夢のない教師陣
「はぁ………………肝が冷えた………ドライアイスを頭からぶちまけられた気分だ」
「ご心配おかけしてすいません、龍垣先生。ただその例えは龍垣先生が言うとシャレにならない類なので、今後一切使わないでください」
「私は氷水は浴びせるが、流石にドライアイスはやらない」
「それがダメな理由なんだってば」
女性で、喫煙者で、とんでもない美人は、野球部の顧問をしている。
顧問としての先生は修羅。まさしく修羅。
一度だけ試合を見に行った時があったが、対戦相手の生徒が涙目になりながらバッターボックスに立つという、多分人生で一度経験すればもういい類の経験をさせてもらった。
野球部員は皆総じて慣れたというのだから、彼らは部員として3年間を過ごすだけで、メンタル面が冷凍庫から出したてのアイス位には強固になるのだろう。
元々持つ男らしさのせいなのか、彼女が顧問として指導をし始めると全国大会にまでいく事が出来る強豪校となってしまったのが何とも言い難い。
そんな顧問でも、怒鳴ると胸が揺れるという理由で部員達は血反吐を吐いても付いていくのだから、年若い青少年の脳は案外スカスカなのかもしれない。
「深月が暑いんだったらやってもいいんじゃない?って言ってたから、多分大丈夫だろ」
「あんの養護教諭……………!」
「人の恋人をあのとか言うな。深月が言った事は全部正しいからな。肉体的にも精神的にも冷えて丁度良かった」
「あの人は嘘八百を擬人化したような人なんですから信じないでくださいよ!はぁ………これだからバカップルは……」
「何と言われても痛くも痒くもない。藤沢、貴様にこの幸せは分けてやるつもりは無いぞ」
心の奥底からいらねぇ。
男子校だから女性教師がモテるなんて有り触れたことはなく、ぶっちゃけここの女性教師は全員もれなくどこかしらずれている。
それこそ、同性が好きだったり、男同士の恋愛が好きだったり。
龍垣先生は前者。
養護教諭とのバカップルぶりはある意味学園の名物だ。
保健室でキスなんて日常。
しかし邪魔をしてしまうと養護教諭が医療用ハサミをチラつかせてくる。
なのでよっぽどのことがない限り保健室に行かないというのが暗黙の了解になりつつある。
後者は……………言いたくもない。
「遠慮しておきますよ。色恋沙汰に興味ありませんから」
「とか言いつつ、その内彼氏でも出来るんだろ。お前どう見ても女役だからな。線は細いし、色白だし。女装も行けるだろ」
「止めてください。彼氏なんていらないです。そんなもの作ってる暇があったら土いじりしていた方がまだマシです。女装なんてもっての外」
「あー…………ご愁傷様だな………こりゃあ無理だ………………」
何がご愁傷様で無理なのか。
イマイチ分からないが、教室に着いてしまったので、仕方なく後ろのドアから入る。
久し振りに見るクラスメイトと挨拶を交わして自分の席に着く。
相変わらず俺の隣と前は葛西と皇なのだが、誰も座っていない。
2人は先に来たはずなのだが、どこに行ったのだろうか。
「ヒトヨ~!久し振り!元気にしてたかしら?」
「祭。おはよう。堕落しきった生活は有意義だという事を学んだ春休みだった」
「嫌ねェ~!アタシと伊万里なんて家に呼び出されてずーっと家に閉じ込められてたわよ~ヒトヨに会えない~って伊万里が泣きだした時はほんっとに困ったわ」
「……………そろそろ幼馴染み離れしてくれ……」
「無理無理。だって伊万里、アンタの事大好きだもん」
「知ってる。そろそろ俺に盗聴器付けるの止めろって言っといて」
「アンタの言ってる好きとは違うってのに………伊万里ってば……………はぁ……」
オネェ口調で話しかけてきたのは才場祭。
俺の幼馴染みであり、このクラスの委員長であり、生徒会長の親衛隊長。
ちなみにエレベーターに乗っていた会計の双子の兄。
全体的にウェーブがかった髪を緩く纏めて、毛先をいじる様子はまさに女子。
春休み中にネイル変えてみたのーどう?とか訊かれても、俺にはうっすいピンク色という感想しか出てこない。
肌の手入れ云々。ムダ毛処理云々。
龍垣先生と同様に、生まれてくる時に性別を間違えたとしか思えない。
黙っていればそこそこ可愛い女子で通るだろうに、口を開けばオネェ言葉が飛び出すんだからコイツキャラ濃すぎだろ。
感想ありがとうございました。
今回は教師陣のちょっとした秘密と、そこそこ可愛い女子が登場です。
なにかと遅くてすいません………次回はラスボスのご登場です。
ヒトヨ君はどうなることやら。
行き当たりばったりですが、なるべく早く上げられるように頑張ります。