第五話†
久々の更新です。お待たせして申し訳ありません。
清ちゃんに二度目の買い物を任された私達は今、校門の前にいました。
「外出の申請だな。花梨、鵺宵、菊の三人か。気をつけて行って来いよ。今回は13時までに帰ってくること、いいな?」
「はーい。」
難なく先生の許可を得て、お店へ向かいます。
今回清ちゃんに頼まれたのは、各自必要だと思う道具を集める事。花梨ちゃんはメイク担当なのでメイク道具を任され、お客さんである奈々ちゃんは日ごろの経験を活かし、アドバイスをくれるとか。清ちゃんが学校に残ってるから、実質リーダーみたいな人になるのかな。
そして私は、可愛いもの担当!あの時作ったぬいぐるみみたいなものを他にも作るみたいだし、理科室の飾りつけも私がやっていいって言われたから、はりきっちゃう。
「鵺宵のセンスにはビックリしたよ…」
少し早歩きをしながら、花梨ちゃんが言います。
「私も驚きました。随分と個性的なぬいぐるみを作るものだなって。」
「えへへ、可愛かったでしょ?あ、でも花梨ちゃんの作ってたのも可愛かったな~。」
「世間一般的には、花梨さんの作る方が可愛らしいぬいぐるみ、になるんでしょうけど、今回の使用用途を考えると、鵺宵さんの方が合ってますね。」
「褒めても何も出ないよ~?」
「次回はああいったぬいぐるみなどを使って怪奇現象が起きているように見せかけるのもアリかも…」
この前と同じく電車に乗って、近くの複合施設にやってきました。
時期も時期だし、私達の学校から一番近い事もあってお店はかなり賑わっています。私達のいる学校の生徒が大きなビニールを腕に下げて電車に向かう姿や、次はどこに買いにいくかと考えているメンバーもちらほら見かけます。やっぱり、皆考えることは同じなのかも。
そんな中、私達はとりあえず百円均一のお店に向かいました。
「大体のメイク道具は持ってるンだけど、顔を真っ白にしたりするのとか、血糊を作る材料とかは多めに用意した方がいいねぇ。ちょっとその辺り見てこようと思うンだけど、どうだい?」
「いいと思います。血糊の材料は液体糊とあと何ですか?」
「案外、食紅とかでいけそうじゃない?」
「駄目だったらボールペンのインクとかになるかねぇ。」
「今更言うのもなんなんですけど、糊だと後で剥がすのとか大変ですし、人の体に塗ったりは出来ないような?」
そ、そうかも!段ボールとかに塗ったりする分にはいいけど、私達が塗ったりするのはそういう材料じゃない方がいいのかも。
「試しに調べてみたら、はちみつとか片栗粉に食紅を入れてるのが一般的みたいだねぇ。それでいいンじゃないかい?」
「じゃあ食品コーナーに行かないといけませんね。」
他に必要なものはあと何だろう?必要なものは大体揃ってきているので、買い忘れがないかどうか考えながら店内をまわります。
「幽霊役はどんな格好をするんですか?」
そういえば奈々ちゃんは、清ちゃんがストーリーの説明をしてる時にはいなかったんだっけ。あの時清ちゃんが言っていたストーリーを思い出しながら、なんとか言葉にしてつなげてみる。
「確か、少女の霊が理科室にいて…理科室に閉じ込められた別の少女がその霊を慰める為にぬいぐるみを作ったけど、そのせいで気に入られちゃってあの世に連れていかれて…それで、ぬいぐるみ作った女の子が怨霊になってお客を引きずり込もうとしてる…とか、そんな感じだったと思うんだ~。」
「だとしたら、少なくとも登場人物は元から理科室にいた少女の霊と、ここの女子生徒の怨霊の二人かねぇ。」
「でもでもっ、少女の霊はいないかも。音声とかだけになると思う。メインは怨霊の方でしょ?」
「じゃ、じゃあ、制服が一つ必要になると…それって、どう準備するんですか?流石に貴方たちが使っている制服を使用する訳にもいかないですし…かといって衣装を買うにはその、資金が。」
コスプレ用衣装を買うとしたら、確かに資金が足りない。かといって私達の制服を切り刻んだりするわけにもいかない。だとしたら他にも案を出さないと。どうしようかな?
「制服を用意することは出来ないけど、そんな感じの服なら用意出来るンじゃないかい?」
「花梨ちゃんが用意してくれるの!?」
そう言うと、花梨ちゃんは困った顔をして言います。
「アタシの服の大きさじゃあ、合わないンじゃないかい?」
皆と比べて体格のいい花梨ちゃんの服では、私達からしたらだぼだぼです。中々いい案だと思ったんだけど…ん?じゃあ私が用意すればいいのかな?
「私がスカートとか持ってくるね!後はリボンとセーター?」
「そうですね、ブラウスは各自用意出来ますし。」
「じゃあ気を取り直していくかねぇ。」
次に私達は食品を主に扱う店にやってきました。
そこで食紅の赤と緑と片栗粉をゲット。材料費もそこまで掛かってないし、これはお得感満載。
思い返してみれば、高額な買い物はほとんどしていないような。
あっ、あと蒟蒻も買いました。
その他にも必要と思われる品を何点か購入して、学校へ戻ります。
「この件が終わったら、皆で遊びに行きたいねぇ。」
「お疲れ様でしたパーティとかやったら絶対楽しいよ!」
「その時は、是非呼んでくださいね。」
パーティやるなら私の家でやってほしいって言ったら、丁寧に断られたのは何でだろう?
二人の中では、花梨ちゃんの家か、カラオケに行くか、こんな感じのお店を見て回ってから外食しようとかそんな感じでまとまってるみたい。きっと、皆でわいわいして笑顔溢れる集まりになると思う。お互いに脅かしあった仲だし、あの男子メンバーも一緒に呼んで、講評とかをしあったり今後の部の方針とかを考えるのもいいかも。
「時間が少なくなってきたねぇ。そろそろ本格的に仕上げていかないとだよ。」
「うん。ラストスパート、頑張ろうね!」
「はい!」
決意新たにこの場を後にします。
きっと学校では菊ちゃんと清ちゃんと英樹くんが待ってるから、急いで合流して作業を手伝わないと。それに、幽霊役として脅かす練習もしなくちゃ。もう本番はすぐ近づいてるんだから。
電車にのって、来た時と同じように早歩きで学校に向かいます。13時までにまだ少し時間はあったけど、買い物が終わった今はすぐに学校に帰るのが先決。あの三人に作業を任しっきりにしてきちゃったんだもん。
「ただいま~。」
「おぉ、早かったな。」
先生とのやりとりを軽く済ませて、理科室に向かいます。
理科室に到着して引き戸を開けようとした瞬間に私は違和感に気が付きました。なんと、扉が開かなかったのです。ガラスの窓から中を見ようにも、段ボールでふさがれていて中の様子は分からないし、どうしよう?鍵は外からかけるものだし、開かないはずはないんだけどなぁ。中から物音もしないし、清ちゃんたちは不在なのかな?お昼を食べに行ってるとか…
「どうしたンだい?早く入るべきだろう?」
「私達がいない間に準備を進めていたんですね。行くときにはドアは開いてましたし、こんな塞がれていたりしなかったですし…」
二人に扉が開かない事を告げると、二人は交互に扉をどうにか開こうと試行錯誤を繰り広げます。でもどのやりかたで開けようとしても、扉は開くことはありませんでした。
「もう、蹴破るとかしないと開かないンじゃないかい?」
そう、花梨ちゃんが言ったのと同時に変化は起こりました。ゆっくりと、扉が開いたのです。
中から出てきたのは菊ちゃんで、辛そうな顔をしていました。体のところどころには傷がついていて、息遣いも荒いです。
「ど、どうしたの菊ちゃん!?」
「そ、その傷は…!?」
菊ちゃんは理科室の扉をゆっくりと閉めてから、私達にこう言ってきました。
「…入らない方が、いいと思う。」
「何で?中に何があるの?」
「ほら、霊の話をすると…集まるっていうじゃない。それが…起きてしまったの。」
「清谷と英樹は!?」
「私を逃がす為に囮になって…まだ中に。」
「じゃあ、助けにいかなきゃ!」
そう行って扉に手を掛けようとすると、菊ちゃんが私の手を遮って扉の前に立ちます。
どうしてと聞いても中に入ってはいけないと言うばかりで変化はありません。どこか怯えている様子の菊ちゃんに不安を感じ、いてもたってもいられなくなりました。
「…やっぱり、行かなきゃダメだよ。こんな状態なら、私が。私…耐性があるから。」
「鵺宵…?」
「それって、どういう…?」
皆が首をかしげるのは仕方のないこと。皆には…このことを話してないから。
そんなシリアスな展開に押されながらも、私達は理科室への侵入を試みます。何度もやりとりをしている内に菊ちゃんが折れ、入室を許可されます。でも、菊ちゃんはついてきませんでした。中に入るのが怖いらしいです。
先程までびくともしなかった扉は簡単に開き、まだ午後になってからあまり時間が経っていないのにも関わらず真っ暗な空間が私達を手招きします。その誘いに吸い寄せられるように、私達は理科室に足を踏み入れました。
シンとした空間は先程まで私達は作業していた時のような雰囲気はなく、異質な空間のように感じます。
「な、なぁ。やっぱり戻ったほうが…」
怖いものが苦手な花梨ちゃんが、戻る事を提案しているけれど私はそれに応じる事はありませんでした。何かとてつもなく嫌な予感がしたから、戻るにも戻れません。だから、花梨ちゃんに奈々ちゃんと一緒に戻るように提案します。
最初は渋っていた花梨ちゃんと奈々ちゃんだったけど、部屋がだんだんと寒くなってきた事に驚き、その提案をのみました。…だけど。
「あ、開かない!!」
その提案は花梨ちゃんの叫びで一瞬にしてないものにされました。
さっきもこんな風にいきなり開かなくなるという現象が起きたばかりなのに…迂闊に足を踏み入れるのは良くないのに二人を巻き込んじゃった!ど、どうしよう!
その後も不思議な、そして恐ろしい現象が次々に起こり、私達は何度も叫び声をあげながら理科室を彷徨います。けれど一向にこの部屋から出られる様子はなく、パニック状態に陥っていきます。
花梨ちゃんが限界に近づき、泣き出すと、急に理科室の電気が点灯しました。
そして、近くで鍵の開く音がします。
それは準備室の方から聞こえてきたので、そこに近づけるように木の板や段ボールでできた壁に近寄ります。せっかく作ったものだし壊すわけにもいかず、かといって他に道はなく戸惑っていると、近くにあった机にある扉が開きました。
「ヒッ!?」
花梨ちゃんが怯えて後ずさります。
机にある扉から出てきたのは、清ちゃんでした。清ちゃんは全身無傷で、床を這った代償かジャージは汚れてしまっています。
知っている人物の登場に、気が緩むのを感じました。
さっきの嫌な気配も消えていて、少し安心します。
「清ちゃん!一体菊ちゃんに何が!?」
そう清ちゃんに聞くと、清ちゃんは申し訳なさそうに笑って私達に告げました。
これは、リハーサルであると。
鵺宵ちゃんが感じた嫌な気配とは、一体?