反知性的な人間が量的緩和を非難する理由
経済の仕組みを欠片も知らない人間がいるとする。
曰く、インフレは借金の踏み倒しだ~インフレしている事は少しずつ崩壊に向かっているんだ~とか何とか。経済学によって、経済活動が数的に観測されるようになってから現在に至るまで、『現存する人類社会は唯一の例外なく、変動はあれどインフレ傾向である』という当たり前の事象を知っていれば、このような無知蒙昧な発言は出てこない。人類社会は有史以来常にインフレしてきた。そうでないと主張する事は、細菌が観測される以前の社会では感染症による問題は無かったと言い出すようなものだ。
第一、モノやサービスの向上にはコストが掛かかる。それを成り立たせるにはコストを回収しなければならない事など自明の理であろう。こんな事を主張する人間は、社会の変化に恐ろしく無頓着か、モノやサービスを提供してくれる人間に対して残酷なまでに無関心なのだ。
ちなみに朝日新聞は、彼らの経済感覚に付いて虫唾が走るほどに理解できる記事を出してくれている。そのタイトルは『経済成長は永遠なのか「この200年むしろ例外」』まあタイトルでお察しだろう。ノストラダムスの大予言と同系の破滅論者としか言いようのないバカげた主張だ。まず朝日新聞様がガリ版で記事をお刷りになられて徒歩で売り歩かれてはいかがですか、としか言いようがない。
いまデフレ脱却の為に政府は色々手を打っている。その人物は量的緩和に反対のようで出口に備えるべきだ、と主張する。過ぎた2017年の8月時点で400兆円以上もの金が量的緩和で投入された。すごい金額だがそれでインフレはどのぐらい進んだのか? 11月の数値は前年に比べて0.3%の上昇である。この状況で出口待ったなしと言う。しかもそれが決定事項か何かのように言うのだ。
誰が決めているのかと言うとマスコミが~とか経済学者が~と言う。マスコミに政策決定権など無いし、文屋風情が物事の真理を司るなど傲慢不遜も甚だしい。そして、そんな権能は一学者にも無い。学会でそれまで定説であったとされる説が覆される事などよくある事だ。そもそも上記の歴史的経緯から、その経済学者が主流派かすら怪しい。それに量的緩和に賛成している経済学者はいないとでも思っているのだろうか? 学者であるという、権威が物事の真理を決定するならノーベル経済学受賞者が量的緩和に賛成している以上それで終わりの話だ。この人物は自説に都合の良い人間にのみ、権威を認定してそれに従えと言うのだ。
またこの人物は借金1000兆円が一斉に襲い掛かってきたら~とも主張している。管理通貨制度や信用創造が借金によってお金を創造する作業であるという事を全く知らない。そして借金をサラ金みたいな破綻確定の代物でしか想像できないのだ。銀行は金を貸して債務者の資産を切り売りして儲けるのではない。債務者から金利を得る事で儲けるのだ。そして銀行預金は銀行があなたにしている借金である。債権とは資産であるという認識が欠片も無いのである。
ここで問題がひとつでてくる。お金で貯め込むのと、資産で貯め込むのどちらが良いだろうか? 現代ではまともな企業は最低限の運転資金のみを確保して後は全て資産に換えている。何故か? お金に金利はつかないからである。そんな経営をしていれば株主総会で総スカンを喰らう。そもそも現金や預金で保有していると法人税でゴッソリ持っていかれる。
そもそも自国通貨建ての債券を通貨発行によって償還できる事も含めてこれらは契約やルールに則った健全な商活動である。でなければ何故世に他国通貨建ての国債が存在するのか? その国債を買う事を決断したのはその投資家の個人的決断である。彼らの無能と失敗を何の関りもない国民がデフレという名の奴隷労働で支えなければならないのか? さらに言えば通貨発行による償却においても一番得をするのは債権保有者である。
通貨を発行すればインフレになるが、そのプロセスに通貨の信任とやらが棄損されるからインフレになるという意味不明な主張がある。発行されたお金からよく分からない力が働いてインフレになるとでも考えているのだろうか? 仮に千兆円ほど発行して燃やしてやればインフレになる? ナンセンスな話だ。こんなオカルトを口にする人間は、現実に400兆円ものお金が放出されてもインフレがまともに進まない事の説明をしてもらいたいものだ。仮にこの流れでインフレが起きるとしたら、銀行から誰かが金を借りて使った場合によってでしか起きない。お金は使わる事によってインフレを引き起こすのである。最初にお金に触れるのは誰か? 簡単な話だろう。
この人物は以前、流動性の罠で量的緩和はいけないんだ~とか言っていたが、全くプロセスを理解していなかった。流動性の罠で調べると、投機的理由によって貨幣需要が無限大となり低金利政策はうまくいかない、と短く記される。この人物にとっては『低金利政策はうまくいかない』という文面だけが全てで、学問的に一番重要な『なぜなら』の部分が抜け落ちているのだ。その理由は良く分からんけど、昔の偉い経済学の先生が低金利政策はうまくいかないと言っているではないか、それに従えと言う訳だ。本気で呆れたね。それで前提となる流動性の理論を説明したら。それは流動性の罠と違いますね、とかドヤ顔で言う訳だ。まさしく呆れ果てたね。
投機的理由とは何か? 買っても儲からないから買われない。そしてお金と債権では、お金の方が使いやすいしリスクも少ないんだから買う意味が無い。むしろ債権を売っぱらってお金を持った方が安心だ。つまり流動性の罠で低金利政策がうまくいかないのは『買われない』からうまくいかないのだ。だが実際にはどうだろうか? 過去にFRBがした時に普通に効果があった。量的緩和派が考えたように将来インフレになるんなら金利の安い今のうちに金を借りとくかという動きがでたわけだ。
そもそも、この理論を提唱したジョン・ヒックスはケインズ派だ。ケインズといえば穴掘って埋めるだけでも金が回れば経済が回るというアレが有名な学派だ。どう考えても続く言葉が出てくるだろう。『だから政府は財政出動をしろ』と。
そして究極が彼が口にする経済政策である。政府はもっと緊縮できる、無駄をなくせ。なんでも民間のモノやサービスが増えるとインフレになるんだと。そして借金を返済するらしい。これらの政策は完全にデフレ傾向の政策である。モノやサービスの提供者が多くて過当競争している状態であるのに、この人物に言わせれば労働者共はサボっているらしい。もっと競争しろだって。緊縮政策はそもそもが仕事を削減する政策だ。コンクリートから人へとやらでどれだけの土建業者が倒産したのか彼は全く知らないのだろう。借金返済は日本銀行券の消滅を意味する。金不足で苦しんでいるのに更に金を減らしてどうするんだか?
量的緩和にも反対、財政出動にも反対。アンチインフレ思想を垂れ流して、デフレ政策を提言しておいて、デフレ脱却に反対しているの? と聞くと『いいえ、わたしはデフレに反対しています』と言う。自身の論理破綻に全く気が付いていないのだろうか? どうにもその瞬間瞬間で、都合の良いのお綺麗な言葉を並べているだけにしか見えない。
これらの話は経済の話をしているようで、実は全く経済の話をしていない。そもそも彼の思想は最後に書かれている『国家は信用できない』の一言に全てが集約されている。彼の脳内では国家とか権力は絶対的悪と決定されており、その為に思考を後付けで行っているだけなのだ。その対象が量的緩和なだけで、実際に経済政策に関心があるわけでない。都合のよさそうな情報を得たら何も考えずにホイホイ使ってしまうのだ。情報提供者が公正なのかとか正確なのかとか、欠片も疑わずにまるで正義の使途か何かのようにである。
ここに朝日新聞論説委員のT氏について日刊ゲンダイのインタビュー記事がある。記事のタイトルは『安倍政権の気持ち悪さを伝えたい』だ。彼らが信奉する正義の使者がいかに性根の腐った存在か良く分かる部分を抜粋していこう。
”ウラを取って書けと言われるが、時に〈エビデンス? ねーよそんなもん〉と開き直る。”
”時に〈『レッテル貼りだ』なんてレッテル貼りにひるむ必要はない。堂々と貼りにいきましょう〉とあおり、〈安倍政権は「こわい」〉と言い切る。”
どうだろうか? 余りに強烈すぎて筆者自身、この記事は脚色したのではと思ったほどだ。しかし、かの人物は完全にこの文脈でこれらの言葉を口にしているのだ。それはT氏の著書である『仕方ない帝国』にはっきりと書かれている。本の表紙は特定人物に対する憎悪たっぷりだ。
”読者の思考を揺さぶりたい。はい、きれいごとですよ。だけど、そこを曲げたら私の中の何かが終わる。何かとは何か。何かとしか言いようがない、何か。エビデンス? ねーよそんなもん。”
この人物は新聞記者だ、小説家やフィクション作家ではない。それも新聞の顔である論説文を書くほどの上位の記者である。その人物が、はっきりと安倍政権を論理的にやり込めないから、貶める為ならレッテル張りをしていいし、エビデンスなんて無くてもいい、と言っているのだ。
そして、目的もはっきり書かれている『読者の思考を揺さぶりたい』だ。さぞ快感だろう。白を黒と言い張り民衆を扇動して、民主党政権なんておバカな政権を作る事にすら成功したのだ。馬鹿な愚民どもが自分たちの言うとおりに動いて世の中を無茶苦茶にしてゆくのだ。圧倒的愉悦であろう。
と、こう書くと陰謀論乙といった感じに思われるかもしれない。だが実際問題、陰謀論の方がマシだろう。でなければ、仮にも良いとこの大学出て広くも無い門をくぐった連中が、こんな経済学の教科書を流し読みすれば、疑問に思うような事に気が付かずにとんでもない数の記事を出しているのだ。あまりに無能と無責任が過ぎるというものだ。そしてそんな物に扇動されている人間がいるのである。
あるいは、新聞社はそんな偽正義が気持ちよくて仕方ない人間の為に、気持ちよくなれるような記事を書いてあげているのであろうか? 俺はバカだと思うけど読者はこういうのを望んでんだよって。こういった流れをデイリーミー現象というらしい。
それでも、何か知らないけど、権力とかむかつくんだ! 心からの行動なんだから正義のハズだ!? とまあ正義漢()は最後にこんな事を言い出すわけだ。とにかく権力や社会規範そのものが気に入らない。その人物が自由原理主義者でも無ければ答えはひとつでないか? エディプス・コンプレックスである。要するに、遅すぎた反抗期だ。父性的存在に反抗することが目的であり、それで成し遂げたい事など何も持たないという無価値な反抗だ。突っ張るだけで勲章が貰えた時代などとっくの昔に終わっている。