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建物に入り、階段を上る。
3F、4F、5F。
部屋を横切り、ベランダへ。
木製のそこからは、しっかりと広場を見渡せる。
「さて、ボス面に参りました、と。
どうすればいい?」
「援護してって、言いたいけど、そこで待機」
「何でさ」
「その銃、ノーマルよ。
妖を倒すには、“聖弾”っていう特殊な銃弾を装填した銃が必要になるの。
それを持てるのは、対ラッシュ特別セクションに所属している者だけ。
ギルバートも、最初からそれを知ってて、あなたにその銃を渡したの」
「何て野郎だ!」
「そういう人なのよ。
彼のおかげで、瀕死の重傷を負ったことだってあるんだから」
「それでも、できる限りで、エリスをサポートするぜ」
エリスが大介の方を向いた時だった
「っ!」
動悸が襲う。
「刻が来たようね」
「吸血鬼か」
「ええ。
状態からして、変化はまだ先ね。
でも、戦闘中に、その刻が来たら、厄介ね。
かといって、このままにしていたら、被害が拡大する」
「やるしかない・・・か」
「できる限りでいい。
援護、頼んだわよ!」
彼女は外を見る。
土蜘蛛は教会の屋根にとどまっている。
一気に。一気に。
剣を握る手に力を入れ、ベランダを飛び越え、屋根伝いに、一直線に向かって走る。
<行ける!>
剣先をクモに向けた。――――――が、もう、その姿はない。
「危ない!後ろ!」
大介の声に反応し、身をひるがえす。
鋭い脚が、彼女のいた場所に刺さる。
糸が絡まり、宙に浮く、白い鉄製のテーブルへと着地するエリス。
眼前に笑みを浮かべる土蜘蛛。
ルドンのほうが、まだ愛嬌がある。
そう思いながら、立ち上がる。
「殺し損ねたわね。
あなたの目的は?」
エリスに問いかけにも、笑ったまま。
「そう・・・答えないの?
なら―――!?」
不意にクモが、脚の一本を動かす。
エリスの足元が突然ぐらつき、飛び上がる。
後方、四大河の噴水にそびえたつオベリスクの頂点に降り立つ。
糸が切られ、テーブルが、解体作業に使われる鉄球の如く、建物に叩きつけられた。
轟音と共に、土煙が上がる。
「忘れてたわ。
ここが、あなたのテリトリーってことをね」
エリスは剣を今一度しっかりと握り、急転直下、飛び上がり、土蜘蛛へと振り下ろす。
が、一足早く、相手は移動。
屋根を、その巨体からは考えらえない速さで、軽やかに走る。
一周して、彼女を襲うつもりだ。
大介は、走る土蜘蛛への気味悪さを忘れ、銃を撃つ。
一発、二発、三発、四発。
あまりの速さに、当たらない。
それどころか、進路を変え、糸の上を走り始めた。
「しまった。
動き回るんだ!エリス!」
「言われなくても!」
巣と化したナヴォナ広場を我が物にした相手にできることは、これしかなかった。
上へ、左へ、右へ。
エリスは駆けた。




