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失敗<アナザーサイド>

「では、我々も参ろうか。ヴィクトール」


スズカ殿と別れた後、レイモン殿にそう言われ、私は強く頷く。

いよいよ、弟アルノルフを救う時がきたと思うと、私の気持ちは昂ぶるばかりだった。


「行こう、レイモン殿」


レイモン殿と互いに目を合わせて頷き、私たちはメイデン家の門番の元へ歩き出した。


「巡回中の騎士団である。メイデン家当主殿に用があるのだが」


堂々とレイモン殿が声をかける。まさしく本物の佇まいだ。見習わなければ、と私も背筋をぴんと正す。父から借りた制服にはまだ不釣り合いな自身であるが、この場所だけはやり過ごさねばなるまい。


「何用か」


門番は警戒して問いただす。当然の返しだろう。私は一歩前に出た。



「当方に脱税疑惑の嫌疑がかかっている。中を改めさせていただきたい」

「脱税? そんなバカな」



門番達が動揺して顔を見合わせている。知っていて隠しているのか、まったく預かり知らぬ話なのか。どちらでもあり得る話だ。



「主人に確認させて欲しい」

「いや、その間に証拠を隠滅する恐れがある。疑惑が晴れれば、それで良いのだ。」

「しかし、」



そうこうしている間に、私は耳をすます。そろそろ時間である。




ぱりん!




ガラスが粉々に砕ける音がした。スズカ殿だ、スズカ殿が窓を割ったのだ。ついに作戦は始まった。


「なんだ今の音は。中に入れてくれ」


作戦通りの言葉を口にし、強引に中へ押し入ろうとする。が、


「だめだ」


ーーーーーー冷静に、門番はそう言った。


持っていた槍を互いに交差させ、道を塞ぐ。しまった、と私は心の中で舌打ちした。ここで私が行かなければ、作戦はすべて水の泡だ。


その時、背後から殺気を感じた。







「だめだよ、アンドレ」






間一髪で攻撃を交わす。剣を振り下ろそうとしていたのは、レイモン殿だった。


「レイモン殿!?」


私は混乱して叫ぶ。そんな、どうしてレイモン殿が。



どうして、レイモン殿が私に剣を向けている?



裏切られた、その答えにたどり着くまで、私は多大な時間を要した。二、三の攻撃を連続して避ける。


「愚かな」


当惑している私に向かって、レイモン殿が吐き捨てる。


「素直に鎖につながれていれば良かったものを。敵の不祥事に乗じて、身内を助けようなどと。これだから負け犬の考えることは」


レイモン殿は低くうなり、こちらを睨んだ。先ほどまでの協力的なレイモン殿とは違う。痛いほどの熱を込めた、怨念のこもった瞳だった。


レイモン殿は再び剣を振り下ろす。


「…っく」


私は剣戟を流すと、彼らから距離を取った。門番たちもなお、こちらに槍を構えている。3対1だ。


敵とみなすしかないのだろうか。私はまだ戸惑っていた。


だが、レイモン殿は低く唱え始めた。


『木葉の魂よ、私の声を聞け』


森の守護だ。と、とっさに私は考える。獣人の多くは、森の精霊から加護を受ける。木葉の魂もその一柱。

彼はやや詠唱を省略する。


『-舞木葉スフィフトネス-』


このスキルを、私はよく知っている。私は自分を落ち着かせるために、ふぅ、と息を吐いた。スピードをあげるスキルで、珍しいものではない。


父上。


とっさに、私はその名前を思い浮かべた。父上から教わった、父上とともに特訓したスキル。我がケネル家が得意とする強化スキルだ。



心を静かに、平静に保ち、そして神に祈る。




『-幹枝鎧ウッデンアーマー-』



力を貸してくれ。大樹の霊よ、母なる森よ、我が父よ。




すんでのところで間に合った。一迅の風が私を貫いたが、切り傷は受けていない。効果は短いが、その時間内のすべての攻撃を無効化する。通常の剣戟であれば、問題なく受けられた。


「…ちぃ、」


レイモン殿のスピードが元に戻った。その隙を突いた。自分も剣を抜き、脇に挟む。


柄を前にして。


「うおおおおおおお」


そして思い切りレイモン殿の懐に入り、みぞおちを突いた。


「ぐうっ」


レイモン殿がひるむ。私は剣を捨て、彼の背後に回る。肩を掴んで腕をとり、彼を地面に組み伏せた。


「き、きさま、」

「レイモン殿、何故、」



「アンドレ! 後ろだ!」



どこからか声が聞こえた。懐かしい、よく知る人の声だった。


誰の声か認識する前に、後ろに注意を向ける。二人の門番が槍を構えこちらへ向かってきているところだった。しまった、敵はまだいたのに油断した。


が、


きぃん!


派手な衝撃音がして、攻撃がはじかれたのがわかった。慌てて目をあげると、そこには盾を持った父上と兄上がいた。


「父上! 兄上!」


「アンドレ、敵がまだいるの背後を見せるなど、修行が足りないのか!」


父の叱責が飛ぶ。私は思わず子供の頃に戻ったかのように、目を瞑った。


「申し訳ございません、父上!」


「アンドレ、レイモンは僕が抑えよう」


兄が私と場所を代わり、レイモン殿を組み伏せる。父上は二人の門番に対自するように剣を抜いた。


「まさか本当にフェレ家が裏切り者だとは」

「父上もなんだかんだ甘いのですよ。ラウール・フェレと父上が師団長の座を争った時から、フェレ家はこんな感じでしたよ」


兄はややため息をつきながらそう言った。


「アンドレ。ここは私たちに任せて、お前は中へ。役割を果たすんだ」

「兄上…」


私は一瞬、言葉を失う。だが、迷っている時間はなかった。



「後を頼みます!」





私は父上と戦う門番の隙をついて、メイデン家の敷地内へ入った。





「待て! 女!」




声がするのを感じて、そちらに目を向ける。


先頭を走っているハゲ頭の男は、おそらくメイデン家当主の…ええと、パステルだったか。

その後ろを追っているのは、遠目にもスズカ殿だと分かる。


そしてその後ろを大勢の召使たちが走っているのが見えた。


「…っ、スズカ殿!」


私は視認できた方向へ駆け出す。彼らは厩舎に向かっていた。芝生を横切り、最短経路をとる。盾を持っていると早く走れなかったので、走りながら装備を外した。


厩舎の入り口でスズカ殿が足を止める。


次の瞬間、召使の一人がスズカ殿をとらえた。男がスズカ殿の首を締めているのが見える。抵抗しようと試みているが、何人もの男たちが彼女を取り押さえにかかった。


私の意識のどこかが、ぷっつんと切れた。

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