事の始まりと心配性の兄妹
俺にとってこの世界はなんの変哲も無さ過ぎた。
ただ、俺がなんの変哲も無い日常を余すところなく他人に伝えると何時も言われる。
それは日常ではない。
我々にとっては非日常である、と。
家族全員で食べる食事会中、ぼんやりと考えていると、父のナイフとフォークは動きを止めた。
年に一回あるかどうかの食事会でも、兄達や姉達は食事をしながら黙ることを知らない。
まぁ、互いに話したいこともあるのであろう。
しかし、末っ子というだけで絡んでくるのはやめてほしい。
「私の可愛い息子と娘。少し話があるんだ」
父の声は騒がしかった室内でもよく響き、揃いに揃って大人しく自分の席に座る。
俺もへばりつく姉達を引きはがし、自分の席へと戻る。
「実は、イチヤを鶴城学園に入学させようと思う」
父の言葉に全員が全員石造にでもなったかの如く、固まった。
俺はそんな兄弟達を視界の隅に入れながら食事を進める。
正直なところ、自分の事でも興味はない。
学校を出ればいいとしか思っていない。
何処でもカリキュラムは一緒なのだから。
「待ってください!父上!何故よりにもよって鶴城を選ぶのですか!」
「チョー意味がわかんなーい。なんで?ねぇなんで?」
「理解しかねます、お父上。喜蘂の傘下にヒトヨを放り込むなんて」
「ヒトヨ?嫌だったら何か言ってもいいと思うわぁ」
「流石に………異議…あり………」
口々に不満を垂れ流す兄弟達をにこやかな目で見守る父。
「イチヤ、お前の兄と姉はこういっているよ?お前はどう思う?」
ここで話を俺に振るか。
止めろ。
嫌だよね?嫌だよね?その口は嫌だと紡ぐよね?みたいな目で見るな兄弟。
「俺は……別に構いませんが」
「ヒトヨ!どうして!」
「俺はヒトヨじゃないです。一夜です。古賀姉様」
「ヒトヨ、行ってはなりません。喜蘂の悪逆非道の行いを忘れてはいけません」
「ですから、俺はヒトヨじゃないって何度言えばいいんですか。兄様も姉様も、俺に過保護すぎです。末っ子だからといって俺を甘やかさないでください」
父の笑い声が響く。
隣でステーキを頬張ってた布武樹姉様も、口から零さないように手で押さえながら静かに震えている。
何がそんなに面白かったのか。
さっぱりわからない。
「ふふっ……………やっぱりお前はそうでなくってね。イチヤがこう言っているんだ。口出しはしないようにするんだよ?少しばかり裏工作をしないといけないけれど、案外どうにかなるもんなんだよね。そこはきにしないでね。イチヤは鶴城学園で勉学に励みつつ、3年間、友と一緒に仲良く過ごしてごらん?目一杯年相応の事をしてきなさい。イイね?」
いたずらっ子のような笑みを、見た目30代の父がするというものは似合わない。
しかも顔の半分は包帯で覆われている。
普通ではない父の口から出てきた普通の言葉。
余りにもチグハグで頭がこんがらがる。
「でもイチヤは哀川家の次期当主なんだから、護衛は何人か付けておくよ。あまり近寄らない様にさせるから気にしないでね?返事は?」
「は、い…………分かり…ました………」
「良い子。後で頭なでなでしてあげる」
それだけはやめてくれ。
「仕事ぉ?俺に?はぁ……………ついに箱庭で飼われてたバケモノ主人が外に出るのかぁ………あーあ…………よりにもよって因縁の相手のお膝元に大事な大事な子供を放り投げるんかい………あの学園は常々ヤバいって雰囲気出してんのよく知ってんじゃねぇの?………さぁてと、お仕事しに参りますか!」
「…………哀川から電話が来たと思ったら……面白い事になりそうだ………ここは秀明学園の学園長にも話しておくか。面白いネタだ。甥っ子だけでも爆笑ものの爆弾だが、そこに哀川の息子が加わるとなると、嵐どころの話じゃなくなるな。やはり世界は驚き無しでは生きていけん!面白い暇つぶしが無ければこの世はクソ以下!さぁて、碁盤の上かチェス盤の上かルーレットの上か…はたまたすごろくか………期待しておる!哀川一夜!」
初のBL小説です。
自由に気分次第で展開が進んでいくので、すごい小説になりそうな気しかしませんが、がんばります。
ちなみに、王道だけじゃつまらないわ派の作者です。
女性キャラも普通に出していきます(ただし普通じゃない模様)