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備忘録

作者: 遺書

すごく読みづらいです。ごめんなさい。

死ぬならふたりで。そういえばこれは、自分が言われて嫌な言葉だった気がする。まさか簡単に自分の口から出る日が来るなんて。希死念慮と付き合って、もう人生の半分になる。悪い方へ働くことが殆どだったが、わずかばかり善い方へ働くこともあった。どうせ死ぬのだから、失敗したら死ねば良いだけ、というふうに。人生のうち1番大きな選択をした時、失敗したら死のうと思っていた。成功してしまったので、生きている。同じく成功した友達は、行った先で死を選んだらしい。らしい、というのは人伝に聞いただけなので、まだ信じていない。もう何年も経つのに、未だに夢に見る。自殺美学の風潮は確かにある。表面上は必死で生きているようなのに、どこか暗いところでまことしやかに囁かれているそれは、他の何よりも甘美な香りを漂わせている。いつまでもこの思想が無くならないのは日本人が賢いからこそ、感受性豊かだからこそ、誰かが吹聴して回るそれに魅了されてしまうのかもしれない、と思う。自分はきっと、それに魅せられてしまったうちのひとりだ。悩みも後悔も努力も、そのどれもが死に値するものではないのに、ただ自分の人生の最期を美しく飾りたいがために自決を選択したがっている。いや、少し違う。死ぬ権利があると考えている。人は生まれてくることを選べない。実際自分は母親から出産時の話を聞いて悔しくて泣いたことがある。生まれた時から死に損ないだと思って生きてきた。最期こそ、自分で選んで然るべきと思っている。いつでも死ねるような気がしている。太宰が酒に酔った時、作家仲間を2件目に誘うように自殺に誘っていたのと似通ったものがある。まるで遊びのように考えているのかもしれない。母はよく死にたいと口にする。そうすると自分は、訳もわからず苦しくなる。何度も狂った頭でこの喉笛か腹を切り裂いて死んでやろうかと思った。他人を殴る拳には迷いが生じるのに、自分を殴る拳にはそれが滲まないことを知った。それでも生き続けているのはやはり、母が死ぬまではという思いが確かにあるから。何故かはわからない。一度ならず二度も殺されかけているのに、母親らしいところはあまり思い当たらないのに、その言葉に今も絶えず心を蝕まれ続けているのに、どうしてか、子供の死んだ母親にしてやりたくないと思っている。親不孝という言葉が怖いのかもしれない。たった一度、愛紛いの言葉を吐かれたことがある。求め続けたそれはいとも簡単に、まるで当然のことのように空を舞って、消えた。あまりに突然のことに乾けた笑いが口をついて出て、電源の切れた機械のように身体が動かなくなった。うまく受け取れなかった。なのに、覚えている。母はもう忘れているのだろう。母が当然のことのように言ったそれは、母の中で確かに当然のことだったのだろう。いつからそうだったのだろう。居る人間を、居ないように扱うのが当たり前の家庭だった。その疎外感を受けた時のことを、強く覚えている。確かにその時期があったように思う。家族というテーマの作文が書けなかった。作文は得意だったのに、家族というものが題材になると、途端に筆が止まった。当たり障りのないことを書いた。嘘をつくのは心苦しかった。母に軽蔑されるのが怖くて、なのに本当のことは書けなくて、時には泣きながら書いた。この嘘が評価されないようにと、なるべく不出来に書いた。課題を家でできるような環境でなくて、いつも学校で居残りをさせられてやっていた。その方が都合が良かった。一度、やればできるのにどうしてやらないのと言われて、泣いてしまったことがある。家に勉強のできるような机がなかった。いつも怒号と殴る音が響く家だった。寝ることだけが救いだった。学校に行けば怒られるのはわかっていたけれど、行くしかなかった。家に帰りたくなかった。箱庭のような街で、とびきりの地獄のような家に住んでいた。誰にも知られたくなかった。言ってはいけないと思っていた。家からも、学校からも、逃げられなかった。壊れるのは当然で、むしろよくやったと褒められても良いような気さえする。先に行ってしまった友人は、自分とは全く違う人間だった。救ってやれなかった。夢に見るということは後悔しているのだろうか。忘れたと思った頃に、決まって夢に出る。いつも楽しそうに笑っている。その度にやっぱり生きていたんだと思う。目が覚めて寂しくなる。夢の中のそいつは、俺を連れて行こうとはしない。ただ、はしゃいでいる。楽しくやっていると伝えに来てくれているのだろうか。わからない。確認するのも怖い。何もかも止まったままだ。踏み出せずにいる。随分と年上になった。やっと同じふうに話せる気がする。子供すぎた俺をわかっていただろうか。聞ける人はもういないのに。

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