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昨夜の人物とは全く同じとは思えない、柔らかな声と物言い、態度。
「あの・・・どちら様?
昨日の子は、帰ったのかい?」
「え?私は、ずっとここにいましたよ。
あなたが、ここに運んでくれたじゃないですか」
「でも・・・ね?ほら・・・」
大介は、自らの頭を指す。
彼女は、何が言いたいのか分からなかったが、両手を頭の上にやり、耳に触れると、「あっ」という表情と共に、苦笑いをする。
「見られ・・・ちゃいましたか
信じられないかもしれませんが、昨日の彼女と、あなたの前にいる、この私は、同一人物なのです」
「同一人物?」
突然、ドアを誰かがノックした。
「誰だろう、朝早く。ホテルスタッフか?」
大介はドアに移動し、のぞき穴から来訪者を確かめる。
スーツ姿の30代くらいの若い男が立っている。
「どちら様?」
恐る恐る開けたドアの隙間から、男は手帳を開けて、彼に見せた。
そこには、三重冠の下に、交差した2本の鍵があしらわれたマークが。
「私は、バチカン警察特別捜査官のヤン・フォルモントだ。
ここに、エリスという女性がいるはずだが」
「エリス?」
大介の背後で、彼女が言う。
「その人は、私の知り合いよ。大丈夫」
「じゃあ、エリスって」
「自己紹介が、まだでしたね。
私の名前はエリス。エリス・コルネッタよ」
「大介だ。亜門大介」
2人は握手を交わすと、ドアを開け、ヤンを中に入れた。




