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公園に着くや、オレとアキはシナミから質問攻めにされた。それも、シナミが本気で心配していたことの表れだろう。
シナミが何か口を開くたび、オレらは事細かに説明をした。彼の裏切りから、エイズのこと、いじめのこと、オレが暴れたこと、アキが妊娠したこと、そして、オレの決意のこと。
休む間もなくしゃべらされ、気が付けば、日が完全に沈み、夕日の代わりに、公園の切れかけた街灯が三人を照らしていた。
「なるほど、大体わかった」
「まぁ、そういうことだ。学校で会うことは無くなるけど、今度、時間あったら三人で遊ぼうぜ――しゃべったら、喉渇いた。自販機でなんか買ってくるわ。何が良い?」
「ありがとう。アクエリよろしく」
「アタシ、缶コーヒーね」
と、アキがアクエリ、シナミが缶コーヒーと希望を伝える。
オレは公園から自動販売機を探しに公園から出た。
灯りのすくない道、小走りで自動販売機を探す。どうでもいい時はいくらでもあるのに、いざ探すとなると見つからない。
ようやく、一台の自動販売機を見つけた。明かりのせいで虫がたかり、あまり触りたくないようなヤツだ。正直、嫌だったが仕方が無い。
千円札を突っ込み、ボタンを押す。そんなときでも、オレはアキのことを考えている。
我ながら、アキに惚れてるんだな、と自覚する。
オレが始めての男でなくてもいい。それでもアキが好きだから。
あの机のラクガキ、書いたのは誰だ。オレがぶん殴ってやる。
あの時、アキの一軒を知っていたのは小数だ。ふと、オレは、おかしなことに気付いた。
そうだ、あの机のラクガキ。あれは誰が書いたんだろう? アキについてクラスの連中には一言も話していない。アキがデートしている時に偶然見られた。という可能性もあるが、それにしちゃタイミングが出来すぎている。
思い出す、保健所でのメールを。シナミからだった。オレはそのメールに返信し、アキのことを説明した。
つまり、知っているヤツは、オレと、アキ、そして、シナミしかいない。
――まさか……
オレは、公園へ向かって走った。
近付くにつれ、二人の声が聞こえてくる。
「アンタ、自分がどれだけ汚いか知ってんの?」
「シナミ……、どういう意味……?」
「逆タマねらって、捨てられて、その舌の根も乾かないうちに、今度はシュンを泣き落とし? ふざけんなよ。私、シュンのことずっと好きだったのに」
「ちょ、ちょっとまってシナミ……」
「アンタなんて、アンタなんて! HIVで死んじゃえばいいのに!」
二人の姿が見える。キレたシナミがアキを突き飛ばす。
「シナミ、止めろっ!」
オレは叫んだ。しかし、シナミは止まらなかった。
アキが倒れる、アキのお腹には、オレの子供が……。
公園のアスファルトの上にアキが倒れこんだ。
「シュン……」
シナミは、オレを見ている。悲しげな瞳で俺を見ている。だが、オレは、シナミには目をくれず、アキを助け起こす。
「大丈夫か、アキ」
アキは何も応えない。子供は、どうなった。無事なんだろうか?
肩を貸して歩き出す、オレはシナミに背を向ける。
「シュンっ!」
ずっと、三人で仲間だと思っていた。でも、その想いは裏切られた。
もう、シナミと話すことは何もない。話したくない。シナミは、保健所でオレがメールを返したときには既に、俺達の敵だった。アキと、オレの子供を傷つけたシナミは、友達でもなんでもない、ただの侵略者に過ぎない。
後ろにシナミの視線を感じる、しかし、オレは振り向かない。二度ともシナミと会うことはないだろう。