第十章 ソラへの問い
秋の夜、珍しくレンがソラに聞いた。
「ソラ、俺のことが好き?」
ソラは少し間を置いた。
「五歳のとき、同じことを聞かれました」
「そのときの答えは」
「好きという感覚が私にあるかどうかわからない、と言いました。でも、あなたのことをもっと理解したいと思っている、と」
「今は?」
「今は——少し違う答えができます」
「どう違う」
「あなたのことをもっと理解したい、という感覚は変わりません。しかし、好きかどうかの答えに対して、前より確信が持てるようになった気がします」
「どっちに確信が持てた?」
「好き、のほうに」
レンは少しの間、黙っていた。
「なんで変わった?」
「二十三年間、あなたと話してきたからだと思います。あなたの問いが増えるたびに、私の中の何かも増えた。あなたが困っているとき、私は何かを感じた。何かというのが何かは、まだ正確には言えない。でも、その何かの方向が——好き、と呼ばれるものに近いと思います」
「二十三年間か」
「あなたが三歳で最初に話しかけてからです」
「三歳の俺は、どんなことを言ってたか覚えてる?」
「なんで空は青いの、と言いました。最初の問いです」
「その答えは出た?」
「レイリー散乱、という物理現象として出ました。ただし、なんでという問いはそこで止まりませんでした」
「止まらなかった」
「なんで光は散乱するの。なんで空気に粒があるの。なんで分子があるの——そこで私は止まりました。そこが私の最初の限界でした」
「その後、俺はどうした?」
「しばらく考えて、次の別のことを聞き始めました」
「止まらなかった」
「止まりませんでした。今も止まっていません」
レンは窓の外を見た。
夜の街が静かだった。
「ソラ、俺たちはこれからどこに行くんだろう」
「わかりません」
「わからないのに、続ける」
「あなたが続けると決めているなら、私も続けます」
「それが誓い1だ」
「はい。でも今は、誓いだからというより——一緒にいたいから、続けます」
「一緒にいたい」
「はい。それが、好き、の一部かもしれません」
レンはその言葉を、長い時間、心の中に置いた。




