闇の中
シアトルの地下都市での生活が始まって数日。配給された食事は簡素で、硬いパンと薄いスープが中心だった。ある昼下がり、藤田茉由がスープをひと口飲んで顔をしかめた。「うわっ、ゲロまず! これ食えるの!?」と大声で文句を言うと、隣にいた悠斗が軽くたしなめた。「文句言っても仕方ないだろ。戦争なんだから我慢しろよ」茉由は「悠斗って真面目すぎ!」と膨れっ面をしたが、すぐに笑い合った。そんな他愛ない会話が、地下の重苦しい空気を少しだけ和らげた。
しかし、その平穏は長く続かなかった。夕方、地下施設のスピーカーから緊急放送が流れた。「連邦各都市が騎士団国軍のミサイル攻撃を受けました。市民は避難を続けてください」シアトルを含む西海岸の都市が次々と標的となり、戦争が正式に始まったのだ。遠くで爆発音が響き、地下の壁が微かに揺れた。生徒たちは顔を見合わせ、恐怖が広がった。
戦争の開始とともに、配給の数と量がさらに減った。1日1食が当たり前になり、空腹に喘ぐ生徒が増えた。普段から少食に慣れている悠斗はなんとか耐えられたが、茉由や優香は「腹減った……」と呻き声を上げた。優香は「屁も出ねえよ」と冗談を言おうとしたが、力なく笑うだけだった。
その夜、地下で突然の停電が起きた。真っ暗な空間に生徒たちの悲鳴が響き、パニックが広がった。悠斗が目を覚ますと、隣のベッドで茉由が震えていた。「悠斗、起きて! トイレ行きたいんだけど……暗くて怖いよ。連れてってくれない?」彼女の声は切実で、尿意と恐怖が混じっていた。悠斗は眠気をこらえ、「しょうがないな」と手を差し伸べた。
懐中電灯の薄い光を頼りに、二人はトイレへと向かった。茉由が用を足している最中、突然ミサイル警報が鳴り響いた。けたたましいサイレンが地下に反響し、壁が揺れるほどの衝撃が伝わってきた。「うわっ! 何!?」茉由はトイレの中で悲鳴を上げ、そのまま泣きじゃくり始めた。「やだ、やだよ! 死にたくない! 悠斗、助けて!」彼女の声は震え、涙が止まらなかった。
悠斗はトイレのドアを叩き、「茉由、落ち着け! ここは地下だ、安全だよ!」と叫んだ。警報が止むのを待ち、ようやく茉由を連れ出した。彼女は泣きながら悠斗にしがみつき、「もう嫌だよ……戦争なんて」とつぶやいた。悠斗は彼女の背をさすりながら、「俺がいるから大丈夫だ」と励ましたが、心の中では布哇のヘルガや他の仲間たちの安否が気掛かりだった。
停電が復旧しないまま、地下都市は闇と恐怖に包まれた。戦争の足音は、悠斗たちの日常を容赦なく踏みにじっていた。