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出会い


そこは、小、中、高一貫教育を行っている学園だった。

周りは緑に囲まれ、広々とした敷地が売りである。生徒も何処其処の子息、令嬢が多く在籍している、言わば金持ち学園であった。

桜小路さくらこうじ 加良から絢世あやせ まつりは小等部からの友人である。美男美女の2人は、学園の中でも一際目立つ存在であった。

もともと、桜小路家と絢世家は旧知の仲で、加良と祀は幼馴染でもあった。

「今日も美しいわね、あのお2人…」

登園してくる2人はあちこちからかかる挨拶に笑顔で応える。

「ごきげんよう」

「ごきげんよう」

姿もさまになっている2人は、実はお付き合いしているのでは?との噂の的でもあった。

何をするにも2人一緒であったから、そんな噂が流れたのかもしれないが、加良と祀は否定も肯定もしなかった。

そんなお金持ち学園にも、高等部からは“外部組”というのが存在する。

所謂、エスカレーターで上がって来た加良や祀のようではなく、ちゃんと受験をし合格した者たちである。

その中に、一際人目を引く存在があった。

「祀くん、知っている?」

加良の言葉に祀は小首を傾げる。

「何を?」

祀の返事に、加良は花の様な笑顔を湛えた。

「“外部組”の中に凄く“イケメン”…と言ったかしら?…凄くカッコいい方がいらっしゃるみたいですよ。皆様が噂していましたの」

口元を隠しながらの言葉に祀は困ったように笑う。

「加良ちゃん、興味あるの?」

祀の言葉に加良は一瞬考え、

「どうかしら。…全く興味が無い、と言ったら嘘になるわ」

小悪魔のように小首を傾げるその姿に、たまたま通りかかった男子は人知れず赤面していた。

「じゃあ、僕が見てきてあげるよ」

祀は苦笑を浮べそう応えたのだった。



色々な人に噂の真意を確認していた祀は、ある人物へと辿りついていた。

その人は、加良と祀の隣のクラスに居たのだ。

(灯台下暗し…だね)

1人でそんな事を想いながら、祀はある休み時間加良を連れ、隣のクラスを覗いた。

「加良ちゃん、あの人だよ?噂の彼は…」

祀の言葉に視線を馳せると、其処には物凄く長身な人物が立っていた。

ほりが深く日本人離れした顔には一重の鋭い瞳がある。その下には高い鼻梁があり、更に下に行くと、肉厚な色気のある唇があった。成る程、と思う色男である。

自分たちと同じように彼を見に上級生達までも姿を見せていて、加良と祀は苦笑を浮かべた。

「…祀くん、ありがとう。もう行きましょう」

祀の袖を引っ張ると、加良は歩き出した。すたすたとその場を後にする。そうして中庭にあるベンチに腰を降ろすと、とたんにくすくすと笑い出した。

「どうしたの?加良ちゃん」

戸惑いを含んだ祀の言葉に加良は更に笑みを深めた。

「なんだか、凄く面白かったわ。それに、彼は確かに“好い男”だったかもしれないけれど、私の趣味ではないわね。…祀くんの方が“良い男”よ?」

茶目っ気たっぷりの言葉に、今度は祀が笑い出す番だった。



「あなたが桜小路 加良さん?」

ある日の昼食時。

いつものように、校舎裏の木々が生い茂っている場所で祀と食事を摂っていると、突然に声を掛けられた。驚きの余りむせ込みそうになり、なんとか堪えながら涙目を声の主に向ける。そこには、さきの人物が立っていた。

大きな身体は、2人に影を作る。

「桜小路さん?」

もう1度呼ばれて、急いで食べ物を飲み込み加良は応えた。

「そうですが…何かご用?」

返事に男は色気を放ちながら微笑む。

「俺、“外部組”の 石和いさわ みやこっていいます」

“外部組”を強調しながらの言葉に、しかし加良は別の事を思っていた。

浅黒い肌の襟元が微妙にはだけ、赤い痕が見える。

(あれは何かしら?)

痣のようにも見え、加良は素直に口にしてみた。

「お怪我をなさっているの?」

京は一瞬真顔になり、そうして加良の視線の先を追う。自分の胸元にその視線がある事に気付き、くつくつと喉で笑った。

何が可笑しいのかわからなくて小首を傾げる。祀が明らかに怒気を含み立ち上がろうとした時、祀を目の端に留めながら笑みを引っ込め、加良の耳元に唇を寄せた。

「お嬢様、これは怪我ではなくて“キスマーク”と言うものですよ」

スッと唇が離れていく。

加良はしばしフリーズし、言葉が脳に届いた時、その顔を赤に染めた。

京はそんな反応を楽しむかのように笑っている。加良が怒りを表す前に、祀がその胸倉を掴んでいた。祀のそんな荒っぽい姿をあまり見た事が無かった加良はぽかんとしてしまう。2人を交互にみ、急いで間に入った。

「ちょ、ちょっと祀くんやめて!」

加良の言葉に、しかし祀の目は怒りを静めていない。そんな祀を目の前にしているはずなのに、京は楽しげな顔を変えなかった。

「王子さま気取り?」

笑みを含んだ言葉に、怒気がぶわっと膨れるのが解った。いよいよ、まずい。

「…“おぼっちゃま”に人が殴れるのかよ」

笑みを引っ込め挑発的な言葉に、祀の拳が宙を舞った。

ぱん!!

と大きな音が響く。祀と京の驚いた顔が加良を捉えていた。

「私の親友を馬鹿にしないで!!」

振り切った手をそのままに、加良は力一杯京を睨みつける。自分の思わぬ行動に驚きながらも、何故だかすっきりとした気分だった。

一瞬の間の後、京が相好を崩す。少なからず痛みを伴っているはずの頬を、しかし気にせずに笑う。その笑いが段々と大きな物に変わっていき、とうとうその場にしゃがみ込んでしまった。

加良は祀に目を馳せる。祀も加良を見、そうして首を傾げた。

「はぁ~…。腹いてぇ~、あんた俺を殺す気か?」

目に涙を貯めながら、視線を送ってくる。しかし、そんなつもりは毛頭無い加良は困惑で眉間に皺を寄せた。

京が立ち上がる。

「ただのお嬢様じゃないな、ますます気にいったよ、桜小路さん。“加良ちゃん”って呼んで良い?」

笑みをなんとか引っ込めながら京は言うけれど、加良は迷惑そうな顔をした。

「加良ちゃん、俺とお付き合いしてくれない?あんたの事大分気にいったんだよね」

破顔しながら近づいて来た京に、加良はもう1度その小さな手を振り上げたのだった。





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