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太陽と星  作者: そーゆ
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忍び寄る毒牙

アメリカ連邦共和国のシアトルは、春の終わりを迎えていた。桜ヶ丘学園の生徒たちは、いつものように授業や寮生活を送っていたが、空気には不穏な緊張が漂っていた。ある朝、学園の広報部が緊急ニュースを伝えた。「ロッキー山脈以東のアメリカ帝国、テキサス人民国、救国政府が連合を結成。日本帝国連邦の支援を受け、アメリカ騎士団国の脅威に対抗する協定を締結」との大見出しが新聞に躍った。記事には、騎士団国の「オペレーション・ヴァルハラ」が周辺国への侵略と連邦内の亡命者狩りを目的としていると記載されていた。


ニュースは瞬く間に学園中に広まり、生徒たちはざわついた。「騎士団国って怖いよね」「スパイが近くにいるかも」と囁き合い、恐怖が広がった。各地でスパイの摘発が相次ぎ、連邦政府は警戒態勢を強化。悠斗は布哇県にいるヘルガの安全を案じつつ、学園内で何かできることはないかと考えていた。


そんなある昼下がり、事件は起きた。学食で藤田茉由がスープを注文し、ひと口飲んだ直後、顔をしかめてテーブルに突っ伏した。「うっ……気持ち悪い」と呻き、すぐにトイレに駆け込んだ。同時に、スープを飲んだ他の女子生徒数人も嘔吐や下痢を訴え、医務室は一時騒然となった。悠斗は慌てて茉由を支えに行き、「大丈夫か!?」と声をかけると、彼女は青ざめた顔でうなずいた。「何か変な味がした……スープ、まずかったよ」


医務室で検査を受けた結果、スープに微量の毒物が混入していた疑いが浮上した。幸い量が少なく、重症者はいなかったが、学園はパニックに陥った。悠斗は茉由の手を握りながら考え込んだ。「学食のスープに毒……これ、騎士団国のスパイの仕業じゃないか? 給食センターにまで手が伸びてるのかもしれない」


その夜、悠斗は寮の運営委員会に直談判した。「学園の提携先の給食センターを調査してほしい。スパイが潜り込んでる可能性がある」と訴えると、運営側の教師は渋い顔をした。「証拠がないのに、そんな大騒ぎはできないよ」「でも、生徒が危険にさらされてるんです!」悠斗の熱意に押され、教師は渋々調査を約束した。


翌日、学園は一時的に学食を閉鎖し、外部からの弁当で対応することに。茉由は回復しつつあったが、「もうスープ見るのも嫌」と弱々しく笑った。悠斗は彼女に言った。「ヘルガを守るためだけじゃなくて、俺たちも戦わなきゃいけないみたいだ。騎士団国の手、想像以上に長いよ」


遠く布哇県では、ヘルガが穏やかな日々を送りつつも、シアトルからの不穏な便りに心を痛めていた。学園の毒物事件は、騎士団国の「ヴァルハラ」が静かに、しかし確実に進行している証だった。

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