プロローグ
「あーっちーなぁー」
学校からの帰り道、8月のうだるような暑さについつい愚痴が漏れてしまう。
正直街中で独り言を言う程変人ではないと思うし、それを変人だと思う位の分別もあると思うし、誰かに聞かせる為のものでも無かったわけなんだけれども、この暑さはそれを吹っ飛ばす位には……。
「あづい……」
会社帰りかスーツ着たオッサンも、普段はピシッと締めてるだろうネクタイを緩めて、第一ボタンを外してシャツの中に風を送り込んでいる。
近くの公園じゃ、幼稚園にはいる前位の小さな子供が、全裸で噴水に飛び込んではしゃいでいる。
……正直とても気持ち良さそうで……アレができたらきっと……。
……あ、いや、お母さん。
そんな変態を見るような目でこっちを見ないで。
別にそんなやましい気持ちなんてこれっぽっちも無くてですね。
むしろそんなちっこい子供よりも……もうちょっと大きな子の方が好みでですね……。
公園にいた母親らしき人からの冷たい視線を受けて、少しだけ言い訳してみたものの、その視線の鋭さに負けて目を逸らす。
くそう……そんな目でこっちを見てくる位なら、そもそもそんな格好で遊ばせるなと……。
小一時間程文句を言いたかったがグッと堪える。
最近はもんすたーぺあれんつとか言う得体の知れないモノがいると聞くし、ここでキれて最近の若いのは……と、他人事のように語るジジイの話のネタにもなりたくない。
まったく……あった事もない人間のおかげで、善良な一市民たるこの俺が睨まれなきゃいけないなんて……世知辛い世の中だ……。
まだ睨んでくる母親の視線を無視して、また正面へ……と、戻そうとする時、視界の端に一人の女の子の姿が。
あれ?確か、先週お向かいに引っ越してきた……名前ど忘れしたなぁ。
思い出そうと頭の中をひっくり返してみるが、どうにも出てこない。
うーん……と頭を傾げていると、その子がしゃがむのが見えた。
あれ、具合でも悪いのかな?
少し心配になって見ていると、どうも様子が違うみたいで……茂みの中になにかいる?
よく見てみると、どうも彼女のそばの茂みにいる何かを手招きしているみたいで……。
あ……何か出てって、ネコ?
茂みの中から出てきたのは、真っ黒な黒猫。少し薄暗い中にでもいたら見つけられなくなりそうなその体色。
よく茂みの中にいたのがわかったなぁ。
感心して見ていると、何か話しかけた後、その猫の頭を撫でている。
ちょっとうっとおしそうに目を細め、しかしされるがままに……あれ、目が合った?
ぼんやり見ていた俺の方を、確かに黒猫の金色に輝く目が捉えた。
何かよくわからない威圧感を感じて冷や汗が。
ってか、金色の眼ってだいぶ珍しくないか?
黒猫はじっとこちらを見つつ、されるがままになっている。
し、視線をそらせない……。
吸いつけられたように目が離れず、見つめあったままの猫と俺。
と、どうもその視線に気がついたのか、女の子がこちらを向いて、あ、俺の事に気がついたのか手をふってきた。
なんとなくてをふりかえしつつ……しかし視線は外せぬまま。
っていうか、俺の顔、なんかついてますか?
変な物でもついてないか不安になっていると、どうもあの子はテンションが上がったのか猫を抱えて……って、車道に飛び出した!?
パパアアアァァァァァァン!!
鳴り響くクラクション。
気がついた時には体が動いていて。
確か、女の子と猫を突き飛ばした感触はあった。
意外と痛みとかも無くって、最後に見た景色は、ぐらぐら揺れながら白く染まっていく視界の中で、泣きながら俺に声をかけてくる女の子と黒猫の姿。
『すまない』
真っ白く染まりきった中で、やけに鮮明にその声だけが聞こえた。
これはふぃくしょんです。
あくまで作者の脳内で作られた願望丸出しの作品です。
現実との関与は一切ありませんですにゃ。