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先生と兄と学園長と。

エレベーターから降りて、寮から少し歩いた先にある校舎を目指す。

同じように登校する生徒は数多くいる。

しかし、校舎の前には生徒が避けて通る存在が一人。

歳でもない筈なのに生足をさらけ出している女。

日本じゃ余り見かけない銘柄の煙草に火を付けて、紫煙を燻らせている。

長い髪をハーフアップにして、細いフレームの奥にあるツリ目。


人は言う。

彼女は性別を間違えている、と。


「よぉ、クソガキ共。今日も立派なご身分と体たらくを晒しているな」

「おはようございます、龍垣(りゅうがき)冠路(かんじ)先生」

「私をフルネームで呼ぶな。名前は嫌いなんだ。男みたいでな」


男らしい性格と行動力と名前なのに、矛盾するかのようにミニスカートを穿いて、豊満な胸を白いシャツからチラ見せさせる。

一年次の担任だった彼女は、俺の中でも群を抜いて強烈な存在だ。


サドと思われそう、というよりもサディストの要素を纏めて詰め込んだ様な人なのに、全くもってノーマル。

自称至って普通だそうだ。

どこをどうみて普通と判断すればいいのか基準はわからないが、普通らしい。


「リューせんせーだー!おはよーございまーす!」

「朝から鬱陶しい。また一年間お前らに付き合う羽目になるとは、先行きが不安だな」

「ゲッ!また龍センセーが担任なのかよ!」

「学園長がお前らを操れるのは龍垣しかいないとかほざいたせいだ。クソ問題児共に何故私が付き合わなくては……」

「まさかその問題児共に俺も入ってるんですか。龍垣先生」

「当たり前だろ。というより中心人物だろ、藤沢」

「えぇー………」


俺はただ巻き込まれているだけで、何もしていない。

理不尽極まりない。


「藤沢、学園長がお前をお呼びだ。一緒に来い」

「え」

「お前に会いに来た人間がいるらしい。行くぞ」

「えっ、えっ、えっ、ちょっ、まっ」

「あぁ、あと瀬戸。風紀委員の集まりが体育館であるが、行かなくていいのか」

「やっべ。そうだった。嫁の新曲聴いてる場合じゃなかった。じゃあな!藤沢と皇とクソ野郎!」

「ぶっ殺すぞクソ廃人」

「2人ともいってらっしゃーい!先に行ってるよ〜!」


タバコを携帯灰皿に突っ込み、俺を引っ張る龍垣先生。

そ、そんな長い足で歩いてもらうと短足としてはキツイものが……


「……………藤沢」

「な、何でしょうか」

「お前、春休み中に実家に帰らなかったのか」

「え?まぁ、そうですね。寮にいた方が楽ですし、一々長期休暇で実家に帰省なんて面倒なんです。ほら、先生もよくご存知じゃないですか」

「そうだな。片道5時間の離島が実家は私も嫌だ」


この先生は俺の素性を知っている。

先程、学園長云々言っていたが、多分あれは嘘だ。

担任には俺の素性を教える事を条件に、ココに入れた。

クラス替えは無いが、担任は毎年変わる。

素性を明かす様なことはしないように、とこの人は忠告してくれた。

クラスの生徒を一人一人キチンと見て、大切にしている事は1年次に理解した。

多分クラスの担任には立候補でもしたのだろう。

だからこそ、彼女は俺の中で強烈な存在感を放っているのだ。


「その実家からの客だ。連絡の一つでもしてやれ。案外、家族ってのは心配しているもんだぞ」

「ははは…………いやぁ……なんというか……」


ひたすら睡眠を貪って、不規則な生活を実家でなんて送れないんで帰らなかったなんて、こんな優しい先生に言えるわけが無い。


学園の名所とも言える薔薇園の中を進んで、最奥にある家を目指す。

なんともないコテージが学園長室というのだから、この学園は少しおかしい気がする。


龍垣先生が扉をノックして中に入る。

俺も続いて入れば、高級そうなソファに身を預けて新聞を読んでいる三男の姿。

少し離れた場所で電話をする次男の姿。

学園長と真面目な顔で話をする長男の姿。

…………なんでこのメンツで来たんだ、兄様達。


「ヒトヨ、どうして春休み中帰ってこなかったの。父さんが人工衛星使って特定しようとか言っていたんだよ」

風真(ふうま)兄様……なんで連絡してくれなかったんですか」

「あはは、人工衛星がどういう手順を踏んで人の居場所を特定するのか純粋な興味があったから」

「兄様の興味で莫大な費用を人工衛星に使わないでくださいよ……」


読んでいた新聞から視線をこちらに寄越し、抑揚のない声色で話す風真兄様には頭を抱える。

風真兄様の隣に座り込んでため息を吐く兄様。


「またオークションでもしてたんですか。唯奏(ゆいそう)兄様」

「そ。結構初期の射影機がオークションに掛けられたって聞いたから入札してたのに1000万も差をつけられて負けちゃったー…あー悔しー……ここ最近金なくって、入札できる金額が限られてんだよねー……」

「膨大な貯蓄をほぼ全て趣味の射影機集めに費やしているからです。いい加減働いてください。世界中で兄様の作品を待ってる人がいます。働いてください」

「え〜……次なに描けばいいと思う?」

「抽象画なんてどうですか」

「あっいいねぇじゃあ抽象画かこーっと!」


相変わらず趣味に金を使う人だ。

湯水の如く大枚叩いて買ったモノをコレクションする人なんてこの人ぐらいかと思っていたが、オークションで落札する程の人がいるのか。

なんて思っていると、学園長と話し合いをしていた兄が漸く気づいた。


「おはよう。いつのまに来ていたんだ。すまないな、話に集中していて気付かなかった」

「おはよう。哀川一夜。今日から新学期が始まるが早速私の甥っ子と会ったようで、花丸満点をあげたい程の登校ぶりだな」

「おはようございます、学園長。双雅(そうが)兄様。俺に用があると聞いて来たのですが、なんですか?」

「それは…………」


苦い顔をして目配せをし合う兄達に、学園長は呆れた様子で話し始める。


「君の兄は言いたくないようだから私が説明してしんぜよう。朝の番組がこぞって取り上げているニュースを見たかね?」

「ニュース?といいますと?」

「君の父親が倒れて緊急入院したというニュースだ」

「それが………どうかしましたか……」

「おや、知っていたのか。なら話しは早い。哀川夢幻が生きている内に哀川家を継げ。君の兄はそう言いたいのだよ」


心臓がやけに働く。

踏ん張らないと足元から崩れ落ちそうな気がする。

ブレる視界で3人の兄達が心配そうな顔をして俺を見ていた。


「父上の容態は思っていたよりも深刻だ……長くて1年、短くて半年以下……」

「そんな……!俺はこの学園を卒業してから継ぐという条件で…………」


何もしてこなかったのに。


「父上自身は平気そうな顔だが、だいぶ苦しんでおられるはずだ。ヒトヨ、父上の容態次第ではお前もここに居られなくなる。理解しておけ」

「はい………………」

「それと、友達が出来たそうだな。お前が私たちの知らない所で無事に過ごせているのか、気が気じゃなかったが安心した。兄として心配していたんだ。連絡の一つは寄越せ。何時でもいいから」

「はい……!」

お久しぶりです。

Sに見えてN(ノーマルとは言ってない)な先生と、キャラの濃い兄達と、よくわからない学園長です。

あなや………収拾がつかなくなりそう……

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