プロローグ
光だ。
暖かくも冷たくもない、白い光である。
どう見渡してもそれ以外のものが見当たらず、混乱する。さっきまで普通に生活していた普通のOLだった。それがどうして、どの瞬間からこうなった?
そもそも「光が見える」という表現も甚だおかしいものだが、それ以外に例えようがない、眩しいくらいの純白である。
ふと。
足元から恐怖が登りつたった。
「!?」
冷たい、そう感じたと思って足元を見るが何もない。ただ感覚は敏感に感じ取っていた。
これは、手だ。
目に見えないけれど、冷たい手が私の足首を掴んでいる。なにかよくないもののような感じがした。
『古の門番よ 扉を開け』
手が私の足首を強くつかむ。そしてついに、私の体はその手に引きずられた。
『彼の地より選ばれし者よ、契約により我が前に姿を現せ』
男の声だ。低くも高くもないが、朗々とした若い男の声。私を引っ張る手の力はより強まり、どんどんスピードを上げていく。
『神の秩序に逆らって、その傲慢な障壁をこじ開けよ』
男の声に、複数の人間の声が重なった。詠唱だ、とゲーム脳な私は考える。まるで魔法のようではないか。
私の体は、白い光の空間を切るようにどんどんと引っ張られていく。さっき食べたものが、胃の天辺を這いまわっている。
『ー勇者召還ー』
ようやく終わりが見えた。木製の重そうな扉が、こちらに向かって開いている。
その扉を開けているものがいる。シルエットしか見えなかったが、彼の頭の上に文字が見えた。
【門番 レベル∞】
息を呑む暇もなかった。私の体はその扉に吸い込まれた。
白い光が消え、視界が闇に包まれた。