生涯の伴侶ではない(後編)
「あなたがた顔見知りだったのではありませんか?」
「顔見知り⁉ いいえ、知らないやつです」
「コンビニ強盗は売上金を盗む為の狂言だった。あまりに早く警察官が駆け付けて来たものだから、コンビニに籠城する羽目になってしまった」
「共犯だったのなら、あの男を殺す必要なんてないでしょう」
「殺す? 殺すことが目的だったのですね」
「言葉の綾ですよ。大体、コンビニの売り上げなんて、たかが知れています。人を殺して奪うほどの額じゃない」
「動機が別のところにあったとしたら?」
「言ったでしょう。あの男なんか知りません。あの日、店で初めて会ったのです」
「ええ。あなた方二人、直接、知り合いではなかった。随分、調べましたが、いくら調べても、二人が知り合いだった形跡はみつかりませんでした」
「そうでしょう。当然です」
「なかなか接点が見つからずに苦労しましたよ」
「接点も何も、見ず知らずの他人です」
「佐田真美さん。お知り合いですよね?」
「・・・」急に塩田が黙り込んだ。
石川が、やれやれといった顔をする。やっと本題に入るようだ。
「あなたの彼女ですよね。いや、元カノと言った方が良いのかもしれませんね。彼女が接点でした」
「元カノなんかじゃない!」と塩田が激昂した。だが、森は追及の手を緩めない。「彼女の交友関係を調べました。そしたら、いましたよ。菊池将仁が。彼、仕事は飲食店勤務になっていますが、実際は何をしているのか、よく分からない、怪しい人物です。半グレ集団のメンバーだという話もあります。女性は時として、そういう危ない男に惹かれてしまう」
「違う! あいつは真美の彼氏なんかじゃない‼ 僕の彼女だ」
「佐田さんからお話を聞いて来ましたよ。あなたとは別れたと言っていました。それでも、しつこくつきまとってくるので、ストーカーの相談を警察にしようかと考えていたと言っていましたよ」
「嘘だ! 真美は俺のことを愛している」
「あなたは、上手いもうけ話があると言って、菊池に近づいた。コンビニ強盗を装って、売上を着服しようと持ち掛けたのでしょう。その実、恋敵を亡き者にしようと計画を立てていた」
「俺は何も知らない! やつは強盗犯だ。正当防衛なんだ」
「あなたもご存じの通り、菊池はよくない連中とつるんでいました。彼ね。そういう連中に言ったそうです。金蔓をつかんだって。コンビニ強盗を装って、売上金をいただくんだって。仲間に言ったそうです。大丈夫。コンビニの店員が仲間なので、つかまる心配はないってね」
「えっ・・・」塩田が呆気にとられる。
計画がバレバレだった。何て馬鹿なやつだったのだとでも思っているのだろう。
「菊池にコンビニ強盗をやらせ、人質になり、彼を殺害して正当防衛を主張する。それが、真の、あなたの計画だった。何せ証人は警察官だ。これほど心強い目撃者はいない。そう考えたのでしょうが、犯罪なんて割の合わないものです。あなたと菊池が共犯であることが明らかな以上、正当防衛が認められる可能性は限りなくゼロに近いと考えて構わないでしょう」
森はどこまでも冷静だ。
「そ・・・そんな。真美は・・・あいつと別れなければならないのか?」
「恋は盲目と言いますが、若い内は、周りは見えないものです。佐田さんは、今のあなたにとって全てかもしれませんが、生涯の伴侶ではありませんよ。あなたは、いずれ、もっと素晴らしい女性に出会えたかもしれない。それなのに、人生を棒に振ってしまいました」
森の言葉に、塩田は顔を歪めると、わっと机に突っ伏して泣き始めた。自らが犯した罪の重さを、やっと認識したのだろう。
長編小説で使うには、ちょっと足りないトリックだったかも。