日常の朝
鶴城学園に入学させられてから早1年。
中等部まで通っていた学園と同じく初等部から高等部まであり、広さも校舎のデカさも張り合える程にはある。
前の学園では学べない様な事も学べた。
農業体験は楽しい。
汗まみれになって爪の間に土を入れて、つなぎの服をドロドロにする事は、許されなかった。
プランターに植えてあるハーブやトマトの葉に水を吹き掛けて、朝日に照らされる水滴が滴りおちるのを確認したら、朝食の準備に取り掛かる。
自分の食事を自分で作る。
そんな事も1年前までは許されてはいなかったから、此処に来て正解だったのかもしれない。
逆に知りたくなかった事も増えてしまったが。
前の学園では陰険なイジメが当たり前。
特定の役割を持つ人間を親衛隊が囲っている。
そんな王子に近付いた奴はどんな奴であろうとも許さない。
制裁と銘打った«魔女狩り»。
今もまだ続いているらしいが、父によれば再来年の3月になくなるらしい。
特定の役割を持つ人間をなくす原因となったのは一人の女の子だとか。
役割で壁を作っている事自体が間違っているし、そのせいで誰かが傷付くのであればぶち壊した方がマシと大々的に言ったそうだ。
俺自身も要らない制度だとは思っていたが、何より人の目を引くのだ。
あの役は。
それを廃止させる事が出来た女の子に一度会ってみたいものだ。
会って、どうやって現状打破したのか小一時間問い詰めたい。
そう、陰湿なイジメはココでもあるのだ。
それはもう当たり前の様に行われている。
鶴城学園では生徒会や各委員長の親衛隊が制裁を加えている。
1年通って何度かその場面に出会ってしまったが、やる事はえげつない。
女子よりも力がある為なのか、制裁されて無傷でいた奴なんて見たこともない。
自分がそんな対象になるかどうかはさして興味は無いが、見ていて気分の良いものではない。
スクランブルエッグを大皿に盛り付け、トーストを5枚準備して、ワカメスープを付ければ朝食の準備は終わり。
メープルシロップとスライスチーズも一応置いておく。
テレビを付けて、朝のニュース番組を見ながら身支度。
あ、兄様が出てる。
へぇ、元総理大臣の手術するんだー。
ボサボサの髪は整えるのが面倒なのでそのままにして、黒縁の眼鏡を掛けて、ネクタイを緩く結んだら身支度は完了。
ちょうど良いタイミングでチャイムが鳴る。
慌てて玄関のドアを開ければ、待ってましたと言わんばかりの抱擁。
何時もの事だが、相変わらずギュウギュウ締め付けるのだけは慣れない。
「朝ご飯食べにきたよー!
「抱き着くなって。鬱陶しい」
「えーん!ヒトヨきゅん酷いー!」
「お前にやる飯は無し。葛西、お前2人分食える?」
「食える。ヒトヨの作る飯は美味いからな。大歓迎だ」
「そっか。じゃあお願いする。皇、頼むから隣で腹を鳴らしてるなよ」
2人を部屋の中に入れる。
泣き真似をしながら入ってくるのは、1年の時に隣の席を毎回キープしていた皇篤。
女子高生の如くテンション高めで、セフレの生徒が何十人もいるらしい。
実際に見た事はないが、相当お盛んらしい。
入学当初、全くの無知だった俺に無駄な事ばかり教えてくれた。
感謝してるかと聞かれれば、答えは否だ。
後に続いて欠伸をこぼしながら入ってきたのは、俺の前の席をキープしていた葛西炎。
見た目はスポーツをしていそうなハンサム男だが、実はゲームが大好きらしい。
最近は刀剣なんとか?というものにハマっているらしい。
この前、教室にパソコンを持ち込んできたと思ったら、「ジジイが出てきたんだ!」と言って、世の女性が好きそうな二次元のイケメンを見せられた。
ジジイじゃないという突っ込みはしてはいけないらしい。
よくわからないが。
男から告白されている場面をよく見るが、全員断ってる辺り、何故共学ではなく男子校に来たのか一度聞いてみたい。
2人とも顔は目立つは体は良いわで、間に挟まれる俺に軽蔑の眼差しを向ける輩は多い。
何と言っても偽装している感漂ってるからなのか。
たまに呼び出しを食らうが、まぁそれも俺流のやり方で解決してきた。
2年に上がったし、そろそろそういったものが減る事を期待している。
「おぉっ!今日はパン!マジヤバ!やっぱヒトヨきゅんてば天才!」
「まぁお前の分はないけどね」
「な、なにいいいいい!!!」
「ハッ、ざまぁみやがれ」
椅子にも座らずに立ちながらパンをかじる葛西の頭を叩いて椅子に座らせる。
行儀が良くないと窘めれば、苦笑いをしながら椅子に座った。
皇はパンに手を出していたが、別に本気であんな事は言わないのを知っている。
俺も葛西も何も言わない。
これがいつもの朝食だ。
『ニュースをお伝えします。本日未明、哀川グループ会長の哀川夢幻氏が自宅にて倒れている所を発見され、病院に救急搬送された模様です。今の所、容態と原因は分かっていません』
いつもの朝食時に流れたニュース。
温かいワカメスープを飲んでいたはずなのに、体が芯から冷えていく。
指先が震える。
心臓は痛い程動く。
父様が倒れたという現実を受け止めきれない。
「ヒトヨきゅん?ヒトヨきゅーん?……藤沢一夜きゅーん?どしたのー?」
「あっ、いや………哀川グループの会長が倒れたって聞いたらビックリして…ほら、哀川って喜蘂グループと同じくらい規模のデカいトコだろ?その会長が病院送りになっても動いていけるのかなーと」
「動いていけるだろ。なんせあの哀川だ。会長が動けなくても有名な娘や息子が運営していけるだろ。ま、俺らにとっちゃ高嶺の花というか届きもしない存在だけどな」
大々的に報じるニュース番組なぞ気にせずトーストに齧り付く2人。
俺、その哀川の人間です。
なんて、言えるわけがない。
藤沢一夜なんて偽っているけど、本名は哀川一夜。
正真正銘、哀川を名乗る人間です。
主人公の親友ズ登場です。
愛人イッパイ野郎とクソゲーマーです。
ほんのり時事ネタ入りますけど、作品を作るときお前は神様という素晴らしい言葉を知ったから…(震え声
次回の更新は一週間以内に出来るかな…?