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潮風ステイ~君に会う日~

作者: ハルカ カズラ
掲載日:2017/11/21


 突然切り出された別れの言葉に成す術も無く、恋は唐突に終わりを迎えた。涙が出るかと思えば、一滴も流れることが無く、渇いた唇が潤うことを望んでいるくらい。


 失恋と言えばそのままの意味だけど、私の他に心を2つも置かれてはどうすることも出来なかった。私には広い心を滞在させる器量も、優しさも持ち合わせていなかった。


 失意のまま、気の向くままにどこか地方の宿を求めて適当な観光ツアーに申し込んだ。長寿の方々と共に着いた先は、潮風薫る小さな町。


 大型とも呼べない中型バスから降り立ち、しなびた宿でお世話になることになった私は帰る予定も無く、ただただ数日の間、部屋の窓から片あご付けて潮の満ち引きを眺めていた。


 長寿の方の中に在って、ただ一人若い私が珍しいのか宿に魚を卸しに来た青年が声をかけて来た。


「せっかく来たのに外を眺めてばかりいるみたいだけど、この町はつまらない?」


「潮風は気持ちいいわ」


「滞在する間、キミはずっとそこにいるつもり?」


「他に何もすることがないもの」


「無理にとは言わないけど、俺と浜辺を歩かない?」


 滞在しているだけで何も目的も無い……そんな私を誘うなんて物好きな人もいるものね。何となく、興味も無ければ彼に惹かれた訳でもないけれど、誘いに応じて浜辺を歩く。


「俺はこの町を出たことがないんだ。でも、嫌いになることも無くこうしていつも浜辺を歩き続けている。もちろん、漁師やってるってのもある。キミはどうしてこの町へ?」


「……」


「失恋でもした?」


「……そうね。失恋も失恋、大失恋もいいとこだわ」


「それじゃあ、いる間だけでもいいから一緒に歩かない?」


 この人は失恋したこともなければ誰かを好きになったこともない、純粋な人なのだろう。こんな私を慰めてくれるのだから。


「好きな人も、嫌いな人も……恋を失ったことも、あなたは無いでしょう? 私は全てを失ってここにいるわ。ただ滞在しているだけなの。波の音を聞いているだけでいい」


「それでいいんじゃないかな。何かの辛さをどこかに置き去りにするより、ここで全てを流していきなよ。そして、その全てを流し終えたらまたこの町に来てくれないかな。俺はキミに会える日を待つから」


 町を出たことが無い、か。都会の喧騒に疲れた私とはまるで違う台詞ね。一緒に浜辺を散歩するのも悪くないのかもしれないわね……


 この町に来て一人だけ宿に残っていた私。ツアーで来ていた人たちはすでに帰り、宿はすっかりと静まっていた。さすがに長く滞在しすぎたことと、浜辺で歩いた彼の言葉で少しは自分を取り戻せたこともあって、私は彼に会って話がしたくなった。


 彼と話がしたいその一心で、浜辺へ行くと彼は寂しそうに私を見つめて来た。


「都会に帰るんだろ? キミの名前を聞いていい?」


「……こばと」


 笑顔になった私を見て、この町から離れることを悟った彼。切なそうな表情を浮かべている。これ以上、会話を続けられなかった。それなのにどうしてここで私は涙を流してしまうのだろう……どうして……


「俺は陽之はるゆき。潮風薫るこの町で、こばとにまた会える日を待ってる」


 彼には別れ際、メールアドレスだけを教えて私は町を離れた。都会に戻り、私はまた仕事ばかりの日々にどっぷり浸かっていた。失恋をしたことも忘れてただひたすらに……


 それでも、何か心がぽっかりと穴が開いてしまったのか仕事に打ち込んでいても心は常に隙間風が吹きまくっていた。潮風の町で滞在していたのが懐かしい……そんなことを思っていた私の元に一通のメールが届いた。そして――


「陽之さん?」


「待ちきれなくてこばとに会いに来たよ」


 駅へ降り立った彼からは、潮風漂う最高の笑顔を感じた――

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