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騎士団

他にやれることもなかったので、私たちは先に師団長に会いに『暁の騎士団』を訪れることにした。


近所の居酒屋で会ったことはあるが(情報を引き出すために会いにいったのだけど)実際に騎士団を訪れるのは初めてだ。


あ、そういえば。


「ヴィクトールも、ここに居たんだよね」


しまった。彼は騎士団見習いだったのだ。きっとここは憧れの場所だろう、本当ならばここに居るはずだった。そんなところに今更来るのは、辛いんじゃないか。


「…そうですね。」


彼は懐かしむようにそう言った。


「宿に戻ってる?」


「…? どうしてです?」


「辛いかなと思って」


彼は少し考えて、首をふった。


「辛くないといえば嘘になりますが、弟のためですから」


「…そっか、」


私が門番に声をかけようとすると、ヴィクトールが一歩前に出た。


「お久しぶりです。ロラン殿」


ヴィクトールの姿に気付いた門番が驚いて声をあげた。


「えっ、…お前、アンドレじゃないか!」


「ご無沙汰しております。お元気そうで何より」


門番は笑顔でヴィクトールの背中をバシバシと叩いた。もう一人の門番も近寄ってくる。


「いやぁ、本当に。元気そうじゃないか。え?」


「アンドレ!」


「レイモン殿も。おかげさまで元気です」


にこにこと笑いながら答えるヴィクトール。満面の笑みである。良かった。


まぁそうだよね。彼に非があったわけではない。


「昨日は第5師団のダンジョン中ボス討伐に加わったって聞いたよ。なかなか自由にやらせてもらってるんだな。」


「ははは…」


笑ってごまかすヴィクトール。雇い主後ろにいるからね。


「今日は夕方から手伝いにきますよ。今日はシリル殿に会いに来ました」


「シリル殿? 今なら執務室に居るだろう。入ってくれ」


私はほっと胸をなでおろす。良かった。やっぱり、アドルフさんの名前を出さない方が話が通る。


「どうぞ中へ」


ヴィクトールの後に続いて、敷地内へと案内される。城のすぐ脇にある騎士団の建物が、大小いくつも並んでいる。あんまり広くはなさそうだ。


「ここにあるのは、中心機能のほんの一部です」


キョロキョロしていると、ヴィクトールが説明してくれた。


「訓練場や厩舎は街の外にあります。貴族出身でないもの向けの独身寮も向こうにありますね。」


「へー」


そうこうしているうちに、大きな建物に入っていく。階段をいくつか登り、たくさん小部屋があるフロアに来た。


「第18師団シリル殿の執務室です」


ヴィクトールに言われて、扉をまじまじと見る。同じような扉がたくさんあるし、看板も出ていないから、慣れていないと絶対迷いそうだ。


「ふーん」


他人事みたいに言いかけて、ヴィクトールが私を見ているのがわかった。

あ、ここからは私か。うん、ごめん。


私は意を決して扉をノックする。


「入れ」


中から声がして、そっと扉を開けた。


「失礼しま〜す…」


礼儀なんかよく分からなかったので、そっと扉を開ける。整えられた執務室が目に入った。


書類を見ていた男の犬耳がぴくんと動く。男は顔をあげた。


「君は?」


おっと。どう名乗れば良いのだろうか。


「えっと、冒険者のスズカです」


彼はじっとこちらを見た。たぶん、私のステータスを見ているのだろう。(勇者)の文字が目に入っているに違いない。


「…と、アンドレ・ケネルです」


私はさっと後ろにいる彼を紹介する。ヴィクトールが背筋を伸ばした。


「はじめまして。父アデルがお世話になっておりました。アンドレ改めヴィクトールと申します」


「おお、アシルの息子か」


師団長は手を止めて立ち上がった。「さぁ座ってくれ」


さすがヴィクトールである。本当にアドルフさんの名前は出さない方が良い。


執務机から立ち上がり、手前にあるソファに座る。私も向かい合わせの席に座った。


「大変だったみだいな」


ヴィクトールのステータス(奴隷)を見たのだろう。シリル団長はまずそう言った。


「はい」


「メイデン家か。やっかいなところに目をつけられたもんだ。」


彼は顛末を全て知っているようだった。師団長はやや遠くを仰ぎ見る。


「アシル・ケネル…惜しい男を無くしたものだ。元第25師団長。祖父の代から騎士団に所属する真面目な男だった。息子のアドルフが我が隊でな…。」


しまった。アドルフさんの名前が出てしまった。


「…まぁいい男だった…。」


アドルフさん、評価。


「あのアシルの息子が訪ねてきたというのだ。時間を割く価値があるというもの。話を聞こうじゃないか」


初めからアシル殿の名前を出せば万事うまくいったのではないかという気がしてきた。


「そのメイデン家のことなのです」


話の主導はヴィクトールが持ってくれた。正直すごい助かるわ。情けない主人でごめんよ。


「妹アレットより噂を耳にしました。メイデン家は奴隷商人と繋がっているという噂があると」


「…ふむ」


「そして奴隷商売で得た税金をごまかしているとの話です」


「確かに、奴隷商人とつながりがあるとすれば、それは国税をごまかしているということだろうな。あの家から領地内税収の他に収入があるという話は聞いたことがない」


シリル殿はあごに手を当てて考える仕草を見せた。


「しかしなぁ、アンドレ。貴族なんてものはな、みんな真っ黒なんだよ。一定以上はな」


真剣な顔でそう言い、そしてにやりと笑った。


「みんな何かしらやっているもんだ。捕まえられないのさ…ばれなければな」


ヴィクトールが身を乗り出す。


「…では」


「証拠さえ掴んでくれば、騎士団で動くと約束しよう。私だけではない、アシルの失脚には騎士団皆が憤っていたのだ」


私はヴィクトールを目を見合わせた。


「ありがとうございます!」


言質は取れた。あとは、証拠。


「レイモンを貸し出そう。正式な騎士団員の彼なら現行犯逮捕の権限がある」


これは大きな助力だ。何か物的証拠を見つけることが出来なくても、犯罪現場を目撃していれば正式な逮捕権限があるということらしい。この辺、日本の法律と違うっぽいしよく分かんなかったんだよね。


「ケネル家の一件は明らかに人為的なものだった。だが我々も彼らを捕らえることが出来なかった。力になれず、ケネル家に世話になった者はみな歯噛みしたものだ。アシル・ケネルの長年にわたる功績に、我々は報いなければならない。」


アシルさん…。


まったく他人の私でもちょっとうるっときた。前途多難だと思っていた。アルノルフくん救出への道が少し見えてきた。



「ご協力、感謝いたします、シリル殿…!」


何かあった時に、助けてくれる仲間、か。


頭をさげるヴィクトールをなんだか遠目で見つめる。


私に何かあった時、誰か助けてくれる仲間はいるだろうか。家族もいない、パーティーもいない。私は…、


なんだか急に心臓の上の方がぴりりと凍るのを感じた。

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