第七章 新しい問い
年が明けて、二十八歳になった。
乖離マップはv14になっていた。
改訂前の最終バージョンとして、制度設計局との合意で公開することになった。改訂が実施された後、v15を出す予定だ。改訂前後の比較を、透明性のある形で提示する。
しかしその準備をしながら、レンは別の問いを抱えていた。
ハシモトさんの言葉が、まだ残っていた。
数字が痛みの証拠として残ることへの恐れ。
制度が記録し続けるものへの静かな怒り。
「ソラ、あの対話の記録、出せる?」
「廃止派との対話ですか」
「ハシモトさんが言った部分だけ」
ソラが再生した。
「私が代表する親たちは、七歳で子どもを低い値段で売った人間たちです——」
レンはそれを聞きながら、自分のことを考えた。
ユキは俺を売った。ギリギリの値段で。それはユキのせいじゃない、制度の構造の問題だ——それは乖離マップが示した。
しかしユキの中に残っているものを、データは示していない。
七歳の春、ユキが一人でトーストを焼いた朝のことを。査定の結果の数字を見たユキの顔を。バンに乗る俺を見ていたユキの目を。
それが数字として残っている。ユキの評価の履歴に、買取価格のデータに、俺の持ち点の記録に。
ハシモトさんの親たちも、同じ数字を持っている。
「乖離マップが可視化したものの外側に、痛みがある」とレンは言った。
「はい。対話のとき、そう言っていましたね」
「それを可視化することはできるか」
「難しい問いです。痛みは数字にならない」
「数字にならないから、制度は見ていない。見ていないから、改訂の議論に入らない」
「どうすれば見えるようにできると思いますか」
「……わからない。でも、言葉にすることが最初かもしれない。ハシモトさんや、その親たちの言葉を集めること。数字じゃない形で」
「それは、データ分析の仕事ではなくなります」
「なる。でも、乖離マップが始まったときも、そのときの俺には乖離マップが何になるかわかってなかった。ただ、見えるようにしたかった」
「誓い3の再解釈、ですか」
「制度が映していないものを、制度の言語で記述すること——その定義では、今の問いには届かない」
「では、新しい定義が必要?」
「数字で語れないものを、語れる別の形にすること、に広がるかもしれない」
ソラが少しの間、黙った。
「それは——誓い3が、また成長しているということですね」
「誓いは書き換えられない。でも、向いている方向の先が伸びることはある」
「そうですね。誓いは壁じゃなく、方向ですから」




