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野菜オタクの苺ちゃんは手に負えない~お好きなお野菜はなんですか?~  作者: 山吹祥


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第30話 私はイチゴが食べたい(3)

 三日後の日曜日。お昼前。


 私たち野菜部は、活気溢れる大船仲通り商店街を回り、餃子のメイン具材となるひき肉と、その後に食べるケーキやお菓子の買い出しを終え、人混みを掻き分けながらパーティ会場となる栃尾邸へ向かっている。


「見て見て! あそこに餃子屋さんあるよ~!」

「あ、こら! 夏玉さん、フラフラしない!」


「ふふ、どのような餃子があるのか参考に見るのもいいかもしれませんね」

「秋山さんまで!? ちょ……いっちゃん、ごめん! 私、二人と一緒に行ってくるね」


「よろしくね」と菜花ちゃんに言って、一人大人しく歩く白菜しろなちゃんの隣へ並ぶ。


蜀黍こがねは普段通りだけど――」


 白菜ちゃんは先へ進んでいく木之香このかちゃんを見て、


「珍しくはしゃいじゃって」


 と、笑みを零した。


「白菜ちゃんは行かなくてよかったの?」


 私としては木之香ちゃんの後を追い掛けない白菜ちゃんの方が珍しいと思った。


「シロナは濡れたくないから」


 白菜ちゃんに釣られて見上げた空はどんより曇り模様だ。

 昼過ぎから夕方まで雨が降ると、お天気お姉さんが予報していた。


「それにあの様子だと、木之香も蜀黍も帰りの電車で寝るから。それなのにシロナまではしゃぎ疲れて寝ちゃったら大変でしょ」


「さすが幼馴染だね」


「幼馴染になるまではまだあと一年よ。あと蜀黍は幼馴染じゃなくて友達」


 私は心の中でさすが幼馴染だね、ともう一度だけ呟いた。


「苺、あれ――春乃が安売りされているみたいよ」


 白菜ちゃんが指差す方へ顔を向けると、青果店の一角で『菜の花』が一束150円で拡販陳列されていた。

 通常298円から398円で店頭に並ぶと考えたら、確かに大安売りだ。

 でも今は四月の中旬。

 食用菜の花の季節を考えたら終わりの時期でもあり、売っている方が珍しい。

 食べたいけど、果たして美味しいのだろうか――


「――白菜ちゃん、ちょっと寄ってもいい?」


 菜花ちゃんは菜の花料理が好きだし餃子の具にしても美味しいから、良い物なら幾つか購入したい。


「ちょっとならいいんじゃない? 最悪、折りたたみ傘もあるし」

「ありがとうっ!」

「別に……シロナは写真撮って春乃に送ってやろ」


 携帯を構える白菜ちゃんの隣で私は菜の花を物色する。

 花は咲いていない。

 色も青々として、鮮度も良く美味しそうだ。


「ねえ、白菜ちゃん。十束くらい欲しいんだけど買い過ぎかな?」


「十束がどのくらいの量になるのかイマイチ想像つかないけど、ちゃんと食べるなら別にいいんじゃない?」


 白菜ちゃんの後押しで、菜の花とパプリカをルンルンで買物カゴに入れて、会計待ちの列へ並ぶ。


「苺は本当に野菜が好きなのね」

「ふふふ、私にとって野菜とは『No Vegetable No Life.』つまり、野菜がなければ生きられない。だよ!」


「どこかで聞いた覚えのあるキャッチコピーね」


 白菜ちゃんっていい突っ込みするけど、どこで鍛えたんだろう?


「白菜ちゃんは、少しも野菜に興味が持てない?」


「そうね……前に職員室でされた質問の答えの補足になるけど――」


 好きなお野菜は? に対する白菜ちゃんの返答は「興味ない」の一言だけだった。


「――シロナは野菜だけじゃなくて食べる行為に興味、というか無関心に近いわね」


 タイミングが悪く会計の順番となったため、ここで一旦会話が途切れる。

 テキパキ対応してくれた女性店員へ「ありがとうございます」とお礼を伝え、袋詰めをするサッカー台まで私と白菜ちゃんは流れる。


「自慢じゃないけど、シロナの親って超金持ちでさ」


 私が何か言う前に「ほら、そっちの袋持つからよこしなさい」と、白菜ちゃんは豚ひき肉と餃子の皮の入った買い物袋を持ってくれる。


「ありがとう」とお礼を伝え、野菜の絵柄が印字されたマイエコバッグを広げると、白菜ちゃんは表情を一切変えず、まるで明日の天気を告げるかのように続ける。


「苺もドラマや漫画とかで見た事ない? 金持ちの家の子が学校から帰ると誰もいなくて、テーブルにはメモ書きとお金だけがポンと置かれている状況」


「そうだね、タイトルは忘れたけど菜花ちゃんの部屋にあった漫画か何かで読んだ記憶があるかも」


「春乃は少女漫画とか好きそうよね――」


 一喜一憂する菜花ちゃんでも想像したのか、白菜ちゃんはクスっと笑った。


「――でさ、シロナの家がまんまそれなわけ。朝も夕も家族で揃って食卓を囲んだ記憶がないのよね。木之香とはクラスも違ったし、小学校でシロナは浮いていたから給食も別に楽しい時間じゃなかった。そんなこんなで、シロナは野菜だけでなくて『食』に無関心で栄養さえ摂れたら十分って考え……だったわ」


「だった、てことは今は違うの?」


 買物カゴを返却して白菜ちゃんと一緒に退店する。


「苺が野菜バカなおかげで木之香も笑ったじゃん?」

「白菜ちゃんもね、楽しそうに歌ってくれたよね」


「うっさい!」白菜ちゃんは私の肩にドンと肩をぶつけてくる。

「やったなぁ」とお返ししようとするけど、白菜ちゃんは半歩分距離を空けた。


 ぽっかり寂しい空間を見つめていると、白菜ちゃんは「まあ、だからさ?」と言って、離れた距離と同じだけ私に近付いた。


「木之香だけじゃなくてシロナも今日はちょっと楽しみ……よ」


 ツンデレ風デレじゃない。これは、もはやただのデレだ。

 今度は優しくトン――と、肩を当ててきた。


「野菜を美味しそうに食べる人にかけては、私の右に出る者はいないからね。任せてよっ!!」


 文字通り胸を叩き、正面に見える建物の裏手に自宅があることを告げる。

 すると白菜ちゃんはハッとしたように「てか、シロナでも餃子の皮包めると思う?」と慌て出す。


「失敗しても私が美味しく食べるから大丈夫だよ」

「それはシロナが食べるけど……失敗しても笑わない?」


「白菜ちゃん、餃子パーティは失敗も醍醐味なんだよ」

「? 綺麗に包めた方がいいんじゃないの?」


「もちろんっ。でもね、包む人によって個性が出るから面白いし、好きな具材をつめつめして、それを誰が食べるのかってワクワクも楽しかったりするんだよ。うちではロシアンたこ焼きならぬロシアン餃子とかもやって、ちょっとした遊びも入れていたかな」


「ふーん……ワサビやカラシでも?」


 私はにっと頷く。

 笑住えすむが大葉に紛らわせて大量のワサビを包み、それをお父さんが食べて目頭を押さえ悶絶していた姿を懐かしいなと思い出す。


「チョコや果物を入れたらクレープみたいにもなりそうね」

「せっかくだから実際にいろいろ試してみない? 大船栃尾青果市場では、野菜以外にも旬の果物を取り扱っているしね――」


 どうぞ、とばかりに私はお店の入り口へ向けて手を広げる。


「追加で何を買うのかは、木之香たちと合流してみんなで相談してから決めたいわね……それも楽しみの一つってことなんでしょ?」

「ふふふ~、段々と白菜ちゃんも分かってきたねぇ~」


「誰かさんの影響でね!」

「ふふー、褒め言葉と受け取っておこう! あ、菜花ちゃんたちも来たみたい」


 少し先にある曲がり角から三人がひょっこり姿を現したのが見えた。

 手を振り居場所をアピールしようとしたが、白菜ちゃんが「ところで」と話を振る。


「苺と春乃さ、ケンカでもした?」

「んー、どうして?」

「見てたらそんな気がしただけよ。シロナの勘違いなら別にそれでいい」


 やっぱり、白菜ちゃんは周りをよく見ているんだなぁ。


「木曜からかな? ケンカとかじゃないんだけど……菜花ちゃんに元気がないように見えるんだけど、白菜ちゃんは何か知らない?」


「どうしてシロナに訊き返すのよ」


「だって……菜花ちゃんと白菜ちゃん、仲良しさんでしょう?」


「は? 別にシロナと春乃は仲良し……いや、客観的に見たら仲良しに該当する?」


 白菜ちゃんは「でも」や「けど」とブツブツ独り言を呟き歩き始める。

 夢中になると体が動くタイプなのかな?

 ひと先ず、逸れて迷子にならないため白菜ちゃんの手を繋ぎこの場に留めておく。


「ま、兎に角……って、どうして手繋いでんのよ?」

「迷子にならないため?」

「苺は方向音痴なの? どうして家の目の前で迷子になるのよ?」


 本当に不思議そうに首を傾げる白菜ちゃんはアホかわいい。


「菜花ちゃんを元気にさせる方法を思い付けないって意味では、迷子かもしれないね」


「苺ですら迷子なら、知り合ったばかりのシロナが知る訳ないでしょ」


 金曜の朝は迎えに来てくれたしお昼も一緒に食べた。

 申請書を提出するのも付き合ってくれた。

 昨日の夜は通話だってした。

 だから私の勘違いかもしれないけど、菜花ちゃんはこの間から私に壁を作っているように感じる。


 だって、接触する回数が明らかに減っている。


 今までなら、私が訊かなくても何でも話してくれていたんだけどなぁ。

 こういう時ってどうしたらいいのかな。


 私だったら菜花ちゃんがいて、妹の笑住や部活のみんなと一緒にご飯食べられたら元気になれるんだけど。


「まあ、シロナと木之香もよくケンカするけど、今もずっと仲良しだから苺と春乃の二人も大丈夫でしょ」


「そうだよね。あとで菜花ちゃんとしっかり話してみるよ」


「それがいいわ!」


「ありがとう、白菜ちゃん」


 白菜ちゃんはふんと鼻を鳴らすと、どこか挑発的な目を向けてきた。


「てか、苺こそどうなのよ?」

「うん?」


「苺は、果物のイチゴが嫌いなんじゃないかって聞いてんのよ」

「期待を裏切るようで悪いけど――。イチゴも野菜の一種だからね、当然好きだよ」


「ぶれないわね。ある意味で期待通りよ」

「ふふ、ありがとっ! でもね――」


 店頭から外れた場所で立ち話する私たちの場所へ到着した菜花ちゃんが「いっちゃん!」と、呼び掛ける。


「どこ行っていたの……て、まさか二人まで寄り道してきたの!?」


 菜花ちゃんに手をガッチリ掴まれた蜀黍ちゃんと木之香ちゃんは、連行されている人みたいなのに何故かニコニコとご満悦だ。


 私も負けじと満悦顔で、手に持つエコバッグの間口を広げ菜花ちゃんへ見せる。


「菜の花がね、安くていっぱい買っちゃったよ~! アク抜きも不要なくらい鮮度も抜群だから、餃子はもちろんサラダにして食べようねっ」


「そ、そんなに嬉しそうにされたら毒気抜かれちゃうよ。もう……」


 菜花ちゃんはふっと肩の力を抜き二人を解放した。


「ふーちゃん、寄り道してずるいんだ~?」

「ずるい、ずるい~! シロちゃんばっかりずるいんだ~!」


 枷の外れた二人はすかさず白菜ちゃんへ絡みだす。

 白菜ちゃんは「あーもう」と鬱陶しそうにしながらも、


「じゃ、みんなで苺が働く青果店に寄り道しようじゃないの!」


 と、お店へ指を差した。


「いいね~、楽しそう~!」

「苺さんが普段勤める野菜屋さん……これは見に行くしかないですね!」


「あ、こら!」と、さっき菜花ちゃんが発したセリフが白菜ちゃんから飛び出す。


「他のお客様のご迷惑にはならないようにねー?」


 注意する私に向けて、白菜ちゃんがビシッと指を差す。


「シロナが見てくる! その間に……二人は話し合いなさい!」


 気を使わせちゃったかな、三人へ手を振り――私は菜花ちゃんへ向く。


「えっとさ、その……私、また菜花ちゃんに何かしちゃったかな?」


 下手くそな切り出し方だろうか。

 もっと上手な訊き方があった筈。

 そう嘆きつつ菜花ちゃんをジッと見つめる。


 すると菜花ちゃんは重ねた視線を外し、右から左へ目を泳がせた。


「……いっちゃんに、話したいことがあるの」


「もしかして、水曜日に言ってた苦い事実を告げられたらどうするって話?」


 唯一あった心当たりに対して菜花ちゃんは、


「パーティが終わった後で……いっちゃんの時間をもらってもいい?」



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