護身刀
兄達が足早に学園長室を去り、俺と先生と学園長のみになると、学園長は引き締めていた顔をニヤリと歪めた。
何処ぞの童話に出てくる猫にそっくりだ。
「面白いことが聴けたものだ。君がいると全く退屈しないな」
「人をおもちゃか何かとお思いですか」
「あぁ、思っているよ。面白い事を考え、作り、探り、思いつくのは人だ。玩具と思うのは当たり前だろう」
「で、人をおもちゃと思う学園長は何故態々俺をここに呼んだのですか。兄様達がこの学園をうろつくのは危ないのでは?」
「学園長権限でどうにかはなるのだよ。そこらへんは」
職権乱用を平然と口にしたぞこいつ。
「監視カメラ程度どうにでもなる。さて、本題だが哀川一夜。君は今日から晴れて二学年だ」
「はぁ……」
「我が上司、喜蘂の家の人間がとある委員会の委員長に就任した事は知っているだろう?」
「………えぇ、知ってますよ」
就任が決定した時は生徒のほとんどが目を疑った。
学園の事に無頓着で授業に出ることも少ない。
自分と自分の興味があること以外には無気力。
そんな人間が委員会の委員長になったのだから話題にもなる。
「実はな、委員長になる条件として哀川一夜を探し出してほしいと言われたのだよ。もしかしたらここにいるかもしれない。だから探し出してほしい、と」
血の気が引く。
未だに俺を探しているのか。
「で……学園長は俺を売り飛ばすおつもりで?」
「そんな事はしない。約束しよう。じゃないと私は東京湾にコンクリート詰めされたドラム缶と共に沈められる」
「笑えない冗談はやめてください」
「笑えるだろう?ジャパニーズジョークだよ」
笑えねぇし、俺の家はそんな事はしない。
「哀川夢幻を敵にはしたくない。しかし上司を裏切るような事はしたくない。だから私は考えた。奴に一つだけ情報をくれてやる。哀川一夜はこの学園にいるという情報だけを流した」
「流した!?人の与り知らぬところで何材料にしてるんですか!」
「アイツも薄々勘付いていた。ただし、確証となるものがない。哀川一夜がこの学園にいるかもしれないという仮定を確定させただけだ。後は何も言っていない」
「本当なんですか。それは……信じてもいいんですね?」
「信じたまえ。私は何よりも偽りが嫌いなのだよ。偽りひとつで面白みは消え失せる。それだったらない方がマシだ。そう思うだろう?偽りの情報を流せば確実に信用は薄らいでいく。言ったはずだ。哀川を敵にしたくないと。いいか、何度でも言うぞ。信じたまえ、哀川一夜。疑う事も手順の一つかもしれないが、今は必要とするな」
俺と学園長を隔てる机。
様々な宝飾がなされており、この机だけ時代が違うと思わざるを得ない、そんな机。
俺には赤と黒のルーレット台にしか見えなかった。
信じるか否か。
赤か、黒か。
「…………では…学園長を信じます」
「そうか。お前の賭けたものが2倍になって手元に戻ってくる事を期待しよう。アイツから逃げるか、真っ向から立ち向かうか。はたまた別の選択か。ここから存分に見させてもらおう。哀川一夜…いいや、藤沢一夜。これからの活動を楽しみにしている」
ルーレットは回り始める。
このまま回り続ける。
止めさせやしない。
俺は意地でも逃げる。
「残念ですが、俺じゃ学園長を楽しませる程デキた人間じゃありません。役不足です。では、俺も学生としての本分を全うしなければならないので、失礼します」
「あぁ、さっさと出ていくがいい。それと……これは忠告だな。葛西と皇の手綱はしっかりと持っていろ。アイツらは何をするのかわからない。いいな」
「ご忠告どうも。ではこれにて失礼します」
眼前には生き生きと茂る植物。
さて、俺はまず何をしようか。
「あーあ………学園チョーにはばれてたみたい。これだから勘の鋭い人間って嫌いー」
「あの人の前では偽りってのが無意味だからな。正直、ヒトヨが気づいていないだけで噂にもなり始めたからな。一年間バレなかっただけでマシだ」
「そぉーおー?でもヒトヨきゅん、俺達がこんな事してるだなんて知ったら怒るんじゃない?」
「そん時はそん時だ」
「葛西らしー。じゃ、ヒトヨきゅんが戻ってくる前に片付けよっかぁ」
「あぁ」
「てなわけでー俺達時間ないからぁー早く戻んなくっちゃいけないのー誰に指図されてこんな事しているのかは後で聞くからぁ…綺麗なお顔に傷付けさせて?」
タイトルが合っていない?
あははーあってるんですなーこれが。