第28話 私はイチゴが食べたい(1)
水族館を観て回れば魚が食べたくなる。
青果店を回れば野菜が食べたくなる。
きのこ組を見ていたらキノコが食べたくなる。
何も不思議でない、ごくごく当たり前で普通の変哲もない欲求を語っただけなのに、友達を抱腹させた日の翌日。
木曜日。
私は静ちゃんこと【私立鎌倉日坂高等学校理事長】大道寺静香様と、真剣な顔で見つめ合っている。
机を間に挟み、椅子に座る静ちゃんの前に立ちジッと待っていると――
「――つまり。苺ちゃんが私の娘になる。今の質問はそういうこと?」
まったく違うんだな。
昨日一緒に野菜料理を食べられなかったから、その代わりに登校後お弁当を持参した。
渡して「はいさよなら」は寂しいし静ちゃんもお茶を出してくれたから、世間話として「みんなでワイワイ楽しめる料理って何かありますか?」と訊いてみた。
静ちゃんは「ホームパーティか何か?」と訊き返し、これに私が頷いただけだから娘どうのこうのとなった理由が謎だ。
「静ちゃんは確かに私の保護者みたいな人ですけど、親というよりはお姉ちゃんに近い感覚ですね」
「姉……か、それも悪くないわね。ねぇ、苺ちゃん。試しに呼んでみてもらえない?」
私は、私に甘える時だけに見せる笑住を思い出し、首を斜め9度に傾げ「静お姉ちゃん?」と呼んでみた。
ちなみにお母さん曰く、9度は自然に可愛く魅せる絶妙な傾き加減らしい。
試してみようと考えることすらしなかったけど……あ、これ、中々に恥ずかしい。
してみたことで気付いたけど私には無理だ。
笑住だから許される行為だ。
私には耐えられない。キャラじゃない。
見苦しい物を見せたせいで、静ちゃんが机に突っ伏し体を震わせてしまっていることが何よりの証明だ。
「い……いいものね。私はこれから苺ちゃんの姉路線で攻めていくことにするわ」
今までは何路線だったのかな?
分からないけど終点まで長い旅路になりそうだということは分かる。
「笑住は私の作る餃子が好きだから――」
と、取り出したウェットティッシュで、起き上がった静ちゃんの口の端をチョンチョンと拭いつつ、話の軌道を元に戻そうと試みる。
「――うちではお祝い事があれば餃子パーティをよくするんですよ。菜花ちゃんの家は焼肉やお寿司とか外食するんですけど、静ちゃんはどうですか?」
「餃子の皮を包むのって簡単かな?」
試みは失敗に終わった。と思いきや「私も外食かな」と軌道修正が叶う。
「苺ちゃんには知られているけど、私は去年まで料理をしてこなかったからね」
静ちゃんは「んー」と唸る。
それから「ちょっと前の頃だけど」と続ける。
「大学生の頃にバーベキューや鍋、手巻き寿司にタコ焼きもしたかな? あとは変わり種になるけどタコスも楽しかった記憶があるわね」
タコスかぁ……アリかな?
「どれもこれも楽しそうですけど、特にタコスが気になりますね」
んーでも、みんなで食べるなら餃子もしくはたこ焼き辺りが無難かな。
「苺ちゃんが最近仲良くしている子たちと考えているなら、餃子がいいんじゃない?」
「ですかね……うん。静ちゃん、ありがとうございます。考えがまとまりました」
「お役に立てて何よりです。春乃さんたち四人は部員になってくれそう?」
「顧問が見つかってから改めて誘ってみようかなっては思っているんですけど……」
今週の頭から休み時間の合間で一年生の担任教師に訊いて回ったが、全員に断られてしまい、肝心の顧問探しは難航している。
一層のこと静ちゃんに甘えちゃおうかな――
「――苺は、お姉ちゃんには顧問になってと訊いてくれないの?」
顔を上げたら、とてもキュートな静お姉ちゃんが首を斜め9度に傾けていた。




