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ザ・王道(………?)

「あー美味かった。ごちそーさん」

「相変わらず美味しかったー!1年前までゆで卵もまともに作れなかったのに今じゃこんな事出来るんだから、人って成長できるんだねぇ」

「止めろ。思い出したくもない過去だ…」


皿を洗いながら去年の今頃を思い出す。


学食でもいいのだが、タダではない。

請求は家に行くので、昼食以外は利用しないと決めた時。

自炊ということも知らない自分は知り合ったばかりの2人に馬鹿な質問をしてしまった。


「ゆで卵ってどうやって作るんだ?」


あぁ、思い出したくもない。

2人に爆笑されてようやく気付いた。

無知とは恐ろしいことだと。

それからレシピサイトやレシピ本をひたすら漁り、約1年。

なんとか食べられるほどまで成長したと思いたい。

今日の夜は親子丼にしよう。

あ、使い切って卵がない。


「葛西ー皇ー、俺今日1階のスーパーで買い物あるから放課後寄るぞー」

「おー」

「はいよー」


背後の2人はテレビを見ながらなのか、あまり聞く耳を持たない返事をする。

ほぼ毎日、朝と夜の食事を食べに来る2人だが、勿論食費は払ってもらっている。

食わせてやるために、俺が調理という労働を強いられているのだ。

馬鹿みたいに米を食う年頃の野郎が3人もいれば、父から定期的に貰うお金だけでは足りない。

スーパーで買った物を割り勘で支払わせている。

本人達もそれで構わないと言っているのだから、払わせてなんぼだ。

誰だ今金にがめついとか言った奴は。

定期的に貰えるのは樋口一葉1人だけなんだからな。


皿を洗い終わって2人の方に振り向くと、ちょうどテレビのCMが切り替わった。


[あの世界的メイクアップアーティストも愛用!使った100人の女性の内98人が普段使っているものより発色が良いと回答。美容液配合の新作ルージュ。11日に新色デビュー!]


そんな音声と共に、美女とキスしそうなほど顔を近付けるイケメン。

美女の顎に手を当てて目線を合わせているCMだが、やけに色っぽい。

うわー…この人女大嫌いとか言っておきながらそんな顔出来るんだー……

親衛隊が騒ぎそうだなぁ……


「うわーフクカイチョーってば大胆〜普段あんなに女の子毛嫌いしてるのにオシゴトとなると人が変わるよねぇ」

「自分の演技と容姿で金を貰える世界だからな。なんでもなさそうな顔してるが、心の中では罵詈雑言並べてんだろ」


そんなものがCMとなって全国のお茶の間に届けられるとは……

なんとなく心の中で合掌していたら、いつの間にか家を出る時間になっていた。

携帯をブレザーのポケットに突っこんでテレビの電源を切る。

めんどくさがる2人を外に放り投げて、いつもの如く家族の写真に向けて言葉を掛ける。


「では行って参ります。父様、兄様、姉様」


鍵をきちんと掛けて、エレベーターに向かう。

ボタンを押せば10秒もせずに扉は開いた。


「「「んげ!」」」


なんということだ。

朝の占いは可もなく不可もなく6位だった筈だ。

最下位じゃないか。

もじゃ毛眼鏡と生徒会御一行が載っているだなんて誰も予想していなかった。

遠目から見ても美形だとわかる集団に混じるもじゃ毛眼鏡。

まるでどこかの俺のようだとはよく言ったものだ。


「あっ!一夜!おはよう!」

「うん、おはよう」

「登校時間に被るなんていつ振りだ!?それに篤と炎も!!一緒に行かないか!」

「いやぁ、俺達は遠慮しておくよ、明石君」

「なんでだ?もしかして、俺と一緒に行くのが嫌か?」


うん、そうだけど。と肯定する言葉を飲み込む。

タダでさえもじゃ毛眼鏡×2とか誰も得しないだろう?

何より、後ろの生徒会御一行(会計除く)からの視線が突き刺さってる。

先程テレビで見た顔も見せられる顔していないし、さっさと行ってくれ。

そして会計は気持ち悪い視線をよこすな。

幼馴染とはいえぶん殴るぞ。


「与一、こいつがそう言ってんだ。しゃあねぇがオレ達だけで行くぞ」


もじゃ毛眼鏡の返事も聞けずに、ドアは閉まった。

今なら会長に感謝できる。

ありがとう会長。

ただ、いつも思っていることだけど親衛隊使って俺の事イジメようとするの止めましょうよ。

偽装するの大変なんです。

ほら、特殊メイクとか絆創膏とか包帯とか。

主に準備が大変なんです。

常々、会長の親衛隊が一番容赦しないと言われてるけど、そんな事もないんだよ。

俺に対しては。

一番酷いのは副会長の親衛隊。

たまに花瓶投げられたりするけど、慣れてくれば投げ返すことだって可能になってきたから怖さも何もないが。


「おーこわっ!カイチョー本気でヒトヨきゅんの事睨んでたぁ!」

「相変わらず変わんねぇなぁ。ちょっと似てるってだけで相当殺意湧いてくるんだろ。疲れる野郎だ」

「別に慣れたし、当たり前の日常だ」


背後で黙っていた皇と葛西が、やれやれと言わんばかりに溜息をつく。


「それは俺らにとっては当たり前じゃねぇよ」

「俺達で言うひーにちじょーだよヒトヨきゅん」


そうなのか。


前にも誰かに言われたな。

お前の日常は俺の非日常だと。


「俺はそう思わない。前の学園とは違って閉鎖的でもないし、周りは高飛車だらけじゃないし、土をいじれることが出来て、料理することも許されてる。素晴らしい日々に組み込まれた親衛隊とのお遊びも慣れた。…………ん?なんで俺親衛隊に虐められてるんだろうな。葛西、皇」

「今更かよ!」

「おそっ!気付くのおっそ!チョーウケる!」


腹を抱えて大笑いする2人の頭を鞄で思いっきり叩く。

そんなに笑わなくったっていいだろ。

恥ずかしいんだよ俺も。


そんな時、ようやく次のエレベーターが到着した。


指定カバンの表面を覆い尽くす缶バッチ。

至る所に付けられたキャラクター物のストラップ。

俺のドン引きした視線に気付いたのか、音漏れしているイヤホンを外して此方を見てきた。


正直。

ここの寮だけでいいので、乗り込む側にも閉じるボタンが欲しい。


「お?よー新学期早々よく爆笑してられんなぁ」

瀬戸(せと)……いい歳なんだからその…変な趣味はあんまり晒すなよ……」

「お前よりかは変じゃないと思ってるぜ、藤沢。あ、葛西ーお前に言われてやってみたけど、あれほんとつまんねぇなぁ。カーソール動かしてクリックするだけなんてつまんねぇ。キャラクターが無駄にいいだけでその他はクソ」

「あぁ?あれはキャラクターだけを求めるなら最高なんだぞ?わかってねぇなぁ。魅力的なのはキャラだけでいいんだよ」

「わかってねぇのはテメェだ。ゲームはキャラじゃねぇ。ストーリーだ。物語があってこそキャラは輝くんだよ。なのになんだぁ?あのゲーム。あんなんゲームとは言わねぇ」

「キャラがいなきゃあストーリーもクソもねぇだろうが。ふっざけんじゃねぇ。俺のジジイを冒涜しやがって!」


似た者同士なのに何が彼らを対峙させるのか……


瀬戸(せと)由晴(よしはる)

1年の時からのクラスメイトで、クラスの風紀委員。

こいつも葛西と同じくらいのゲーマー。

顔はとてもいい。

ハンサムなんだ。

ホリは程よく深いし、細い締まった体をしている。

しかし、何が彼を残念にするって、次元の違うところに嫁という位置付けの人を何十人も持っている?という事だ。

カバンにありったけの数を付けている缶バッチやキーホルダーは全部嫁というキャラクターの物ばかり。


葛西とは趣味が合わないのか、毎日の様に喧嘩している。

喧嘩の理由は下らない。

たいっへん下らない。

ゲームが大切にすべきなのはキャラクターかストーリーか。

それで去年、針で縫う大怪我をしたから馬鹿か何かだと思う。

まぁ2人に下らないなんて言えば俺特製血の雨が降りそうだから絶対言わないけど。

仕方なく口論を続ける2人をエレベーターの奥に押し入れて、一階を目指す。

あーあ……朝から疲れた……


「眠そうだねぇヒトヨきゅん」

「朝から疲れた……一時間目ってなんだっけ…」

「現ぶ「寝る。起こすな」えー…俺かなぴーよー1人で現文の授業起きてるなんてやーだー」

「じゃあお前も寝ればいいじゃんか」

「それは俺のポリシーに反するのっ」

「起こすなよ。絶対だかんな。絶対起こすなよ」

「起こしたら?」

「ぶっ殺す」

「いやん。ヒトヨきゅんってば容赦しないんだからぁ!」


冗談めいた口調で俺の腕に擦り寄ってくる。

慣れてきたが、あっついから止めろ。

俺は同性愛に偏見なんて持たないが、ベタベタと身体を触ってくるのだけは相手が男であろうが女であろうが苦手だ。

王道じみた生徒会と王道なもじゃ毛眼鏡の登場です。

そして風紀委員一人もご登場。

生徒会の会長ともじゃ眼鏡は王道にしますが、その他の生徒会役員を王道にする気全くなしです。

副会長だけちらっと出せたのは嬉しいな。

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