娘の将来(ショートショート47)
会社から帰宅すると、リビングでユカがお絵かきをしていた。
のぞき見るに、それはゾウの絵であった。
ユカは幼稚園に通い始めたばかり。そのわりにはよく描けている。
オレはほめてやった。
「じょうずだな、ゾウさん」
「ちがうよ、これキリンさんだよ」
ユカが口をとがらせる。
長い鼻、大きな耳、丸っこい体、太い足。どう見たって、描かれているのはゾウそのものである。
「じゃあ、この長いのは?」
オレは長い鼻を指さした。
「キリンさんの首だよ」
テーブルにキリンのヌイグルミがある。ユカは、それを見ながら描いたようだ。
ヌイグルミといえば思い出すことがある。
先日のユカの誕生日のこと。
会社帰りに寄った店に、リクエストのゾウのヌイグルミがなくて、キリンのヌイグルミを買って帰ったのだが……。ゾウじゃなきゃ絶対イヤだと、ユカはしばらくダダをこねていた。
それが今では、キリンのヌイグルミをいっときもはなさない。
「ごはん、食べられるわよー」
妻が夕食の用意ができたからと、キッチンから顔をのぞかせた。
「ママ、見てー」
ユカが描いたばかりの絵を見せる。
「あら、ゾウさん。ユカ、お絵かきがじょうずね」
「うん」
ユカはうれしそうだ。
――あれっ?
さっきはキリンだって……。
ほかのものかと、オレはその絵を見直した。
――なんで?
同じ絵なのである。
「あのね、ママ。パパがね、これ、キリンさんだっていうのよ」
「えっ、そうなの? ママにはゾウさんにしか見えないけどね」
「パパ、ゾウとキリンがわからないみたい」
ユカがオレを見てニヤリとする。
なんというひねくれよう。誕生日の件を、いまだに根に持っているのだ。
オレが甘かった。
そして……。
娘の将来が心配になった。