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真実


加良からちゃん、話って…?」

とても緊張したみやこの声に加良は笑みを深めた。

ここは加良の家の近くにある、静かな公園。まつりにはお願いして先に帰ってもらっていた。

「座りません?」

近くのベンチにそう言いながら腰を下ろす。加良にはどうしても京に確認しなければならない事があった。

それは初め、小さな棘のように加良の胸に刺さっていた。その小さな棘が、早くも大きな物になり、そうして今日ある意味確信を得た気がしたのだ。しかし、それが本当に確信なのかはっきりさせなければならない。だから、祀には席を外してもらったのだった。

京は加良の言葉に、恐る恐るといった感じでベンチに腰を下ろす。

それを見届けた加良は口を開いた。

「京くん。私はあなたと本当にお友達になりたいの。だから敢えて聞くわ。京くんも嘘は吐かないでね?」

前置きに京が小さく頷く。加良は深呼吸をし、一気に言った。

「京くん、私の事が好きって言うのは嘘よね?…あなたの好きな人は祀くんでしょ?」

一瞬、外気の音が一切遮断された気がした。京の耳には、加良の声以外は音として届いていない。

ゆっくりと息を吸い、京は声を発した。

「や、だな~、加良ちゃん、冗談きついよ。そんなわけ」

「嘘は無しって言ったわよ」

誤魔化そうとする京の言葉を、加良の鋭い声が遮断する。

ジッとお互いを見詰めた後、先に視線を逸らしたのは京だった。ハハっと小さく笑い、そうして諦めたかのように、こうべを垂れる。

「なんで…わかった?」

小さな京の声がした。

加良は優雅に微笑むと、京に視線を向ける。

「私の事を好きと言ってたけれど、京くんの視線の先には祀くんしか居なかったわ。初めは何かが可笑しいと思ったけれど、その視線に気付いたら全てが何となく解ったような気がしたの」

京の顔が苦笑に変わった。

「気持ち…悪いよな、男を好きになるなんて」

その言葉に加良は目を吊り上げた。

「私の事をそんな狭量だと思っているの?…気持ち悪いだなんて思っていないわ。人が人を好きになるのに性別なんて関係ないわよ。だから京くんもそんな事言わないで下さる?」

加良の強い言葉に京は頭を垂れる。その姿に加良はくすくすと笑った。

「…初めて王子の姿を見た時、とても輝いて見えたんだ。俺には無い輝き…。最初はこんなに綺麗な男もいるもんなんだな、とか思ってたんだけどさ、何時の間にか目でその姿を追うようになってた。その隣には何時も日本人形みたいな綺麗な女の子がいてさ、その子が王子の彼女なんだと思った」

京の告白に、加良は首を傾げる。

「それって、もしかして私の事?」

そう、と小さな京の肯定に加良は苦笑を浮かべた。

周りの人間に、自分と祀がどのように映っているかは何となく解っていたけれど、このように言葉にされると困ってしまう。

「その時初めて自分が王子の事好きなんだと自覚したんだよ」

今度は加良が小さく、そう、と答える番。京の告白を促すと、自嘲気味な笑いが聞こえた。

「まさか自分が男を好きになるなんて思ってもみなくて、何かの間違いだって思いたくて言い寄って来る女と付き合ってもみたんだ。でも駄目だった…。忘れる事なんて出来なくって、学校で何時も王子と加良ちゃんの姿を追ってたよ」

私も入っているの?とちゃめっけたっぷりの加良に京は頷く。

「どうしても2人に近づきたくて、加良ちゃんに告白したんだ…。酷い嘘を吐いてごめん…」

京の告白と謝罪を聞いて、加良はまたしても優雅に笑った。

「気にしていないわ。どんな理由であれ、今私はあなたとお友達になれて嬉しく思っているの。だから、もう謝らないで?」

加良の言葉に、京の鋭い眼光から雫が垂れた。

「…加良ちゃんにはまいったよ…」

そんな言葉でその涙を隠す。全ての告白を聞き終えた加良には、もう1つ、京に言おうと決めていた事があった。再び深呼吸をし、京を見詰める。

「京くん」

口調が変わったのが解った京は、涙を拭い加良に視線を向けた。

「はい?」

返事に、一拍の呼吸を置く。

「…祀くんに想いを伝える気はないのかしら?」

京の動きが止まる。瞬きすら忘れてしまったかの様に加良を見詰めていた。

「どうなるかは私にもわからないけれど、そこまで想い詰めているのなら、いっその事気持ちを伝えてみたらいかが?…もし駄目でも、私は京くんとずっとお友達よ?きっと祀くんだってそうだわ」

カラッと笑った加良に、京は再び頭を抱え、

「本当に…加良ちゃんにはまいったよ…」

と先程と同じ言葉を吐いたのだった。



確信を得た後、京は変わった。

以前は何気ない優しさを祀に見せていたが、今はよりリアルになっている。そんな京を加良は優しい気持ちで見守っていた。

しかし1つ気になる事がある。

それは、祀だった。

より3人で居る事が多くなり、何故だか祀の元気がないように感じる。何気ない瞬間に、小さく溜息を吐くようになっていたのだ。

それは、決まって京が加良に対しふざけている時に感じる違和感。

可笑しい、と思った加良は京が居ない時に言葉にしてみた。

「どうされたの?祀くん」

加良の言葉に一瞬ぽかんとした祀は、困惑気に加良の顔を見る。

「え?…何が?」

祀の返事はごく当然のもので、加良は苦笑を浮かべた。

「…最近、なんだか溜息が多いわ。何か悩みがあるなら、親友の私に話してみません?」

自分の溜息を、まさか気づかれているとは思っていなかったのか、祀はとても驚いた顔をした。

「…溜息?…していたかな、僕」

歯切れの悪い物言いに、加良の方が戸惑う。

“王子”と呼ばれている祀は、その外見からとても大人しい、物静かな人物と思われがちだが実はとても気性がハッキリしており、物事を濁す事は無いのだ。だから以前加良が女の子に絡まれた時、京の胸倉を掴むような事をしたのだ。このように歯切れが悪い物言いをする筈がなかった。

なのに今はこの物言い。絶対に可笑しい、と加良は思った。

「ええ、していたわ。今の祀くん、なんだか可笑しいわ?祀くんじゃないみたい」

眉間に皺を寄せながら加良は一気に言切る。祀の視線がフと下がった。

「…加良ちゃんには隠し事なんて出来ないね…」

悲しそうな笑顔。

今にも消えてしまいそうな儚いその笑顔を見て、加良は息を飲んだ。

「そんなに深刻な事?」

自分こそが儚い表情をしているとも気付かずに、加良は小首を傾げる。

祀の白い顔が困惑に歪んだ。

「…深刻、と言えばそうかな。…自分でも戸惑っているんだよ、加良ちゃん」

心底戸惑っています、と言う様な顔をされる。

「それは、私にも話せない事なのかしら?」

真剣な眼差しの加良に、祀は小さく笑った。

「…僕の事、軽蔑しないって誓ってくれるかい?」

軽蔑、される様な事なのだろうか。加良は頭の中で色々と考えたが答えが見つかる訳もない。1つ息を吐き、祀を見返した。

「勿論、誓えるわ。例え祀くんが人を傷付けるような事をしても、私は、私だけは味方だわ」

胸を張って言う加良に祀は心底からの笑顔を加良に向ける。息を飲む口を開け何かを言おうとした時だった。

「王子~、加良ちゃん!!」

元気な声が後方からする。京の良く通るバリトンだ。

加良は困ったように眉をハの字に下げる。祀も同様な表情をし、そうして吹き出すように笑った。

「加良ちゃん。今日家に行っても良い?」

笑いながらの言葉に、加良も笑いながら頷く。近くまで来ていた京は、そんな2人を見、不思議そうな顔をするのであった。



「どうぞ」

と言う加良の言葉と同時に部屋の扉が開かれる。2間続きになっている大きな部屋が加良の部屋だった。

モノトーンで綺麗に統一された1間は勉強机にPCデスク。そうして大きな本棚が壁に備え付けられている。そこにはびっしりと色々な本が、やっぱり綺麗に収納されていた。

続きのもう1間が寝室になっていて、記憶の中では、大きなベッドが備え付けられていたはずだ。

ふかふかのソファーに腰を下ろした祀に加良は温かい飲み物を差し出してくれる。

祀はそれを受け取り、加良が腰を下ろすのを待った。

「この部屋に祀くんを招いたのは久しぶりよね?」

優雅に微笑みながら加良は祀の横に腰を下ろす。祀は小さく頷いた。

「さて…、お話の続きをしましょう?祀くん、何があったの?」

瞬間的に真剣な表情をし、加良がきりだす。祀は小さく息を吸い、加良を見た。

「うん、加良ちゃん…」

その声が震えているように感じられ加良は、近くにあった祀のすべすべとした手を握った。

励ますようなその感触に、祀は微かに笑みを浮かべ意を決したように口を開いた。

「僕…可笑しくなっちゃったのかな…?」

意を決したはずの声は、しかし微かに震えてしまう。加良は握っている手に更に力を込めた。

「どうゆう、こと?」

慎重に言葉を選びながら確認する。

「僕…京の事みているのが苦しいんだ…」

搾り出すような声に、しかし加良は一瞬止まりそうして全てを悟った。

笑い出しそうになるのを必死に堪えながら、次の言葉を促す。

「どういう事?漠然すぎて解らないわ」

そう言うと、祀は少し困った顔をした。

「うん。…僕は心が狭いのかな…?」

泣き笑いのような事を言いながら、核心をはぐらかそうとする。加良は小さく溜息を吐いた。

「祀くん?らしくないわ。…はっきり言って」

少し棘を含ませた加良の声に、祀は困惑する。ちらりと加良を見、そうして1つ呼吸を吐いた。

「京が加良ちゃんの事を好きなのは初めから解ってるのに、3人で一緒に居る時京が加良ちゃんと笑っていたり、加良ちゃんに優しくしているのを見ると、ここが苦しくなるんだ」

ここ、と己の胸を押さえながら、吐き出すように言う。自分の考えは間違っていなかったと加良は思いながら、少し意地悪な質問をしてみた。

「祀くんは私の事が気になるの?私の事が好きなの?」

祀の動きが止まる。30秒程そのまま固まった後、ゆっくりと加良の方へ顔を向けた。

その顔はとても困った様な、傷ついている様な、なんとも言えない複雑なものだった。

今度は加良が複雑な顔をする番。

「違うわよね?私の事が好きなのではなくて、祀くんは京くんの事が好きなのよね?だから私とじゃれ合っていると、“そこ”が苦しくなるんだわ」

祀の胸を指しながら、ゆっくりと言い聞かすように言うと、祀の瞳からは大粒の涙が溢れた。加良の溜息が聞こえる。

「祀くん。自分の気持ちは解っているはずよ?目を逸らすなんて間違っているわ」

はっきりと言うと祀は項垂れるように頭を落とした。

「祀くん、そうでしょう?…自分の気持ちをはっきりと口になさい。私はどんな時でもあなたの味方なのよ?」

小刻みに震えている祀の肩に手を置き、諭すように伝えると祀の細い身体が加良を包んだ。

どんなに線が細くとも、祀は男の子で加良は隠れてしまう。

ぽんぽん、とあやす様に背中を叩くと、消えてしまいそうな小さな声が聞こえた。

「…京の事が好きなんだ。僕、どうしたらいいの…?加良ちゃん」

切羽詰まったその声に、知らず知らずのうちに加良の瞳にも涙が浮かぶ。

「大丈夫よ、祀くん。心配ないわ…」

全てを知っている加良は、祀を抱き締めながら言ったのだった。





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