第四話†
就活の出来ないこの合間に更新。
あぁ、もう少しで文化祭の時期ですね。
ぬいぐるみが完成した所で、その日の作業は終わった。次の段階へ進むのは明日になる。
奈々に関しては今後も、というより学園祭当日まで手伝ってくれるらしいので、明日またここに来てもらう事にする。
放課後、特に作業も出来ないので例の黒いカーテンを探しに教室を回ったが、結局黒のカーテンを使っている教室はなかった。
どうやら一般的には、理科室につかう事が多いらしい。理由としては、完全に光を遮断して行う実験の為だとか。
しかし俺たちのいる山ノ上高校の理科室は日光が当たらない場所にある為、黒のカーテンを使う必要がないとのこと。
ぬいぐるみの出来を確認し、一個一個を並べてみる。花梨の作ったぬいぐるみは可愛らしく、奈々の作ったぬいぐるみは所々縫い目が見えている。
そして、鵺宵の作ったぬいぐるみからは謎のオーラが発せられていた。不気味にも程がある。口はバッテン印、縫い目は継ぎ接ぎのようで何と言ってもぬいぐるみの目が、余りにもリアルなので怖さを強調している。さっき見たよりも数倍不気味さが増していた。
「どぉ?自信作なんだけど…。」
「すっごいよ、うン…。」
「うわぁ、もの凄く不気味ですね。暗闇のなかで見たら叫んじゃいそう」
「なら完璧だな!」
予想通りの結果に満足しつつ、明日に備えて皆に準備をしてもらう事にした。
「花梨、明日メイク道具を持って来てくれ。あと鵺宵、カーテンの件、頼んでいいか?」
「うん、いーよー」
「よし、これで決まりだな」
明日は花梨のメイク道具を使い、幽霊役用メイクの練習をしようと思う。そして、必要なものを買い出しに行く予定だ。
……翌日。
大分早く起きてしまったため、今日の予定について確認。今日は鵺宵と花梨、そして奈々に買い物へ行ってもらう。買って来てもらうものは蒟蒻、液体糊、その他必要になりそうなもの。各自が持っていそうな絵の具などは持って来てもらうので、それ以外のものだ。
ぼんやりとした案が、だんだんハッキリとしていくのが面白くて、早くあいつらをビビらせたいと身体がうずうずして居るのが分かる。
さて、今日も頑張るか。
家を出る時間になり、自転車に乗って学校を目指す。途中何度も赤信号に阻まれたが、今日はご機嫌なのでそんなのも気にならなかった。風も適度に吹き丁度いい。自転車でめいっぱい風を感じながら、いざ、学校前の坂へ。
しかし、電動自転車ではなく普通の自転車で坂をあがるのはやはり無理だった。途中で自転車を降り、自転車を引っ張りながら坂を登る。
学校に着いた頃には息があがっていて、先程のご機嫌もどこかへ行ってしまっていた。
自転車置き場に自転車を置き、早速理科室へ向かう。
理科室に入ると、既に四人は集まっており、議論を交わしていた。
「今日は何をしようかねぇ。」
「そろそろ本格的に教室を改造したいなぁ〜」
「日にちが結構迫ってきてるからな。なるべく早くセッティング終わらせて、リハしないと。幽霊役にもこう、コツとかあるしな」
「あ、どうも。おはようございます!」
「おはよう、奈々。随分早くに来たんだな。」
「それはもう!人をおどかすのが楽しみで仕方なくて…!」
「頼もしい限りだな。さて、じゃあ今日の予定を確認するぞ。まず、花梨。化粧品は持って来たか?」
花梨は軽くコクりと頷く。それを確認した俺は続けて鵺宵に黒いカーテン持って来たかを聞いた。
「うん!持って来たよ〜。」
そういって教室の端にかけていき、バッグから黒いカーテンを取り出す。中から不気味なポーチやノートが顔を出したが俺は何とかスルーに成功した。
「よし!各自もってこいといっていたものはちゃんと揃ってるな。では今日の買い出しについて説明するから良く聞いておけよ?」
三人がそれぞれ頷いて見せたので、俺は話を続けた。
「まず、誰が行くかだ。今日は、花梨と鵺宵と奈々!この三人に行ってもらう。」
すると予想していた通り、花梨が驚いた顔をして言った。
「でも奈々はこの学校の生徒じゃあないンだよ?大丈夫なのかい?」
「そこは御宅の学校での経験を活かしてもらう。奈々、お前は部活で幽霊役をしているんだろ?だったら変装も余裕だよな?」
「た、多分大丈夫だと思いますけど、誰に変装するんです?」
「今回、俺らの出し物の受け付けをやってもらう事になった女の子だ。幸い、髪が長いからウィッグをつければまぁ似る。あとは制服だが、俺のを貸してやるから、それで行って来い!」
「その間清谷さんは何を着るんです?まさか私の制服を?」
「んな訳ねぇだろ。俺はその間ジャージを着て待ってるよ。他んとこも結構ジャージで作業してるとこが多いらしいからな」
「分かりました!やってみせましょう」
「じゃあ早速着替えてウィッグつけてもらうか!」
準備室で各自着替えを済ませ、奈々は更にウィッグを付けた。
受付係をしてもらう子と同じくらいの長さの髪、そしてメイクを仕上げる。
勿論俺がやるんじゃなくて、花梨にやってもらったが。いつもあの子はナチュラルメイクなのにつけまつげだけは派手という感じの子だった。まぁ、似合ってるから別にいいけどな。
声は少し高めで、女の子らしい声だ。
本人に来てもらい、見た目や仕草について見てもらうと彼女は驚いたように口を手で塞いだ。
「え……すっごい似てるんですけど。」
本人が認めるなら間違いない。
「さて、これで準備も整った訳だが、ここでひとつ問題がある。奈々が買い物にいっている間に先生にお前が見つかると厄介なんだよな」
「なら私、理科室で何か手伝うけど。これでどう?」
流石に先生も有志の団体の世話までしないだろう。なら、それでいくのがいい。
「よし、じゃあよろしくな」
「うん。任せてー。」
「じゃ、花梨、鵺宵、奈々。買い出しを頼んだ!」
「あいよ」
入口まで一緒に行き三人を見送ると、理科室へ戻り早速準備にかかった。
まずは鵺宵に持ってきてもらった黒いカーテンを、今あるクリーム色の薄いカーテンと入れ替える作業だ。しかし俺は身長が低い為、窓際にあるテーブル的な台に乗らないと届かない。一方、受付嬢の菊は難なくカーテンの付け替え部分に手を伸ばし、中々の早さでカーテンを替えていっていた。
「なんか頼もしいな、菊がいると。」
「そぉ?」
菊は素っ気ない返事をするが、何だか楽しそうにしている。
「三人が帰って来る前に、したいことがあるんでしょ?」
カーテンを替え終わるなり菊が言う。まさか計画していた事が言い当てられるとは思っておらず、動揺すると同時に微妙な笑みがこぼれる。それを見た菊はふふふ、と不敵に笑いターンした後、準備室にいる英樹に向かって言った。
「英樹もでしょー?」
英樹からの返事は返ってこないが、恐らく聞こえているだろう。その上で返事をしないでいる。という事は図星か。
まんまと菊に当てられ黙り込んだといったところか。俺と同じく。
「参ったなぁ。途中参加のお前に見抜かれるなんてよぉ…。」
俺が悔しそうに言うと、菊はどうだ!というように笑った。
「それで?何をしようと思ってるの?……三人で。」
「そこまで当てられたか。安達、お前凄いな〜」
準備室から出てきた英樹がやれやれと行った様子でゆっくりとこちらに来た。そして俺と菊の間で止まり、計画の話を持ち上げる。
「音だけでどれだけビビらせる事が出来るのか、実験したいんだ。」
英樹の考えていた事はそういう事らしい。
「その為に、二人には協力願いたい。……で、清谷の計画は?」
「俺はあいつらが帰ってくるまでに部屋をある程度完成させて、実験をしたかった。無人でどれだけ恐がらせる事が出来るかどうか。」
俺なりの計画を話すと、英樹は頷いて無人でリハという点は変わらないな、と述べた。二人は頷き、更に詳しく話を展開していく。
「じゃあ、仕切りとかはどうするの?」
菊が首を傾げ言う。
そう。この教室でお化け屋敷をやるには、ルートを作らなくてはならないのだ。以前にも話題に出たとは思うが、こういう場合、一般的には机か段ボールを使用して仕切りなり壁なりを作る。しかしこの教室は、既に固定されたテーブルがあるため、そのルートはある程度決まったものになってしまう。
そこで考えたのは通れなさそうで実は通れる道を作る、或いは迷路式にするというもの。
誰しも迷路で行き止まりにあった時、回れ右をしてしまうのではないか?無論、行き止まりとは本来通ることが出来ない道を指すのだが。そして、もしも全ての道が行き止まりだと錯覚した場合、入口に戻るのではないか?そこでもし、入口が閉まっていたら…?
パニックになるに違いない。
その後の行動を予測すると、まず入口に戻りドアを叩くなり外に叫ぶなりする。しかし入口は閉ざされたまま。仕方なくベランダを探しそこから出ようとするが、迷路式になっていて道は塞がれており通れない。多分、ビニールテープで机同士を繋げておけば、机を動かすことも出来ない。机はテーブルの上に設置されているため、乗り越える事も台に乗らない限りは出来ない。
ここは後で対策を取るとしよう。
そして、逃げ場が無いと錯覚してしまう。その瞬間、ロッカーなりどこかから幽霊役が出現。……これは後で花梨達が合流してからの話だが。こんな状態で出てこられたら本物だと錯覚してもおかしくない。
因みに通路は実はテーブルの扉をくぐり抜けるというもの。
実はこの理科室にあるテーブルの側面についている扉から、反対側の側面についているとまでの間は空洞で、右左両方の扉を開けば人一人が通れるくらいのスペースはある。
ただし、匍匐前進するのは確定だが。
幽霊役が出た状況でその道を見つけられるとは思えない。
わからないままもし暴れられてしまったら、それはそれで部屋にあとが残り良いかもしれない。後で先生に叱られるとは思うが。
ルートが見つかればそれはそれで次の仕切りに行くだけの話だ。
次はベランダ付近。
ベランダは窓の向こうがわで、黒いカーテンで遮られているため、最初は見えない。
しかし逃げようとする客は、そのカーテンを捲りベランダへ出ようとするだろう。
此処で英樹の出番だ。
英樹の作った音声を利用して、誰かが窓を叩いているように思わせる。ここで逃げればそれでよし、逃げずにカーテンを開けばそこには血糊塗れのマネキンと、窓いっぱいにつく手跡。これで大体の人は怖がるだろう。そして、一人がこのマネキンの下におり、バッと出て来て窓をたたき出す。
客は驚き逃げるに違いない……。
こんな感じで、少人数の幽霊役でも十分恐がらせる事が出来るお化け屋敷に仕上げるつもりだ。その為に、リハをしたい。
その案を二人に伝えると、感心したように頷き同意してくれた。
「いいんじゃなぁい?めっちゃ怖いんですけど!!」
「お前の頭はどうなってんの?恐ろしいにも程がある。」
「褒め言葉として受け取っておくよ。」
あとは、あの三人が帰ってくる前にそねたリハを出来る状態にしておくだけだ。
「頑張るか。」
「おぅ!」「うん!」
俺達は作業を再開した。
何としても三人が帰ってくる前に、作業を終えなければ。
今回は、ぬいぐるみの続きと買い出し、更に清谷の思考の回でした。
次話は買い出し組の話の予定です。