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杜撰な計画(後編)

「前原さんをビルの屋上から突き落とす時、猿轡を外して、手足の拘束を解きましたよね。まあ、そうでしょう。猿轡がしてあって、手足を拘束されていると、誰も事故や自殺だなんて思いませんからね。前原さん、突き落とされる時に、『助けて~』と悲鳴を上げました。それを聞いていた人がいたのです」

「えっ⁉」と石橋が驚く。

「ビルには夜警がいるし、残業していた人だっていた。あなた、彼女が悲鳴を上げるなんて思っていなかったのでは?」

 石川が口を挟む。「被害者が黙って殺されると考えると思ったのですか? テレビ・ドラマの見過ぎです」

「仮にだ、仮に、俺が犯人だとして、何故、永野を殺さなきゃあならないんだ? 動機だ。動機がないだろう」

「ほほう~そう来ましたか」と森は嬉しそうだ。

 詰将棋のように、石橋が打って来るであろう次の一手を予想していたのだ。森の嬉しそうな様子を見て、途端に石橋の表情が曇った。

「銀行で貸金庫の管理責任者だった永野さんは、顧客の現金を横領していました。それも、かなりの額を。横領した金をどう隠すか。永野さんは知恵を絞った。そして、金に困っていたあなたに目をつけ、あなたから個人情報を買い取った」

「・・・」石橋はぎゅっと口を結んだまま、何も答えない。そこまで知っていたのか⁉ とでも思っているのだろう。

「いくらで売りました? 十万? あなたは自分名義の多額の現金があることを知った。だけど、使えない。口座情報は永野さんが握っていて、暗証番号も分からない。カードもない。自分名義のお金が大量にあるのに使えない。金に困っていたあなたには、臍を噛む思いだったことでしょうね。お金を自分のものにするには、永野さんを殺すしかない。そう決めた。永野さんを殺害して、暗証番号を忘れました~カードを紛失しました~と言って、口座を横取りすれば、もともと、あなたの名義です。疑われることなく、お金を手に入れることが出来ます。

 大金を手に入れて、生活が派手になった永野さんは前原さんと不倫をしていた。あなた、永野さんを尾行して、そのことを知りましたね。前原さんに永野さん殺害の罪を被ってもらうことを考えた。そして、永野さん殺害の計画を立て、それを実行に移した」

「ふん!」と石橋が鼻を鳴らす。

 追い詰められているはずだが、何処か余裕を感じさせる。

「ダメですよ~そんな杜撰な計画じゃあ。穴だらけじゃないですか」

「そうか? あんたが提示した証拠は、どれも決定的なものじゃない。俺が殺したという証拠とは言えないんじゃないか⁉」

 石橋の表情から余裕が感じられたのは、まだ言い逃れが出来ると考えていたからのようだ。

「そうですね~」と森は楽しそうだ。

 石川には捕らえた獲物を弄ぶ肉食動物にしか見えない。そろそろ、潮時だ。森が石川の顔を見て、軽く頷いた。

 石川は胸ポケットから証拠品を入れた袋を取り出して、机の上に置いた。

「な、なんだ。俺の携帯電話じゃないか」

「ええ、そうです。あなたの携帯電話です。調べさせてもらいましたよ」と石川が言うと、石橋は懸命に記憶を(まさぐ)っているようだった。永野との通話やメッセージのやり取りが残っていなかったか考えているのだ。

 さて、森が最後の一撃を石橋に食らわせる。

「だから、言ったでしょう。計画が杜撰だって。携帯には位置情報が記憶されるのですよ。何時何分に何処に行ったか、全て記録されているのです。それが嫌なら削除するか、位置情報を記録しない設定にしておかなければならない。

 あなたの携帯電話の位置情報を調べました。あなた、永野さんが刺殺された時刻に現場にいましたね。そして、前原さんがビルから転落した時、あのビルにいたことが分かりました。偶然ですか? そんなこと、あり得ませんね。あなただ。あなたが、永野さんと前原さんを殺害したのだ!」

 森の激しい口調に、石橋はがっくりと首を追った。

「そうか・・・携帯電話の・・・位置情報か・・・」

 森が止めを刺す。


――あなたに犯罪は向きません。

思い付いたトリックの中から、今まで使い道がなかったアイデアを作品化してみようと始めた実験的作品だったが、本作辺りからトリックを考えながら作品を書くようになった。ショートショートだが、若干、事件や背景が複雑になっている。

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