105話 代表戦④
「奇襲失敗だよー!」
「やっぱりあの魔族の人が強いな。2人がかりでもいなされたし」
「1人が穴に落ちている間に決着つけちゃおう」
ドワーフの3人はそう言葉を交わし、各々の得物を構え直す。彼らの武器はハンマーやメイスといった重厚な武器、直撃したら骨なんて簡単に折れそうである。
穴から抜け出せず四苦八苦しているクラウスを守るようにさくらとメストは立ちはだかる。さくらに1人、メストに2人つき、睨み合う状態に。しかし…。
「なんかやりにくい…」
種族全体の特徴として身長が低いドワーフ族。子供を相手にしているようでやりにくいったらありゃしない。いや自分も子供ではあるのだけど。
そう考えているさくらに、ドワーフの子が突然聞いてくる。
「それ、アンタの専用武器?」
「えっ。うん」
「あー…。壊すの忍びないけど、全力でいくよ!」
ガンッ!ギンッ!ゴンッ!
鈍器をまともに受けないようにラケットで受ける。さくらは彼らを子供と思ったことを内心反省していた。なにせ一撃一撃が重いのだ。小さな体のどこからこんな力が出るのか。手が痺れすぎて感覚が無くなってきた。
と、相手は意外そうな顔をして攻撃を止めた。
「その武器、堅いね。何使っているの?」
職人気質なドワーフ族の血が騒ぐのか、専用ラケットが気になって仕方がないようだ。
「え、えーと…」
神具だ、と言っていいものか。答えあぐねるさくらを気にせずドワーフの子は言葉を続けた。
「試合終わったら見せてもらっていい?今後の参考にしたいんだ。壊れてたら直してあげるから、お願い!」
戦闘中だというのに手を合わせて頼み込んでくる。さくらは思わず頷いた。
「う、うん」
「やった!じゃあ後でね。今は試合に集中しよう!」
いやそう気軽に言われても。こっちは1人が落とし穴にハマって不利な状態である。後ろにいるクラウスはまだあがいていた。
「くっ…出れない…!」
手を伸ばして彼を引っ張りあげたいが、攻撃を捌くので精一杯。とはいえこのままだと押し切られそうである。
「自力で登ってこれない?」
「足がつかないんだよ…」
どうやら宙ぶらりんで力が上手く入らないらしい。
「足を延ばしたりできないの?」
「できるかそんなこと!」
そりゃそうだ。他の方法は…。
「穴の底に足場を作るとか?」
「そんなこと…あっ、そうか!『地裂』!」
ボゴォ!
どうやら自分の足元を隆起させたらしく、飛び上がるようにして穴から出てきた。
「おっとっと…」
姿勢を崩しながらも着地し、剣を構え直した彼は威勢よく啖呵を切る。
「今度はこっちの番だ!」
メストが相手をしている内の1人を貰い受け、剣を振るうクラウス。どうやら恥をかかされてご立腹気味なのか、その太刀筋は凄まじい。ドワーフ族の剛力もなんのその、瞬く間に1人からゼッケンを奪い取った。
「つ、強い…!」
「ジョージ先生直伝の剣技を舐めるな!」
1人も削れず、あろうことか自軍側がやられたとあってドワーフチームは俄かに焦りだす。
「ここじゃまずい、あっちに誘導しよう…!」
「わかった…!」
僅かな相談の後、メイスを持っていた子が謎の行動をとる。殴りつけるのではなく、先端部分をさくら達に向けたのだ。
カシャン!
頂点部の蓋らしきものが開く。そこから姿を表したのは大きめの石だった。
「あれって…火焔石!」
さくらは以前ログ先生に見せてもらった魔鉱物を思い出す。「火焔石」、魔力を籠めることで火を発生させることができ、その注いだ魔力量に応じて火の大きさを調整できる代物だが…。
「『限界突破機構』起動!」
バチバチバチ…!
メイス底部分に立体魔法陣が発生。唸りをあげる。そして―。
「ダルバ工房と私達の技術の合わせ技!いっけぇ!」
ボウウウウウッ!
火炎放射器のように火を出し始めた。
「マズい、下がるよ!」
メストの声に合わせ、さくら達は急いで逃げる。そんなギミックが仕込まれているとは…。流石はドワーフ族。対抗すべく水精霊を出したいが…。
「待てぇ!」
ドワーフの子は火を振り回しながら追いかけてくる。走る速度を緩めたら間違いなく燃やされる。詠唱なんてする余裕はなく、必死に逃げるしかなかった。
「はあ…はあ…あれ?追いかけてこない?」
気づくと、彼らは少し離れた位置で動きを止めていた。
「魔力切れか?」
クラウスが反撃に向かおうとしたその時だった。
シュルルルルル…
彼らの方から幾つもの魔術が地を這い迫ってくる。警戒を強めるさくら達だったが、それらは全て彼女達を囲むように止まった。
ポコッポコッ
次々に地面にスイッチが現れ、魔法陣が展開し、糸が張られる。
「メスト先輩、これってもしかして…」
「あぁ。嵌められたようだね…」
あれらはどうみても罠の起動スイッチ。しかも全方向に満遍なく。一歩でも動いたら間違いなく餌食になるだろう。
先程までの逆転劇はどこへやら。一転ピンチである。さくらは絶体絶命のトレジャーハンターの気分だった。




