第二話†
お待たせいたしました。第二話です。
朝。日の光がカーテンの間から覗き、その光が眩しくて目が覚める。
時計を確認し、いつものように支度を始め、急いで家を出た。
あの日は結局、メモをとり続けたせいか、疲れて眠くなり、寝てしまったようだ。
今日は生憎雨が降っていたので、傘を片手に階段を下る。
階段を降りたと同時に傘を開き、水溜まりを飛び越しながら学校へ走った。雨が降っているため、自転車が使えないのは痛い。
色とりどりの傘をさす学生を避けながら、今にも赤になりそうな信号を渡った。
今日は絶対に遅刻出来ない。早くあのアイデアを皆に見て欲しい。そして、意見をもらいたい。その思いで一杯だ。
息を切らしながら、何とかいつもと同じ時間に学校へと到着した。学校の階段を上がり、クラスのドアを思いっきり開く。
「バアァアン!」
一斉に集まる視線も気にせず、俺は即座にあの二人の元へ向かった。
「おはよう清谷」
「清ちゃんおはよ~っ」
「二人共!」
机にあのアイデアを書いた紙をバンと叩くように置くと、二人に言った。
「アイデアを持ってきた」
いきなりの展開についていけない二人は、直立不動で立ち尽くす。しかし、立ち直りは早い。
「こ、こんなにかい?」
「清ちゃん凄ーーいっ」
「そんな事はいいから見てくれ!」
紙の束をかき分けるようにして分担すると、二人は紙に目を通した。
ペラペラと紙をめくりながら、俺のアイデアを次々に見ていく。
さぁ意見を、意見をくれ!
二人は時折各自の紙を交換したりしながら、全ての紙を、俺のアイデアを見ていった。暫くして二人は一呼吸おいて、感想をのべ始める。
「良いンじゃないかい?蒟蒻とかは結構定番だけど、それをフェイクにして違う作戦を組み込めば完璧だよ」
「んー、後は材料集めが主流になるね~。これだけアイデアがあれば、凄いお化け屋敷になりそうだよ!」
二人の口から出たのは、アイデアを誉めるものばかりだった。満足はしたが、なにか物足りない。
「これはこうした方がいいとかはないか?」
「試してみないと分かンないだろぅ?」
「じゃあ早めに資金を受け取って、準備しつつ色々試してみようよ!」
俺達の使う教室、理科室は暫く使われない事になっている。実際、文化祭が近いので、授業はさほど行われないし、準備期間の為、授業の殆どは文化祭の準備だ。主にクラスの準備をすることになっている。
そんな中、俺達はクラスを脱け出し、理科室へと集まる。理科室の前には既に皆が集まっており、更にあの生徒会役員もいた。
生徒会役員は持っていた茶封筒を俺に手渡しした。
「では、頑張ってください。」
それだけ言い残すとそそくさと行ってしまった。
俺達の予算は、有志グループだからかクラスの出し物をやる資金よりかは少ない。だが、そもそもあまり買うものがない俺達にとって、その資金は多く感じた。
「早速準備を始めるか」
「うんっ!」
「あぁ。始めようかねェ」
三人はとりあえず理科室の鍵を借り、理科室を開けた。室内に溜まっている独特の匂いが鼻を刺激する。換気したいところではあるが、雰囲気作りの為と我慢する事にした。
「さて、何からやるか」
「買い出しからじゃないかな?」
「でも買い出しには三人で行かないといけないンだよ」
「俺が残っててやるから行ってこいよ」
遅れてきた英樹がそう言うので、俺達は早速買い出しに出掛けた。
「えーっと、清谷、花梨、鵺宵だな?」
階段を降り、外へ出る。校門の所に先生が立っていたのでチェックを受けた。
この買い出しにはルールがある。1つ目は10時以降に行くこと。2つ目は3人で行くこと。3つ目は先生にチェックを受けること。4つ目は――。
「じゃあ12時には帰ってこい。」
「はい」
4つ目は、先生に決められた時間に帰ってくること。以下のルールが守れない場合、もうその団体は買い出しに行くことが出来ない。
先生によっては、かなり早めに買い物を済ませて帰ってこいというヤツもいるので注意が必要だ。
ここからショッピングセンターまで、大体30分掛かる。という事は、一時間で買い物を済ませて帰ってこいという事だ。あまり普段からショッピングセンターに行かない俺は少し不安だったが、普段からショッピングセンターに行くという鵺宵が居たので、まぁなんとかなるかと思い直した。
学校から出て坂を下り、最寄りの駅へと急ぐ。その間買うべきものをまとめたり、どれから試すかどうかなどを話し合った。途中、俺達と同じように買い出しに出たらしい人々を見かけ、何を買うのだろうかなどと思ったが、自分の事に集中しなければとすぐに考えるのを中断した。
駅についたのは学校から出て25分後だった。大体予定通りなのだが、ずっと話しながら歩いていたせいか少し早く着いた。予定通りに進む方が安心するといえばそうだが、早くなる分には構わないと考え直す。
電車に乗り込み、ショッピングセンターがある駅へと向かう。時間が時間なので、電車に乗る人は少ない。席がたくさん空いていた。
電車通学をしていない俺としては、馴れない感覚だ。電車の中で揺さぶられながら、俺は買うものを考えていた。
「ガタンッ」
「うわっ!」
電車が曲がろうとしたせいか、車両がガクンと揺れた。その揺れに馴れていない俺は、揺れをまともに受け、体勢を崩してしまった。
しかもその先には・・・・ドアがあった。俺はドアにごつんと顔をぶつけてしまった。
「イテテ・・・。」
「清ちゃん可愛い♪」
「お前らしくないなァ」
二人に笑われ面子が立たない。
丁度その瞬間、駅に到着するというアナウンスが入った。このままドアに寄っ掛かっていればいずれドアが開きまた体勢を崩してしまいかねない。俺はすぐさま中央に戻ってきた。
「開くドアにご注意ください」
アナウンスの声と共に扉が開く。俺が寄っ掛かっていたドアと反対側のドアがあいたのは予想外だが、いい方に動いてくれたので良しとしよう。
俺達は駅を出てショッピングセンターに向かった。
最初に買うのは・・・。勿論暗幕だ。これはただの布なので、手芸店に行けばいい話だ。
「手芸店はどこにあるんだ?」
「確か、この建物の三階だよ」
一番土地勘のある鵺宵を先頭に手芸店へ向かう。所々で学生を見かけ、何を買うのだろうかと思案しつつエスカレーターで三階へ上がる。
「こうやって一緒に来るのは初めてだね」
「そうだな。俺自身、こんな大型の店に来るのは初めてだ」
大体の事は近所にある商店街で済んでしまう為、俺はあまり遠出をした事がない。このショッピングセンターでさえも、足を踏み入れたのは初めてだ。
「じゃあ記念にアレをしないかい?」
「あれって何だよ?」
俺には何の事だか分からなかったが、どうやら高校生として当たり前の事らしい。鵺宵と花梨は顔を見合せにやにやしていた。
「アレっていうのは――、後のお楽しみサ」
「あ~、分かった分かったよもう聞かねぇ」
手芸店に着き、店内を見回す。所々に布はあるのだが、中々黒無地が見つからない。店内の隅々まで見ていると、ようやくの事で無地の黒布を見つけた。
黒布にも色々な種類があるようで、布地のさわり心地や光沢などの違う布が幾つかあった。そのような布はやはり値段がそれなりにするようだ。
「私達の使う布って、暗幕に使うものでしょ?だったらカーテンとかの方が良いんじゃないかな?理科室にカーテンついてるよ?」
「カーテンを使うのも1つの手ではあるんだが、カーテンは更に値が張るからなぁ・・・。」
「でもこの布だと長さが足りないなんて事にならないかい?」
試しにmを確認してみると、確かに足りない。しかも買うとするとかなりの量を独占して買わねばならない。
「確かに足りねぇな」
「じゃあカーテン見に行こう!」
運がいい事に、隣のエリアに丁度カーテンが売っていた。
「おっ、これか。確かにそれらしいな」
値段を確認すると、思ったより高い事に驚いた。何だこの値段は。予算では間に合わない。
「全く、理科室のカーテンが元々黒だったら良かったのにぃ!」
「そ、それだ!」
「?」
俺が大声をあげた事に驚いたのか、二人は揃って首を傾げた。
「何処かの教室で、黒のカーテンを使っている所を探すんだよ!」
「成程!でも無かったらどうするンだい?」
「無かったら私が自費で買ってあげる~っ!丁度模様替えがしたかったんだ~」
模様替えはともかく、部屋のカーテンを黒にするのはどうかと思うのだが、どこか他人と好みがずれている鵺宵には丁度いいのだろう。
「だとすれば、他に何を買うンだい?」
「布と綿、その他諸々。自分たちで手作りの人形を作ろうぜ!」
「不気味な人形だったら任せてっ」
「あ、あたしは可愛いのしか・・・・。」
「じゃあ花梨は普通にテディベアを作ってくれ。設定はこうだ。ある日夜の学校に忍びこんだとある生徒は、見回りに来た人に鍵を掛けられ教室から出られなくなってしまう。」
「それで?」
「仕方なく教室で朝を待ったが、何しろそこは理科室。不気味なものが沢山ある。不安めいた彼女はついに霊を見てしまう」
「丑三つ時だねっ?」
「少女の霊を見た彼女はその霊を慰める為にぬいぐるみをつくる。だが、その好意で気に入られてしまった彼女は少女の手によりあの世へ連れていかれてしまう。」
「あらら。じゃあその娘は死んじゃったんだ・・・。」
「彼女は自らの過ちを悔やみ、ぬいぐるみをぐちゃぐちゃにし、自分の身代わりとなる人を探している。・・・こんなんでどうだ?」
多少無理矢理感はあるが、ストーリーとしてはまぁまぁだろう。ぬいぐるみが必要な意味もちゃんとある。
「ならその材料を買って、一度帰って作戦を立て直そうか。まだ次回はたっぷりあるからねぇ。焦らずにゆっくりとやっていこうじゃあないか」
「そうだな」
ぬいぐるみの材料は大体100均に売っているだろう。俺達はすぐに100均へ向かい大体の材料を揃えた。
「じゃあ今日は一旦帰るか」
「まだだよ!アレをしてないだろう?」
「あっ!」
そういえばアレというものが何なのか、まだ教えてもらっていない。だがもうタイムアウトだ。先生に決められた時間が差し迫っている。今すぐに帰らなければ間に合わないだろう。アレはまた今度にして今回は一度帰るのが最善だ。
「時間がないからまた今度な」
そう二人に告げると二人は名残惜しそうにしながら俺についてきた。時々ある一角を見てさみしそうな表情を見せていたが、あそこに何かあったのだろうか?特に窓も何もない、建物の壁の部分だが?
「ぶー、先生ってばもっと長く時間とってくれればいいのに・・・。」
鵺宵が頬を膨らませ、不機嫌そうに言った。俺もそれには同意する。だって時間がもっとあれば、もう少し沢山の材料をそろえ、準備が出来ただろうから。今回買えた材料は主にぬいぐるみを作る材料だけだ。準備といえば、ストーリーに出てくるぬいぐるみの作成くらいしかできないだろう。しかも不器用な俺には到底無理なこと。二人に任せ俺は見ていることしかできない。
電車に乗り込み学校への最寄駅に向かう。その電車内には、俺たちと同じような状況になったであろう生徒たちが乗車しており、それぞれが戦利品を手に今後どうするかを話し合っていた。俺たちもそうだ。ぬいぐるみについての議論を重ねていた。
「ぬいぐるみってやっぱり熊かい?」
「えー兎さんがいいよぉ~」
「え?犬じゃねぇの?」
意見が全くかみ合わない。それぞれの持っていた“ぬいぐるみ”のイメージが全く違ったのだ。俺は小さいときにもらったぬいぐるみが犬だったためにぬいぐるみイコール犬のイメージがある。
「怖い系の話に出てくるぬいぐるみは兎が定番だよぉ?」
思えばホラーゲームに出てくるのは兎が多い気がする。
「でも定番をそっくりそのままってのも面白くないだろう?先読みされてしまうよ」
「それもそうだな」
結局、俺の“犬”という案が一番定番でないものだったため、犬のぬいぐるみをつくることに決まった。
電車の中から見える景色は自分たちの馴染みのあるものに変わった。それと同時に電車が停止し駅への到着を知らせる。俺たちは電車をおり、学校へ向かった。
校門のところで先生が待っているのが見える。交代したのか行きとは違う先生だ。俺たちは先生に紙を見せ、校門をくぐる。ぎりぎりの時間で帰ってきたことに気付いたのはその時だ。もしあのままアレをしに向かっていたら、間違いなく遅刻していただろう。危なかった。
次に英樹の待つ理科室へ向かった。理科室に入ると同時に謎の音が響いた。悲しそうにすすり泣く声、低いうめき声、女性の叫び声、子供が必死に助けを求める声・・・。順番に聞こえてきたためにこれは英樹がやったのだと確信した。俺が注文したとおりにそろえたと分かる。
「おかえり」
「おう、ただいま」
英樹に早速話しかけようとして扉を閉めたその時、俺たちに続くようにドアが開く音がした。
「扉が開く音までリアルだな」
「今のは違うぞ?」
「は?」
後ろを振り返ると、俺たちとは明らかに違う制服を着て息を荒くしながらドアの前に立つ一人の少女が居た。一体こいつ誰だ?しかも何故数ある教室の中からここに?
頭の中に広がる様々な考え。それはほとんどがマイナスに繋がる。俺の額から冷や汗が流れた。沈黙が場を支配する。
急に訪れた来客に、俺達はただただ驚くばかりだった。