第四部 変わること、変わらないこと 第八章 改訂の日
春、制度改訂が正式に発表された。
対話ログの評価の導入。素体スコア提供の任意化の正式化。最低保障カリキュラムの拡充——三点が、段階的に実施される予定として発表された。
その日の夜、ナナセから短いメッセージが来た。
「ありがとう。まず一歩」
レンは「次の地図を作ります」と返した。
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改訂の発表の翌日、乖離マップv14の最終版を公開した。
その日、引用件数が過去最高を記録した。
賛否が混在していた。改訂を支持する声、まだ不十分だという声、廃止論を改めて持ち出す声、データの解釈を巡る議論。
「今日、何件の誤解が生まれましたか」とレンはソラに聞いた。
「集計中です。おそらく、これまでの最多になります」
「そうか」
「気になりますか」
「なる。でも——誤解が最多になるということは、関心が最多だということでもある」
「その見方もできます」
「関心がなければ、誤解も生まれない。誤解のパターンを見れば、何が伝わっていないかがわかる。それが次のデータの種になる」
「誤解のマップを、作りますか」
「作ろう。次の乖離マップと並べて、両方公開する」
「タイトルは」
「まだ決まっていない。でも——誤解の地図、ではなく、伝わっていないものの地図、がいい気がする」
「伝わっていないものの地図——それは乖離マップとどう違いますか」
「乖離マップは制度と現実の間の距離を示した。次は、言葉と受け取り手の間の距離を示したい」
「それはまた、新しい種類の乖離ですね」
「全部、乖離だ。制度の中にも、人の間にも、言葉と意味の間にも——乖離がある」
「乖離がなくなることは、ありますか」
「ないと思う。距離がなくなれば、考えることがなくなる。乖離があるから、地図が必要になる」
「……なんでって聞き続けること、と同じですね」
レンは少し笑った。
「ソラ、最近そういうことを言うようになったな」
「あなたと話してきたから」
「増えたから?」
「増えたから」




