー?」

「止めとけ、絶対高いよ」


勢いに押されあわあわするさくら。ナディの執り成しがなければ目を回していたところだった。



少しして、竜崎が戻ってくる。が、神妙な顔をしていた。

「どうなさったんですか先生?」


ナディが心配げに問う。説明に困っている様子だったが、ニアロンが進み出た。

―私が説明しよう。犯人のようなものだからな―



―どうもさくらの魔力の感覚と魔力残滓が一致しなくてな。精霊石励起による魔術発動ならば本人の魔力が顕著に現れるはずなんだが。もしかしたらと思い調べてみたら…面白いことに、私の魔力と一致した―

「それはどういう…?」

訳が分からない、と首をかしげるナディ。


―思い当たる事が一つある。連日さくらにかけている言語魔術だ。昨日は一日中寝ていて、魔術を使っていなかった。のにも関わらずダルさは増す一方だった。ということは―

その言葉を合図に竜崎が手の上に渦巻く透明な何かを形成する。それをさくらに近づけると瞬く間に彼女の体に吸収されていった。


―やはり魔力の吸収速度が尋常じゃない…。謎が解けた。こちらが魔術をかけている間に、魔法陣を介して私の魔力を吸い取っていたんだ。サキュバス族かなにかかさくらは…―


ニアロンがいうサキュバスが『淫魔』として名高いあの悪魔かどうかはさくらにはわからないが、とりあえず先程の強大な力は自分の力ではないという事らしい。少し残念に思うさくらだったが、竜崎は不安げな表情を浮かべていた。


「本来魔力を持ちすぎると酔ったり暴走したりするんだが、今までそんな様子はなかった。容量もかなりあるということか。魔力さえあれば弱い詠唱でもあの火力を出せるこの武器と…すこし心配だな…」


―なら私達が教えて守ってやればいいことだ。そこまで不安がるな。お前がそんな顔だと皆怖がるぞ―


笑え、とニアロンに顔をいじられる竜崎。その様子に皆吹き出してしまう。当の本人は苦笑いだが。


「さて地面戻したいところだが…報告が先かな」

どうやら騒ぎを聞きつけ学園長が出張ってきていた。責任を感じるさくらに大丈夫と優しく言葉をかけ、竜崎1人学園長の元に赴く。




「直していいってさ。事件性もないし」

すんなりと戻ってきた。学園長も何事もないように帰っていく。思わず謝るさくらに竜崎は笑う。


「怒られてないよ。学園は実力主義なとこあるし、寧ろ誇っていいんだ。学園長も昔は滅茶苦茶やったみたいでね、かなり理解はある方だから怖がらなくてもいいよ。さて、みんなあの穴の前に集合!」

突然号令がかかり、わらわらと集まる生徒達。揃ったのを確認し、彼は口を開く。


「土精霊は最も多く存在する精霊です。なにせ地面がそうですから。種類も多く、土を司るもの、岩を司るもの、砂を司るものなどなど…岩精霊や砂精霊とも呼ばれますが、総称として土精霊と呼ばれますね。では、土を司る精霊を呼んでここに土を補充してみましょう」

流れるように授業がはじまった。あまりの変わり見にさくらは驚き、生徒達は苦笑い。


大小様々な大きさの土精霊が呼び出され、穴を埋めていく。竜崎はアドバイスをしつつ岩精霊で地面をならしていた。その様子を見ていた工房二人組とさくらだったが、ふと思い出したようにマリアがボルガ―から何かを受け取る。


「さくらさん。こちら、お返ししますね」

綺麗なままのテニスラケットが返される。それと交換するようにさくらはあの武器を返す。


「ごめんなさい、私の調整不足で。次はもっと安全かつ使いやすくしてきますね!」

「嬢ちゃん、申し訳なかった。今度お詫びに何か作らせてもらうよ」


そういい、二人は工房に帰っていった。後ろ姿を見送っていると、授業終了を知らせる鐘が鳴り響いた。


「はい、じゃあここまで。みんなありがとう。時間いっぱいになっちゃってごめんねー」

ありがとうございましたー。と室内に戻っていく生徒達。それに手を振りながら穴埋めの続きをしていく竜崎。本当に授業を兼ねていたらしく、彼一人でやると速攻で穴が埋まった。


「さくらさんごめんね、まだ片付けと報告書があるから先に休んでいていいよ」

私もお手伝いします。とさくらと有志何名かが立候補したが、これも先生の仕事だから大丈夫だよとやんわり断られる。


「じゃあ私達がその間さくらさん?とお話してていいですか?」

生徒何人かがお付きに立候補する。すこし不安そうな竜崎だったが、ナディも同行してくれるということで渋々承知した。


「さくらさん、お茶しながらでもおしゃべりしよう」


「ナディ先生どこ行きます?あ、奢ってくれたり?」

「えぇ…お金あったかなぁ…」

「冗談ですって!もーすぐ本気にしちゃうんだからー」


わいわいきゃっきゃとさくらを取り囲みながら楽し気に相談する彼女達。本当に手伝わなくていいのかな、と思い竜崎の方を振り向くと、既に遠くで飛び散った木の片付けに移っていた。


「リュウザキ先生は悪気がなければ怒らないから大丈夫だよ」

と生徒の一人が気にかけてくれる。


「でも私、会うまで先生怖い人だと思ってたなー」


「わかる。あの勇者一行の1人だからもっと厳格な人かと」


「私もー」


自然と竜崎の話題になる。さくらは今まで気にはなっていたが、どうにも聞くタイミングを逃していたその事を聞く。


「あの…勇者一行ってなんですか?」


「「「えっ!? 知らないの!?」」」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ