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第一話†

前回は、長すぎる短編として投稿したのですが、前回編集(手直し)がとても大変だった為、今回は連載にしました。


そして、区切りが非常に難しい為、変な所で区切る場合があるかもしれません。


ご了承下さい。



「ねぇ、知ってる?山上高校の七不思議」

「あーそれ私知ってる!確か……涙を流す絵があるとか」

「そうそう。マジやばくな~い?」


 あの事件以来学校に広まった七不思議を聞くたび、あの時を思い出す。わざわざ学校に忍び込み、脅かしてきたあのバカどもは今、同じ部活の仲間。何とも不思議な話だろ?……バカげた話の間違いか。それはさておき。

 あの日まんまと脅かされた俺達……鵺宵と花梨と俺は、オカルト部全体の企画とは別の、ある計画を企てていた。それは脅かしてきたあいつらへの仕返しに近いものだ。あいつらには、夜の学校で脅かされたから、俺達も同じ学校で脅かしてやろうと思っている。そろそろ学園祭がある事から、その日を狙い話し合いを進めていた。

 今は部室ではなく、俺達のクラスに居る。バレる可能性は高いが、バレたところで実行出来るから問題ない。

「清ちゃん、ここはどうする~?」

「俺に言われてもなぁ、分かんねぇよ。そこは鵺宵に任せた」

「清谷……はっきり言っていいかい?」

「何だ?」

「クラスの出し物みたくお化け屋敷をやるのは良いが、そもそもどこでやるっていうンだい?」

「そうなんだよな……」

 次々と浮上する問題に嫌気がさして来たが、俺はどうしてもあいつらをぎゃふんと言わせたかった。あの日、驚かされた事がかなり悔しかったからだ。思わず女子のような声を出してしまった失態を挽回しなくてはならない。

「教室の件は……俺が禿に頼んでみる」

「禿何て言っちゃ駄目だよ清ちゃん!あの先生にはちゃんと名前があるんだから」

「名前?あだ名だって立派な名前だろ?」

「も~……」

「二人共真剣に話してくンないかい?」

 花梨が俺達を宥めるように言った。

 既に外は暗くなり始め、最終下校の時間が近付いて来ていた。俺は二人にまた明日と告げ、急いで支度を始める。

「清ちゃん忙しそうだね」

「清谷はバイトがあるからねェ……」

 親に内緒で始めたバイトだが、条件が良いせいか仕事量が多いのが悩みだ。遅刻してしまってはいけないとダッシュで階段を降りる。

 外に出て見えたのはあの忌々しい体育館と綺麗な月だった。

「……」

 そういえばあの時、一瞬人の気配がした気がしたのを思い出す。あれは本当に幽霊だったのだろうか……?

 校門を出て、街灯が照らす道程をただひたすらに走る。息が切れても気にせず、脇腹が痛いのも我慢し走った。

 バイト先に着き、制服に着替え即、仕事を開始する。次々と出来上がるラーメンを客席に出すのが最初の仕事だ。そう、俺の仕事先はラーメン店。しかも名の知れた店だ。この時間の混み様は凄まじい。ラーメンを運んでも運んでも次のラーメンがカウンターに並ぶ。

「清!味噌ラーメンを三番テーブル!」

 店長の指示が聞こえる。

「はい!」

 大きな声で返事をし、カウンターに置いてあるラーメンを手に三番テーブルに向かった。

「お待たせしました、味噌ラーメンです」

 確認の為に商品の名前を告げてから、テーブルにラーメンを置いた。味噌ラーメンを頼んだのは、俺と同じ位の歳の男だったから、良くこんな所に一人で来るなぁと思いながら、俺はその場を去ろうとする。

「……清谷?」

「清!醤油ラーメンを十一番テーブル!」

「はいっ!」

 一瞬名前を呼ばれた気がしたが、今は仕事が先だ。俺は店長の指示に従い次のラーメンを運んだ。

 それから約四時間、ラーメンを運んだりレジを任されたりして過ごし、やっと仕事が終わったのが夜の10時だった。

「清、今日もお疲れ様」

「お疲れ様です、お先に失礼します」

 あんまり遅くなると母に問い詰められるので、店の片付け等は他の店員に任せ、早上がりした。街灯が照らす道を行きと同じように全力疾走する。肌に冷たい風が当たっていくのがよく分かった。

(今日もうざい位に綺麗な月だよな……)

 ぼんやりとそんなことを考えている内に、今日学校で論議した内容が頭に浮かんだ。このままでは、文化祭で企画を実行出来ない。企画をしたのは俺だ。場所の確保や準備は俺がやるべきだよな、と考えがまとまる。……仕方ない。嫌ではあるが、明日の昼休みに生徒会や職員に話をしてみるとしよう。

 家のドアの前までやってきたので、自分の制服のポッケから、自宅の鍵にしては小さい、銀色の鍵を取出し、ドアにある鍵穴に差し込む。右回しで鍵を回すと、カチャンと良い音が鳴った。

「ただいま」

「おかえり。今日も部活があったの?」

 母はリビングにあるソファーに座り、TVを眺めながら俺に話しかけた。俺は母の顔を見ないまま、応答をする。

「そうだよ、毎日部活があるって言ったろ?」

「……そうなんだけど、心なしか、前よりも帰りが遅くなっているわよね?」

 流石母、鋭い。10分単位で考えていくと、確かに俺の帰りは前よりも遅くなってきていた。だが、たかがほんの数十分だ。僅かな時間のズレだけで、帰りが遅いとわかる母は、バイトをしていることがバレたくない俺からしたら脅威だった。

「それより夜ご飯は?」

「そこにオムライスがあるわよ」

 問い詰められる前にと話題を変えたのが成功したらしい。母はこちらを振り返り、台所にぽつんと置いてある皿を指して言った。ラップが掛かった皿には、ケチャップの掛かっていない、綺麗に出来たオムライスがのっていた。

 冷蔵庫にあるケチャップを取出し、勢いよくオムライスの上にかけていく。見た目など気にしない。食えれば良いというものだ。腹の空いた俺は、凄い勢いでオムライスをかきこみ、ごちそうさまと言った後皿を洗ってからその他の作業に取り掛かった。

 結局、明日のことを考えていたために寝るのが遅くなった。ベッドに入るなり疲労感が体を襲う。明日までにこの疲労感が取れるといいのだが……そう考えている内にいつしか眠りについていた。



――翌日。

「清!朝よ、起きなさい!!」

 いつもと同じように目覚めた俺は早速支度をして学校へ向かった。今日は生徒会に企画の話をしなければならない為、その時に言うセリフを考えながら登校した。

 授業はいたっていつも通りで、難なくこなすことができた。多少寝ていたからという理由もあるが、まぁそこは気にしない。

 昼のチャイムとともに席を立ち、早速生徒会室へ向かった。生徒会室の前は異様な空気が立ち込めており、その前の廊下で立っていると、なんだか罪悪感がこみ上げてきた。何なんだ。何もやましいことなどないというのに。

 暫く廊下で立っていると、不意に生徒会室のドアが開き、中から人が出てきた。これはチャンスだ、と思った俺は、素早く相手に話しかける。

「あの、生徒会の方ですよね?」

 生徒会と話をするときは、俺でさえ敬語を使う。クラスメイトに使ったことはほとんどないが、生徒会となれば話は別だ。お叱りを受けるという噂だからな。

「あぁ、そうだけど」

 上から目線の態度に内心イラッとしながらも、俺は生徒会の役員をみつめ、文化祭の企画について話をした。

「実は、お化け屋敷を有志団体でやろうと思ったのですが、申請って出来ますでしょうか?」

「あぁ、出来るよ。ちょっと待ってて」

 彼は俺ににこやかにほほ笑みかけると、そそくさと生徒会室に戻っていった。そして、中から一枚の紙を持って教室から出てきた。

「はい、これね。ここに有志団体の名前とメンバーのクラスと氏名を書いて提出してくれる?」

「はい、分かりました」

 俺は紙を受け取ると、もう一度生徒会役員の顔を見て、礼をしてから教室へ戻った。その去り際を見ていたあの生徒会役員が、俺が居なくなった後もぼーっと赤面しながらその場に立っていたというのは、まぁ、知らなかったことにする。

 教室では、花梨と鵺宵が一つの机に集まり論議をしていた。きっと昨日の続きの話だろう。俺はその二人がいる机に紙をバンと押し付け、名前を記入するように言った。

「リーダーなんて書くところがあるよ?これは清ちゃんでいいよね」

「あぁ、言いだしっぺだからな」

「じゃあこの団体名っていうのはどうするンだい?」

「適当に入れとけ」

「じゃあ、私が決めるね!んー……」

「鵺宵に任せたら変な名前になるからアタシが決めるよ」

 そう言うと花梨は団体名の欄に「無名」と書きこんだ。

「これも立派な名前だろう?」

「それもそうだな。じゃあこれを提出してくる」

 この紙を提出し、受理されれば俺たちは正式に企画を実行することが出来る。無駄にこそこそ隠れて準備したりする必要は無くなるし、こっちの方が断然楽だ。

 またさっきと同じように、生徒会室の前で立ち止まる。俺は一呼吸置いてから、生徒会室に入室した。

「失礼します」

 中に入ると、思い描いていた生徒会室とは違う風景がそこにあった。物置のように積み上げられたい色々な道具、適当に並べられた机。生徒会役員はその机の近くにある椅子に座り、何やら井戸端会議のような事をしていた。

 その中に先ほど見かけた役員が居たので、そっちの方を向き、無言で紙を差し出した。まぁ、さっき会ったばかりだし、用件は分かっているだろう。

「あ、さっきの……もうメンバーを書いてきたの?」

「はい。メンバーは皆、教室に集まっていたものですから」

 役員は紙を受け取り、名前を確認していく。すると、申し訳なさそうな顔をしてから俺に紙を戻してきた。

「ごめんね、企画団体の最低参加人数は4人なんだ。4人以上居ないと受理できないんだよ」

 そんなの言われた覚えはない。先ほどはただメンバーを書いて来いと言われただけだ。そういうことは先に言え、と思いつつ、仕方なく紙を受け取った。だが、ここで問題が生じた。一体誰を誘えばいいというのか。もう誘える人などいないというのに。

「そういえば、女子だけでお化け屋敷をやるのかい?」

「男子がやると色々問題があるので」

 適当に受け答えをしながら、解決策を模索した。何かいい案は……そう思っていたその時、生徒会室のドアがガラガラと開いた。開いたドアから現れたのは、なにやら見覚えのある男だった。だが、どこで会ったのかは分からない。

 その男子はこちらを見ると、はっきりと俺の名前を告げた。

「清谷?」

 その声は昨日バイトをしているときに聞いたあの声と同じ。驚いてもう一度彼を見てみると、やはり、俺のバイト先に客として来た男だった。

「何で俺の名前を知っているんだ?」

「何故って……同じ部活の人の名前ぐらい覚えなきゃいけないだろ?」

 急に始まった俺たちの会話に、役員一同が驚きながらそれを眺めている。まぁ、さっきまで敬語を使って女の子を演じていた俺が、急に普段の方に戻ったギャップに驚いているんだろう。もうこんなのなれっこだ。

「俺はお前を知らないぞ?」

「そりゃそうだ。臨時部員だからな」

「臨時部員?」

 そんなポジションのやつが居たのかと俺は驚いたが、そんなことはどうでもいい。今はメンバーを集めることが最優先だ。こいつは俺たちが驚かされたときに居なかった。……ということは、今回のこの企画に参加しても問題はなさそうだ。ならば誘うしかない。

「俺たちの企画に参加してくれないか?」

 考えは相手に伝わっている訳ではないので、相手からしたらかなり急な話だと思っただろう。だが、相手はすぐに返答した。

「あぁ、いいよ。俺は人を驚かすのが好きなんでね」

「じゃあこの名簿に記入を頼む」

 臨時部員と名乗る男はすらすらと紙に名前を書いた。……永田 英樹……。英樹というのか。英樹が名簿を書き終わると、俺は改めて彼の顔を見てお礼を言う。そして、役員に紙を提出した。

「いきなり誘って悪かったな。だが、快く承諾してくれたことに感謝している。ありがとう。企画の詳しいことについてや成り行きは後で話すから、放課後に学校の近くにあるコンビニで待っててくれ」

「分かった」

「では、この書類は職員の方に提出しておきますね」

 こうして4人という最低条件をクリアしたオカルト部女子と臨時部員は、文化祭の企画として正式にお化け屋敷をやることが決まった。

 俺は急いで教室へ戻り、花梨と鵺宵に現状を話す。そして英樹と同じように、放課後コンビニで待っているように指示した。なぜなら、放課後はあいつら三人も教室や学校内に残っている可能性があるからである。

「オッケー」

「了解した」

 二人が快く承諾してくれた為、俺は安心して次の授業に向かった。



――放課後。

 さて、呼び出した三人はちゃんとコンビニにいるだろうか。そんな不安を胸にしながら、俺は勢い良く学校を飛び出した。予想以上に三人を待たせてしまっているからだ。

 放課後は生徒会に、予算についてや教室の割り当てなどの説明を延々とされ、気づけばもう最終下校の時間近くになっていた。生徒会に訳を話し、続きは後日と言ったものの、三人がコンビニにいる可能性は極めて低かった。

 学校前にある坂を友人に借りた自転車で一気に下っていく。風が髪を吹上げ、顔や腕の辺りにあたっていくのがよくわかる。空気も冷え込み、とても寒い。だがそんなことを気にしている余裕はなかった。とにかく急がなければ!という思いが強かったのだ。

 坂下にあるコンビニについたのは、学校を飛び出してから数分後だった。かなりのスピードで坂を下ったのがよくわかるだろう。既に空にはわずかながら星が見え始めている。俺はコンビニの駐輪所に自転車を置いてから、店内に入った。

 店内はとても暖かく、今まで寒い思いをしてきた俺にとっては天国に近かった。カウンターのすぐ横には、おでんやホット系のものが陳列されている。おでんの匂いは店内に広がっており、その匂いにつられ買っていく者も少なくないようだった。

「清谷!」

 後ろから急に声をかけられ、慌てて振り返るとそこには、やれやれといった表情をした花梨が、腕を組んで立っていた。

「遅くなって悪かった。それが――」

「分かってるよ、生徒会に引き留められたンだろ?」

「う」

「鵺宵と英樹は帰ったよ。用事があるとかなンとかでサ」

「鵺宵と英樹も途中まで待っていたのか……申し訳ない。まぁ、二人には後日話すとしよう」

 居ないのは仕方ないが、だからといって話をしない訳にはいかない。もっとメンバーが居ればまた次回にというやり方でも間に合うが、途中参加の上人数が少ないとなると、当日に間に合わない可能性が出てくる。そこでとりあえず予算についてや、具体的にどんな内容にするのかを花梨と共に話し合うことにした。 

「ここじゃなんだから場所を移そう」

 そういって俺たちはファストフード店へと向かった。店内はそこそこ繁盛していたが、椅子はいくつか余っている。話をするならここ以外にないだろうと思い何品か注文してから、二人席に座る。そして向かい合い、話し合いを始めた。

「さて、具体的にどんなお化け屋敷にしようか」

「そうは言っても人数が人数だからねェ……」

 お化け役が三人しか居ないのは正直きつい。三人のお化けで出来ることといったら限られてしまうだろう。教室にもよるが、広い教室で、脅かされるのは三回……それじゃあ少なすぎる。もっとスリルあるお化け屋敷に仕上げたいものだ。

「じゃあまた勧誘してくるのかい?」

「でも公の場で勧誘していたらあいつらもやると言ってくるかもしれない。それは避けるべきだろ」

「確かにそうだねェ。じゃあ……」

 浮かばない。いいアイデアが。こういう時、あいつらならすぐにいい案を浮かべた事だろう……ハッ、何考えてるんだ俺は。

「……そういえば、結局アタシ達は何処の教室でこの企画を行うんだい?」

「あぁ、言ってなかったな。企画は理科室で行うことになった」

 理科室は、教室としては少し狭いが、今の状況からして一番合っている教室である。ホルマリン漬けや人体模型などがあるので、脅かすのが楽になるからだ。思えば、俺達はその理科室でまんまとあいつらの作戦に乗ってしまった。鵺宵が人体模型を気に入り明るい雰囲気を作った為に、場は少し和んだのだが、実際は怖くて仕方なかった。考えてもみろ。半分肉と化した人間が歩いて来たら……しかも、凄くゆっくりと、まるで余裕で捕まえられるとでも言っているようにだ。そんな人間を見たら、例えそれが人形だたとしても怖いだろう。

「理科室ねェ……」

 花梨も同じことを思い出したのか、はぁっと溜息をついた。しかし今は立場が逆転している。あいつらが使った教室でリベンジ出来るなんて、神様も粋な事をしてくれるじゃねぇか。

「あいつらも教室の構造や置いてあるものを知ってる筈だ。態々暗い中で体験してるしな。怖がらせるのは結構大変だと思うぜ」

「初めから難しいってわかってただろう?それに、難しい方が頑張り甲斐や達成感があるもんさ」

「それもそうだな」

 次々に浮かぶあの日の思い出。新たに思い出す度に、沸々と怒りが沸いてくる。あの日不覚にも恐れを表面に出してしまった事が苛立たしい。もし、あの不覚さえなければ、ただ単に面白がって相手を怖がらせる事が出来るのに。今の状況だと、普通に怖がらせるだけでは物足りない……。徹底的に怖がらせる為にも本題に入る必要があると思った俺は、話を持ち出した。

「それで、予算の話なんだけどよ……」

「どれ位出るンだい?それによっても色々変わるだろう?」

「有志の企画だから、クラスの方の企画予算よりも少ないそうだ。ただ、俺達に必要な物を考えると、その予算じゃ足りない。だって部屋を真っ暗にしないといけないからな」

「じゃあどうするンだい?」

「各自、自分で持ってるものは学校単位で買わずにいく」

「例えば?」

「まず、幽霊役に必要なメイク道具等。あれはお前や鵺宵が持ってるだろ?」

 花梨が頷く。それを確認した俺はまた話を続けた。

「それから、気味の悪い音楽や道具。音楽は、英樹に担当してもらう事にする。あいつは機械系に強そうだからな。道具の方は理科室にある物を使いつつ、新たに準備室や実験室から持ち込む」

「成程。それなら余りコストは掛からないねェ」

「幽霊役の服はリアル感を出すために自分達で用意する。鋏で切り刻めば雰囲気は出る。血糊も用意しとくといいな」

 俺は簡単にメモを取りながら話を進めていく。後で二人に説明するのが楽になるはずだ。

「なら、学校から出る資金は何に使うンだい?」

「主に、暗幕に使う予定だ。こればっかりは自分達で用意出来そうにないからな」

「暗幕で真っ暗にするんだねェ……なら、蝋燭の灯りをつけたら雰囲気が出るかもしれないねェ」

 話が盛り上がって来た所で、店内の時計を確認する。盛り上がっている時程、時間は直ぐに過ぎていくというものだ。

俺達が店に入ってから、もう二時間が経過している。

「………」

「どうしたンだい?」

「すまない、俺もう帰らなきゃいけねぇ…」

「あぁ、家庭の事情ってヤツだね。良いよ、帰ンな。鵺宵には電話で話をしておくよ。英樹は……メールかなんかで伝えておく」

「ありがとな、花梨。んじゃ、任せた」

 軽く笑って見せ、俺はその場を後にした。

 昨日帰りが遅かったから、今日は何がなんでも予定通りに帰らねばならない。俺はそのことを自覚していた。

 家に着き、時間を確認して安心する。良かった、部活が終わって帰る時間より少し早く着いている。

家に入り、母の顔を確認する。……どうやら、時間の事を気にしてはいないようだ。

「あら、おかえり。早かったのね」

「部活帰りに走って来たからな。ちょっと、宿題があったもんだから」

「そうなの……早めにやっておきなさいよ」

「分かった」

 自室へ行き、今日話した内容をまたメモに纏める。さっき纏めた紙は、花梨が二人へ伝えやすいように店に置いてきた。あれがあれば、明日には同じ情報を共有出来る筈だ。

 自分達で用意すべきもの、買わなければならない物を分けて考えてみる。大体は先ほど花梨に伝えた通りだが、まだ必要な物があるかもしれない。

 幽霊役に必要な物――。伝えていない物で必要な物は、ウィッグ、付け爪、マスク……、どれも何とか自力で準備出来そうだ。

 では逆に室内関係で必要な物は……音楽は良し、人体模型などの不気味な物も良し、暗幕は経費で買うとして、蝋燭も良し……後は人形くらいか?日本人形があったらますます不気味になるかもしれない。解剖セットも良いな。あれは……よし、実験室から借りるとしよう。それから、実験室からフラスコや試験管も借りて、蛍光塗料やドライアイスを入れて……。

 どうやら、暗幕以外で買う物は無いようだ。ならば、経費がまだ余るかもしれない。余った経費で何を買おうか……いや、買うべきか。それはまた後日相談するとしよう。


 理科室に置いてある棚や机もどうにか移動させたり、棚の中身を変えたりしたい。あの理科室の原型を無くした方が、相手も焦る筈だ。……だが…あの机は動きそうにない。仕方ないから椅子だけを移動させる方向にしよう。何か上から吊り下げるのも良いな。急に落ちてくるタイプだとすると、無人で相手を怖がらせる事が可能だ。

 無人と言えば、あの時に使っていた動く人形……あれも利用出来そうだな。どうにかして喋るように出来れば、元の物とは違うと判断される筈。

 それから、音楽も……ただ流れるだけでは無く、特殊な音もいれたい。一滴一滴したたり落ちる水音、うめき声、女性の笑い声……それも、反響するようにしたい。微かに聞こえるくらいが丁度良いな。

 先ほど何も浮かんで来なかったのが嘘のように次々に浮かんでくるアイデア。俺はそれを一心不乱に書き上げていく。何枚も何枚もの紙を黒く染めながら、また新たなアイデアを考える。あれも良い、これも良いと……。

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