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第6話†

「いやぁごめんごめん。まさかそんなに驚くとは思わなくてさ。」


思っていたよりも良い反応をくれた三人に、少しだけ申し訳なくなりながら俺は謝る。

実はドアには鍵なんて掛かって(というより鍵自体が存在して)いないので、箒の柄の部分で押さえたりしただけだったのだが、予想以上に怖がらせてしまったみたいだ。菊の傷についてもフェイクで、実際に怪我をしている訳ではない。

あの後花梨からはかなり怒られた。いくらリハーサルとはいえ、何も知らせないまま行った事は怒られても仕方がないとは俺も思う。

とはいえ収穫もあった。菊の名演技のお陰でリハーサルだとバレずに一連の動きを行う事が出来たのだ。


このままいけば、あの男子達を驚かせることだって簡単だな、と笑いつつ三人に言ったらまた怒られた。


「そういえばさっき鵺宵が気になる事を言っていたように思うンだけど。」

「えっ?あー、あのね。私途中で何となく気が付いて・・・それで、私も乗らなきゃかなーって。」


人体模型に対し可愛いと言ってのけた子だ。幽霊もそこまで怖くないのかもしれない。

演技をしていたのはどうやら菊だけではなかったようだ。


「あたし達が買い物をしている間にかなり進ンだンだねぇ。」


教室の中を見る花梨の目は、嫌な物を見ている時と全く同じだった。

彼らを驚かすという目標がなければ、彼女は絶対に参加しなかっただろうなと改めて感じた。それほどに驚かされたのだ。あの七不思議には。本当に心臓が張り裂けそうになるほど。


「予想以上に怖かったです。どういった仕掛けを使っているのかだとか、後でお話ししていただけませんか?」

「勿論。それと、怖さを倍増させる為に奈々からの意見も聞いてみたい。何か案はあるか?」

「そうですね・・・写真とかはどうですか?当日でも間に合うようであれば、沢山もってこれますよ。」

「そうか写真か。いいな。壁一面に貼るか。テーマは」

「はい!その事なら鵺宵さんから聞きましたので任せてください。写真は得意分野なんです。」

「おう、心強いな。じゃあ宜しく頼むよ。」


写真か、今から撮るには時間が足りないな。ここは任せておいた方がいいだろう。それに奈々がこれだけ自信を持って任せてほしいと言っているんだ。きっと良いものが出来上がるに違いない。


「じゃあ写真はこことここと・・・。」

「あ、そうだ。写真を撮るならアタシに案があるンだけど。」

「どうした花梨?」

「最初の一枚は遠目から撮ったもの。それからだンだンと近づいてくる感じで、他のは明らかに人間が普通に見られる範囲でない部分から撮られた写真を用意する事って出来るのかい?」

「・・・恐らく、出来ます。いいですね。是非やりましょう!あぁ、当日が待ち遠しいですっ。」


ほぅ、そういったジャンルが苦手だからこその意見か。

明らかに人の手の加えられた心霊写真にさえ、人々は恐怖するものだ。それは、自分が知らない世界を知るのが恐ろしいからだろう。分からないものは怖いものだ。

分かった途端に安堵し、また別の分からない事に恐怖する。時代が変わろうとそれは変わらない。


「あ、カメラに気づいた感じを出すのを忘れるなよ。最後は逆に何も映っていない真っ暗のとかでもいいかもしれないな。」

「わー、それすっごく怖そう!」

「怯えた人の顔を出すのもいいかもな。次はお前だ、みたいな感じを出したいな。」

「じゃあ壁に何か書くかい?新聞紙を張ればそこに書いたりできるンじゃないかい?」

「そうだな、血文字みたいにするか。」


こうして作業は順調に進んでいき、とうとう当日になった。

教室はすっかり元の面影を無くし、おどろおどろしい雰囲気が満ちている。部屋の暗さも作ったぬいぐるみも今張り付けている写真もいい味を出していた。

中でも奈々に持ってきてもらった写真はどれも出来がよく、内容を知っている自分でさえ驚くほどだった。

どうしてこんな風に出来るのかと奈々に問うと、秘密です。とはぐらかされたがまぁそれは良い。言いたくない事を無理に聞くのは良くないしな。

それを壁に貼ったり、彼らを呼んだ直後に壁に書く文字などを考えたりして過ごす。

学園祭は11時からの為、時間には少し余裕があった。

そもそも彼らを呼ぶのは学園祭が終わった後だからもっと時間はあるのだが。


ただ二つ程問題が出来てしまった。


「まさか菊が休みだなんてねぇ。受付はアタシがやるから良いとして、中の幽霊役が足りないねぇ・・・。」


そう、受付をやってもらうはずだった菊が休んでしまったのだ。何でも、高熱を出してしまったという。前日は元気にしていたので、どうしてそんな状態になってしまっているのかが全く分からなかった。

やる事が終わったらみんなでお見舞いに行こうとは思っているが、折角協力してもらったのに本番を見せてあげられない事が悲しかった。

せめて何かの媒体に残せればいいのだが、あるのは各自の携帯だけだ。本番は皆案内係やら幽霊役やらで手が埋まってしまう。申し訳ないが、仕方がないだろう。


突如欠員が出来た事により、当初の配置は不可能となった。これが第一の問題だ。


二つ目というのは。


「折角ここまで立派に作ったのなら、一般に開放してもいいだろう。」という、先生の一言だった。

本当は、彼らを驚かすためだけに作ってきた。そのつもりだった。なのに、いつの間にかこの教室のお化け屋敷の噂が校内に回ってしまい、楽しみにする人達が出てきてしまったのだ。

元々隠れて行動していた訳ではないので、誰かから情報が回ってしまってもおかしくはない。だがそれは、本来手を加えられる時間が短くなってしまうという事だった。


先生に事情は説明したのだが、この教室を貸出してもらっている以上あまり強い事は言えなかった。

他のクラスでもお化け屋敷をやるからとこの教室を望んだところはあったのだ。でもそこを譲ってもらっている。この事実が余計に俺達を苦しめる結果となった。


なので今日、あいつらに見せる前にここを解放しなくてはならない。

それは、彼らにネタバレされてしまうという危険性があった。彼らの知り合いがここに入ってしまったら。彼らに情報が伝わってしまったら、怖いものが怖くなくなってしまうかもしれない。


一体どうすればいいのか。対策を立てようにももう当日になってしまっているのだ。一般開放用と彼ら用と内容を変えたくとも時間が圧倒的に足りない。


「どうすればいいんだ?人も足りない、時間も足りないなんて・・・。」


するとやけにのんびりとした鵺宵の声が届く。


「それなら気にしなくてもいいと思うよー?ここ、無人でもかなり怖い空間になってるもん。幽霊❝役❞は一人で良いよ。」

「そうか?物足りなくなったりしないか?」


それもそれで問題だと思うのだが。

いや、ここはむしろ怖くないという噂を流してもらって油断させるという手もあるのか。それなら本来のスケジュールに近いし、問題はないはずだ。


「ううん。そんな事ないと思うよ。鵺宵なら、ここには入りたくないもん。」


あの人体模型を可愛いと言っていた鵺宵が言うと、やけに説得力があった。

花梨も鵺宵の言葉に賛成する。


「アタシもここには入りたくないねぇ。」

「血文字チックなものを書かなかったとしても、十分な怖さはありますよ!英樹さんの音声もありますし!」


そうだ、英樹の音声に頼ればいいのだ。いつくるか分からない緊張感を持たせるのもいい案だ。

そう考えると、そこまで悩む事でもないのかもしれない。


「幽霊役は、誰がする?」

「鵺宵がいい。」

「おっ、やる気充分か。オッケー、じゃあ一般は鵺宵一人にしよう。で、あいつらがきたら残りメンバーも投入で。じゃあ俺は案内役をやるか?」

「清谷さんだと心強く感じてしまうと思うので、私がいきます!」

「そうか。他の学校なのにこんなに手伝わせてごめんな。終わったらなんか奢るよ。」

「いえいえ気になさらず。私は人を驚かすのが大好きなので、幽霊役をやりたいくらいなんですけど、でも人の驚く顔を見られるのなら、この役もいいかなって。」

「凄い助かるよ。ありがとな。」

「受付はさっきも言った通り、アタシがやるよ。中に入るのは御免だからねェ。」


首を振りながら花梨が言った。

これで配置は決定だ。残った俺は何をすればいいのやら。仲間が頼もしいとこうも楽なのだなと、このメンバーでやれることに感謝をする。

営業中は他のグループを回る余裕はないだろう。ここは俺が皆の分の要望を聞いて集めるとするか。


「皆が仕事をしている間に、俺は他の出し物を回ってくるよ。適当なところで一旦休憩をさせてもらえるように先生には話しておくから、休憩時間に皆でお昼を取ろう。」

「じゃあ私は焼きそばがいいです!」

「アタシはお好み焼きとチョコバナナがいいかねェ。宜しく頼ンだよ。」

「私は~・・・うーん、うどんとフルーツポンチがいいなぁ。」

「俺は焼き鳥だけでいいや。」

「えーと、焼きそば・お好み焼き・うどん・焼き鳥・チョコバナナ・フルーツポンチだな。」


それぞれがあげた食べ物をメモしながら俺は頷いた。

正直、きつい買い物だななどと思ったがそれは口にしない。だって皆のほうが大変だからな。人を相手しなきゃいけない。それにくらべればこんなもの、楽なものだ。

俺自身は何を食べようか。それも考えておかないといけないな。

後は足りなかった時の為に、他にも少し多めに買っておこう。


「料金は後払いですか?先に払っておきます?」

「いや、いい。俺が奢る。これは手伝ってもらったお礼って事で。」

「清ちゃんってば太っ腹~。」

「いいのかい?」

「勿論だ。俺の我儘に付き合ってもらってるしな。正直これじゃ足りないって思うくらいだよ。」


鵺宵も花梨も、俺に文句ひとつも言わずにここまで一緒にやってきてくれた。英樹だってそうだ。

奈々は他の学校の生徒であるにも関わらずここまで尽くしてくれている。

お礼なんて何度言っても足りないさ。

・・・絶対成功させよう。一般開放なんて、予行練習だ。本番は、この祭が終わった後なのだから。


「アタシはどうしても悔しかったンだ。あンなに怖いものを見せられたンだからねェ。」

「鵺宵もー。人体模型さんは可愛かったけど、他は本当に怖かったもん!許せない。」

「だからね、アタシは清に感謝してるンだよ。勿論、ここにいるメンバー全員にもねェ。」

「鵺宵も!皆有難うね。」

「アタシ一人じゃ絶対に出来なかった。・・・だけど、皆がいればきっと出来る。最高の仕返しがねェ・・・!」


最高の言葉にふさわしいいい笑顔で彼女が腕を出す。それに合わせて俺達は腕を出し合い、ぶつけ合った。これは、一人一人の決意の証。絶対成功させるという執念。

あの日驚かされた恨みを晴らすため。


その幕は切って落とされた。

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