弱虫シリーズ(2)
少年と老人の短編小説です。
初めて気が付いたのは僕の勉強中だった。
なんだあの人?
自室の窓から中庭が見える。
あそこは僕と彼の聖域なのに。
其処に一人の老人が佇んでいた。
何処から来たのか、茶色のコートを着て背骨の曲がった姿はいかにも
高齢者の風貌であった。
その顔には深い皺が刻まれており、その所為か表情が図れない。
ま、近所のお爺さんかも知れない。すぐいなくなるだろう。と
目線をノートに戻し、再び窓から外を見た時には、もう
居なくなっていた。
だがおかしなことに
その日から毎日、老人が中庭に現れるのだ。
僕は徐々にその老人が薄気味悪く感じるようになった。
深く刻まれた皺の隙間から血走った眼で、僕を凝視して
いやしないかと。
両親に相談してみたが、誰一人としてそんな老人は見ていないと言う。
仕舞いには、引きこもりだから精神がやられて妄想を見ているのかと
心配された。
僕は登校拒否してから自室に籠りがちで、そう言われるのも無理はない。
そんな僕の気持ちを他所に、謎の老人は今日も現れた。
窓を開けて、一言声をかけてみようか
そんな勇気があれば、とっくにやっている。
それに聖域である中庭に入ることは尚更無理だった。
理由は、
彼が埋まっているから。
庭に咲く花々は彼の養分を吸って元気に育っている。
彼は僕のたった一人の友達で
ずっと一緒だったのに犬の寿命は人間より短い。
最期は老衰だった。
もう二度と動かない彼は、あの場所にじっと佇む老人と重なった。
老人の茶色のコートが彼の毛並みの色と似ている事に気付くと
僕は涙が出た。
その日の晩、僕は久しぶりに熟睡した。
学校に通えるようになってから、どのくらい経ったろう。
僕は彼との思い出をもう二度と蓋をして自分の弱い心まで隠す事はしない。
もう一度あの老人が中庭に現れたらな‥‥と、
待っているが
あれ以来あの老人は見ていない。
ここまで読んで下さり、ありがとうございます。
今回はしんみりした雰囲気にしてみました。