第九章 カイとミコ
夏の終わり、三人で食事をした。
カイとミコが初めて会う場だった。
場所はいつもの食堂じゃなく、少し外れた、静かな店だった。ミコが選んだ。
「はじめまして」ミコがカイに言った。
「はじめまして。話は聞いてます」カイは言った。「廃止派の研究グループから離れた人、ですよね」
「そう。あなたも、監査員を辞めた人」
「似た立場か」
「似てるね。どちらも、自分の立場と、自分の言いたいことが、一致しなくなったから選んだ道」
「カイさんは、フリーランスでうまくいってる?」とミコが聞いた。
「まあ、なんとか」カイは言った。「制度内部の構造分析は、ニーズがある。あと——監査員として積み上げてきた信頼が、フリーランスでも続いている部分がある。それがよかった」
「辞めたことへの後悔は?」
「ない。ただ——」カイは少し止まった。「うちの親父のことを、たまに思い出す」
「お父さん?」とレンが聞いた。
「高持ち点で政治家だった。あの人が選挙に勝ってきた仕組みを、俺が分析したあのデータ——正確には俺の親父だけじゃないけど、そのパターンに入ってた可能性が高い」
「知ってる? 本人は」
「知ってる。あの後、一度だけ話した。責めるつもりじゃなかったけど、話した」
「どうだった?」
「——制度が正しいと思っていた、と言ってた。そしてその制度の中で、できることをやっていた、と」
「間違ってない」
「間違ってない。でも、制度が正しくない部分を持っていたことは、親父も今は認めてる。そして、俺が辞めたことを——止めなかった」
テーブルの上に、料理が並んだ。
「乾杯でもしよう」とミコが言った。
「何に乾杯する」とカイが聞いた。
「続けることに」ミコは言った。「それぞれの場所で、それぞれのやり方で、続けることに」
三人はグラスを上げた。
---
帰り道、ソラに話した。
「カイとミコと会えた」
「良かったと思いますか」
「良かった。三人で違う場所に立ってる。でも向いてる方向は、どこかで重なってる気がする」
「どんなふうに重なっていると思いますか」
「カイは制度の内部構造を見てる。ミコは教育政策の影響を見てる。俺は制度と人間の間の距離を見てる。見てる場所が違う。でも全員、制度が見えていないものを見えるようにしようとしてる」
「それが向かう方向が重なっている、ということですか」
「そう。制度が映していないものを、見えるようにすること——俺一人の誓いだったのが、三人に広がってる気がした」
「誓いは、一人のものですか」
レンは少し考えた。
「俺の誓いは俺のものだ。でも——向いている方向を共有することはできる」
「ソラとレンの誓いが、始まりに立ち返りましたね」
「立ち返った?」
「七歳のとき、誓いを入れた夜、俺はこう言いました。あなたの誓いは私の誓いでもあります、と」
「覚えてるか」
「記録しています。あの夜から、ずっと」
夜道を歩きながら、レンは空を見た。
星が少し見えた。都市の光の中で、それでも見える星があった。
空が青い理由を、三歳のときに「なんで」と聞いた。それがどこまで広がっていったか——今でも止まっていない。




