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宝くじ当選者、欲に負けて借金しましたが今日も出勤します

作者:マルコ
相沢湊(32)は、いつもの木曜にふいに“当選”を引き当てる。口外はしない――そう決めたはずが、まずは白いスニーカー、香りの強いコロン、映える部屋、撮影スタジオ……と「見せたい自分」を作り替える消費に手が伸びる。SNSの反応、会員制サロンの招待(鷹野澪司)に背中を押され、生活は静かに“上方固定”されていく。

家族(姉・沙耶香、両親)や親友・高木陽介、親戚たちからは「つなぎで」「名義だけでも」と無心が続き、断れば“冷たい”と責められ、応じれば境界が曖昧になる。やがて湊は投資にも触れる。最初は“勝つ”。その成功が「自分はそちら側だ」という錯覚を生み、固定費と承認欲求の支出はさらに増大。支出>成功のカーブが見えぬまま、支払日だけが規則正しくやって来る。

ポストには「おめでとうございます」の白い封筒が届き、やがて**茶色い封筒(督促)**が混じる。職場や地元掲示板には“金持ち疑惑”が流れ、祝福は嫉妬と詮索に変わる。名義を貸した高木との関係はきしみ、家族とも決裂。人間不信は、鍵を増やしても心の隙間風を止めてくれない。

そんな中、カフェ店員の水瀬玲は「説明じゃなくて状態を」と湊に告げ、「時間の予算(歩く・味わう・寝る)」を教える。湊はまず、逃げずに働くことへ戻る。短期の肉体労働から、日々の汗と生活のリズムを取り戻し、税理士・佐伯の助言で「連絡→謝罪→支払い」の順番を覚え、人間関係を一つずつ結び直す。

鷹野の甘い声は遠のき、高木とは“貸し借り”ではなく“見守り”に再定義。白い封筒の出所は、向かいの母・川島彩の善意の誤解だったと知れ、世界は少し人の顔を取り戻す。借金は残る。けれど、朝の匂い、結び直した靴紐、よく眠れる夜――働く日の手触りが、湊の芯になる。

「足りないけれど、足りるように生きていく」。
当選から転落、そして再出発までを、数字ではなく関係と言葉の選び方で描くヒューマンドラマ。

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