伊達男
夜のドライブにはロックミュージックが似合う。
夜の街を駆け抜けるマイカー。街明かりが疲れた心を癒してくれる。こんな夜なら孤独も悪くはない。
若いころ映画好きの友人がいた。彼とはよくレイトショーに出かけた。アクション映画を観たあとなどは、特に二人とも帰りの車中で話に夢中になったものだ。赤信号が青になる。ウオン!ウオオン!アクセルを踏む、勢いよくマイカーが発進したはずだった。ビーン、ビーーン、軽自動車から発せられた実際のエキゾーストノートは蚊の鳴くような音。「なんかショボいな」、「ああ、ショボかった」。アクション映画の魔法から覚めた瞬間であった。
カーオーディオから流れるのは聞き古された曲だ。思春期にCDで買った曲。は、今でもカラオケで歌う。
二十歳前後。ロックミュージック好きの友人の影響で洋楽を聞き始めた。耳馴染みのない音に最初は戸惑ったが、慣れてくるとカッコよく思えてきた。「ロックの名盤」と呼ばれるものをよくレンタル店へ行って借りてきたものだ。図書館通いと似ていて「レンタル」そのものに楽しみを覚えた。いくつかの現行のロックミュージシャンも好きになり、ますますのめり込んでいった。
収入を得るようになり、安物のオーディオセットを買いそろえた。ロックミュージックに耳を傾けながら、キャンプチェアに腰かけ、ウイスキーのグラスを傾ける。これほどの幸福があるだろうか。素晴らしい夜。これこそが豊かな人生というものである。
「素晴らしい夜」を何度か過ごすうち気づいてしまった。かなりの確率でそのまま眠ってしまうことに。本当に素晴らしい音楽を聴いているなら眠ってしまうことはないし、ウイスキーを飲めるほど酒に強くないことも次第に分かってきた。「ロックミュージック幻想」ともいえるものから目を覚ますのに、十年か十五年かかったわけだ。
マイカー(軽自動車)が夜の街を走っていく。若さと共に友人は減っていき今は独り。気楽なものだ。
私はカッコよさを求めていたのだと思う。男ならそうだろう。しかし、こんな具合だからそれが何なのか分かってないし、手に出来てもいない。今ではもうあまり求めていない。若さが無くなっても少しは良いことがあるものだ。
マクドナルドのドライブスルーでハッピーセットを注文する。マクドナルドなぞ月見バーガーの時期しか行かない。「マクドナルド食べながらお酒飲んでもいいんですか!?」私の信望するアイドルがラジオで言った。これはもう試してみるしかない。そう思い立ち、夜のドライブに出かけ、ハッピーセットを手に入れたわけだ。試した結果そう悪くはなかった。良かったといってもいいくらい。次の日に胸やけしたことを除けば。ちょうど酒を飲みながらスナック菓子を一袋食べた、次の日の状態である。恐らく野菜ジュースを事前に飲めば胸やけは防げるだろう。
「月見バーガー食べなきゃ!」これも信望するアイドルが毎年ラジオで言うセリフである。
夜のドライブから帰ってきた。アパートの階段を上がる。中ほどで、威厳のある面影に出くわした。一匹のカエルが佇んでいたのだ。カエル氏は足元灯に照らされ、小さな顔に深い陰影が刻まれていた。光に向かってグイと顔を上げる様がすごくカッコ良い。ダンディズムさえ感じる。これが私が手に出来なかったものなのだ・・・
カエル氏を避けるように階段の橋を上っていく。氏は威厳を保ったままピクリとも動かない。二階に上がって、どこかの部屋から漏れ出るシャンプーの香りを嗅いで、それから氏の成功を願った。灯りに集まってきた獲物を捕まえられますように、と。




